第191話 弟の好きなキャラは「うっ、心臓が」らしい
「お願い、弟……。私の手をぎゅっと握っていてね?」
コスプレ会場を後にし、再び会場へ戻る。
先ほどの続きのブースを回るわけだが……ここから先は「バスケの王子様」ブースなのである。
暴走しない自信はない。
「えっ?」
すでに恋人つなぎしているのに、今更何を言っているのだろうと弟は驚いたのかな。変な声出してるよ。
そりゃそうか。説明しないとな。
「私の好きなジャンルに突入するので、その……」
「わかったよ」
おお、分かってくれたか。
弟だって、好きなジャンルで暴走する気持ちは当然知ってるから、そりゃ分かるか。
「姉さんが、僕以外の男に目が行かないようにしっかり手を握っていればいいんだね?」
「ん?」
「あ……その……」
「ふふっ。すっかり、弟キャラになりきった発言だね。レイヤーさんたち、皆すごかったもんね、なりきり具合が」
「……そうじゃないけど……僕は……。いや、なんでもないです」
何?
そうじゃないって、他のレイヤーと一緒にされたくないって?
正体を隠すためにしているんだから、レイヤーとは違うって?……。まぁ、確かに、その、私も……そのキャラクターが好きすぎてコスプレをしている人と同じかと言えば、違うので……。
弟もそういう気持ちなのかな?
でも、私の知らない弟と姉のなり切りポーズとか知ってたし……。
……ん?
弟は、同人誌を家に置けないとはいえ、漫画とかアニメとかはオッケーな環境なんだろうか?
スマホでコスプレ写真も撮っていたし……。あ、スマホが自由に使えれば、漫画もアニメも、ある程度カバーできるか。
有料サイトに登録さえできちゃえば、ある程度どころか、不自由ないんだっけ?
……。
ぐぬっ。
学校で語らないために正体はお互い秘密にしておこうというのは早まったか?
学校で仲良くできれば……、休み時間とかに空き教室で二人きりになって、スマホで漫画とかアニメを見せてもらうとかできたんじゃ?
弟と二人きり?
……。
だ、だめだ!
つまりそれは、ボッチではないが、二人ボッチじゃないかっ!
せっかく友達になった芽維たんや皐月たんや、相原さん相良さん、それに田中くんに、あ、あと、相模くんや轟くん、皆ともっと仲良くなるための貴重な休み時間をアニメや漫画に費やしては……。
ぐぐぐっ。
やっぱり、ここは、イベント会場を出たら見知らぬ二人のままでいた方が、私たちのためだ。
弟は、私に言われた通り、握る手に力を込めてくれた。
よし、暴走仕掛けたら、止めてもらわないと。
「きゃうぅぅーーーっ!」
やっぱり、こっちの世界の「バスケの王子様」も多少の違いはあるけどウハウハですわーっ!
いやぁん、京×都本だ!こら、見せろ、見せやがれー!
はふっ、はふっ、はふっ、
このテーブルに並んでいる本を1冊ずつ……あっ、財布がない!
財布、財布、弟、財布を!
ぎゅっと握られた手がツンツンと引っ張られる。
心なしか怒ったようにも見える弟の顔。
いや、表情は見えないんだけど……そういう風に感じるだけで。
ご、ごめん。暴走仕掛けてるね。止めてくれてありがとうです。
手をつないでいるので、同人誌を手に取って開いて読むことができないので、表紙だけで内容判断するしかないのです。
あああ、この絵。好みだわ!
ぐおおおーーーっ、表紙からなんと淫靡な京様でしょうかっ!やっべ、口から垂れてるそれ、何?
中身が気になる!あああああうううーーーんっ!
見たいの。
ちょっとくらいいい?
弟の顔をちらっとみる。
ぎゅっと、弟の手にさらに力が入る。
「姉さんには僕がいるだろう。京とか都とか東とか関とか、西山とか……」
おお、やっぱり弟は「バスケの王子様」も読んでるのね!
しかも、今出た名前……、西山って、めっちゃマイナーキャラだよ!
しっかりそんなキャラクターの名前まで覚えてるなんて、ぐふっ。
弟は、誰のファンなんだろう?
え?
弟をBLの海に引きずり込むなって?
違う違う。純粋に「バスケの王子様」が好きな人がいると嬉しいんだ。BL話はちゃんとPTAを考えてするよ。ちがう、えっと、PKOだっけ?
TPOか。TPOだ。time時と、place場所を考えて、oってなんだ?
えへへ。
とにかく……。
「弟も、バスケの王子……じゃない、玉子様好きなの?」
嬉しくなって話しかける。
「姉さんのが好き」
はいはい。
NARUKOのが好きってことね。
「好きなキャラ誰?」
「姉さん」
「NARUKOじゃなくって、バスケの玉子様で好きなキャラは?」
「……。美杉くん」
「ふえっ、あの、心臓病で3分間しか試合に出れない、美杉くん?へぇー、そうなんだ」
全国大会の試合で少しだけしか出番ないマイナーキャラなのになぁ。
っていうか、私の知ってる「バスケの王子様」と弟の言う「バスケの玉子様」の美杉くんって一緒でよかった?
「親の反対されても、あきらめない姿勢が好きなんだ……」
大筋は私の知ってる美杉くんと同じでいいみたい。
確か美杉くんって、大企業の息子で、バスケを反対されてたんだよね。
あ、もしかして……。弟もある程度の家柄だろうし、親にアニメや漫画を反対されてたりして、そういう似た境遇に美杉くんに引かれたのかな。
そっか。
「諦めないのって、すごいよね」
前世でそこそこの年齢まで生きた私からすれば、ちゃんと諦められるっていうこともすごいことだって知ってる。
ミュージシャンになることを諦められずにフリーターを続けてる人間も知ってる。
だけど、高校生。まだ若いんだもん。諦めることを覚えるなんてまだ早いよ。諦めずに努力するほうがずっと大事。
「私が好きなキャラはね」
と、教えてくれたお礼に教えてあげようと思ったら、マスクの上から手で口をふさがれた。
「いい。聞きたくない」
あら、そうですか。
お読みいただきありがとうございます。
きゃふー。弟のキャラが大暴走!
やべー!
嘉久とは違う方向で暴走してる!
書いていて楽しいけど、この弟キャラは、イベントでしか会えないキャラだよね?璃々亜は果たして、次にいつイベントに行けるのか!・・・それとも、学校で大暴れするのか?!




