第190話 弟の姉らしい
撮影が終わって、手を離してもらってから、失礼かとは思ったけれど見えないように服で手をぬぐった。
申し訳ない。
元オタなので、異性との接触になれておらぬのでござるよ。
……。
ん?あれ?
でも、田中くんと手をつないだときとか、私の弟と手をつないだときは平気だったよね?
なんでだろう?
田中くんは、知ってる人だったからかな?じゃぁ、弟は?
同じ学校ってことで、気が緩んだ相手だからかな?
うん、そうか。私は、知ってる人だと安心できるのね。
「姉さんっ」
強い語気で私の弟が近づいてきた。
怒ってる?
え?なんで?
あ、手に持った弟のスマホ……。
もしかして、写真を撮ってほしかったのに、私が被写体になってたから怒ってる?
ごめんっす。
スマホを渡すと、弟は近くにいた人に「シャッターお願いします」と渡しちゃった。
やだ、私じゃあてにならないっていうの?
……。すまん、あてになりませんな。
「他の人じゃだめだ。僕の姉さんは、僕だけの姉さんだ!」
ん?
難しい日本語になってますよ?
弟の手が伸び、私をぎゅっと力強く抱きしめた。
「弟?」
びっくりして声が出る。
「きゃーっ!」
大量の悲鳴と、向けられるカメラの数にびっくりする。
え?
あれ?
もしかして、この、弟に抱きしめられるっての、そういう有名なシーンでもあったりする?
そ、そうか。
コスプレ撮影定番の姉弟ポーズなのか……。
私、この行き場のない手をどうしたらいいのかな?普通は、抱きしめられてたら、手を背中に回すんだよね?
でも、有名な姉と弟のポーズも、それでいいのかな?
うーん、しばらく停止。
回して見るか?てなわけで、両手を弟の背中に回した。
「姉……」
耳元でささやかれる弟の声が少しかすれてる。
間違った?このポーズは違うの?
やばい、正解が分からないっ。
「姉、姉……」
ぎゅって、弟が私を抱きしめる腕に一層の力が入った。
ん?
このポーズで正解?
なんだか分からんが、とりあえず良しとしましょう。誰も「あのポーズしてくれますか?」とかのリクエストもないわけだ。
向けられるカメラの数は多いが、とりあえず、顔が映らないように、弟の肩に顔をうずめて隠してるし。問題ない。
んが、しかし、いつまでこのポーズをとり続ければいいのだ?
「はー、素敵!素敵すぎますぅ!」
「うまうまー!」
「うきゃきゃきゃっ」
「&+&`'*$+#*#`"%'(**{`!+'(>)`{」
悲鳴やら、ため息やら、笑いやら、謎の言葉やら、色々なものが耳に届く。
「ありがとうございました」
そして、お礼の言葉が多くなったあたりで、撮影が終わったのだと判断。弟の肩から顔を上げ、背中に回していた手をはずす。
弟は、まだ撮影が続いていると思っているのか、私の背に回した手を緩めなかった。
「弟?」
「あっ、ご、ごめ、ん……そ、その……つい、カッとなって」
体を離した弟が頭を下げる。
?
なんだ、レイヤー魂に火がついたのか?
すんげーポーズ決めてやる!みたいな?
分からなくもない。私も、大好きなキャラのカップリングBL同人誌を見つけた時には、カッとなる。体の芯から熱くなるんだ。そして、周りが見えなくなることがあるからね……。
弟が、いつものように、私の手を取り恋人つなぎする。
……。
うん、そう、この手だよね。
私の弟の手は、これだ。
「姉……姉の弟は、僕だよね?」
思考停止。
え?
何?
私が、弟のこと「私の弟」って思ってんのバレたの?
「姉とセットの弟は、僕だよね?他の弟と写真撮ったりしないでね?」
ん?
そうか。そういうことか。
ごめんね。
私が他の人と写真撮ってる間、一人にしちゃったね。
初めてのイベントで一人にされて不安だったんだよね?
おねーちゃんが悪かった。
いつもありがとうございます。
安心してください。璃々亜は通常営業です。
イベント会場だからと、気持ちはふらつきません。




