第140話 大化の改新を勉強している場合ではないらしい
夕食ぎりぎりの時間に帰宅。
兄も嘉久も、生徒会の仕事を遅くまで頑張るなぁ。いったい、いつ勉強してるんだろう?次の模試大丈夫なのかな?
食事中も、二人は社会貢献について話をしている。
食卓のミモザサラダには目もくれない。ねぇ、このミモザサラダすごいよ?見ないと損だよ?
ブロッコリー、サニーレタス、アスパラの上に、ミモザの花を模したゆで卵の黄身が裏ごしして載せてある。これが、普通とちがうのは黄身の色だ。
明るいイエローの黄身だけでなく、少し濃いオレンジっぽい黄身も使われていて、より一層華やかな色合いを演出しているのだ。
黄身の乗ったアスパラを一つフォークで突き刺して口に運ぶ。
ほうっ、塩味とレモンの酸味が絶妙なバランスで口の中に広がります。新鮮なアスパラのパリッとした歯触り。硬すぎず、柔らか過ぎない絶妙なゆで加減。いや、ゆでたのではなく蒸したのだろうか?旨みがぎゅっとアスパラに詰まっている。
たかがサラダなのに、なんだろう、この至福感。
今日のメインディッシュはカレーライス。
魔法のランプから、カレーをすくい、ライスにかける。あ、知ってるよ、魔法のランプじゃなくてグレービーボートっていうんでしょ。でも、魔法みたいにおいしい料理が出てくるんだから、魔法のランプでいいじゃんっ。覚えにくいし、グレービーボート。
大きなお肉と野菜がごろんごろん。カレーの色は、意外にも黄色い。
ほら、なんか黄色いカレーって安っぽくて、高級レストランのカレーって茶色っぽいイメージない?だから、白川家のカレーが黄色くて驚いた。ミモザサラダも黄色いから、それに合わせたのかな
一口、カレーを口に運ぶ。
うわぁ。この優しい苦みって、ターメリック?黄色いってことは、ターメリックを多く入れてるってことだよね?ターメリックって、和名はウコン。健康にいいんだよね。
市販のルーとは違う味だ。なんだろう、辛味もあるけど、苦みも甘みもある。甘みはもしかして野菜から出てる?ごろごろ野菜の他に、とろけるまで野菜を煮込んでこしてあるのかな?
「璃々亜のクラスはどうだ?」
もぐもぐ。ふはー。辛いけど、甘い。そして、絶妙な苦み。
苦みを出すために、ターメリックの他にも、隠し味でコーヒーが入ってるのかもしれない。
「委員長の皐月くんは優秀だからな。期待しているんだ」
ん?皐月たん?
確かに、今日は皐月たんが、炭酸コーヒーならぬ、エスプレッソ炭酸飲料を買っていましたが。
「期待しない方がいいですわ」
「何を言っているんだ、璃々亜!友達だろう?」
「ええ、もちろん友達です。ですが、皐月さんご本人も微妙な顔をされていましたわ」
兄が意外そうな顔をする。
「一度、お兄様も飲んでみたらお分かりいただけますわ。コーヒー系炭酸飲料には期待をなさらない方がよいのです。皐月さんも、自分で選んだものの、期待外れだという顔をして飲んでいらっしゃいましたもの」
兄が苦笑した。
隣で嘉久がため息をついた。
「璃々亜、お前、全然俺たちの話を聞いてなかっただろう。誰がコーヒーの話をしている」
おや?そういえば、何故、コーヒーの話に?
疑問に思って首をかしげると、嘉久の魔法のランプが傾いて、ライスの上にカレーがどばっと乗っかった。
おっと、食事中のマナー。
食事の後も、兄と嘉久は話を続けていた。
私はさっさと寝る準備。今日は帰宅が遅かったから、まだ宿題も終わっていないので時間がない。食事が終わったのが8時だからね!いつもの就寝時間は9時から10時。あと1時間ちょっとで、宿題、風呂、ゲーム、アニメ、漫画、無理だ!絶対時間が足りない!
……あ、そうでした。宿題と風呂だけでしたね。ぐすん。
おやすみなさい。ぐぅー。
おはようございます。朝5時です。璃々亜です。
今日も早起きで勉強します。なんて立派な子なの!感動して涙があふれてしまうでしょ?
……。まさか、私からBLを取り上げるとこんな人間が出来上がるとは、みっきゅんも思うまい。
えーっと、今日は「大化の改新」いってみようか!
中臣鎌足と、中大兄皇子のラブラブを復習してみようかのぉ。出会いは、なんと、中大兄皇子の靴が脱げてしまって、それを中臣鎌足が拾ってあげたってこと。
ふふふ、運命の神様がきっと、靴を脱がしたに違いない。
それでもって、二人は、私塾で共に学ぶんだよ。学友だよ、学友。ひゃほーい。
だがな、同級生ってのともちょっと違うんだ。鎌足くんは大人の男なのだよ。中大兄皇子より12歳年上。ふふふ、皇子くんってば大人の鎌足くんにめろっちゃったのか、それとも鎌足くんがツンデレ皇子くんにめろっちゃったのか。だが、鎌足くんは神に仕える身だったのだよ。そこで、思い悩むわけだ。
道ならぬ恋~。萌えるねぇ。ぐはははっ。
一方、中大兄皇子くんってば、手を出してこない鎌足くんは、別に好きな人がいるって思い悩むわけだよね。それが、皇子くんの叔父さんである孝徳天皇。もともと、鎌足くんは孝徳天皇に内臣として重用されてたからね。内臣って天皇の最高顧問で時に大臣より上。天皇を守っていく職だからね。
ぐふふ腐。
やばい、大化の改新あたりの登場人物がBLすぎて怖い。もう、「おカマ」の「カマ」が「鎌足」の鎌に見えるくらいやばい。
おっといけない。大化の改新だけで勉強時間が終わってしまう。今私に必要なのは、数学!
社会の勉強は楽しいけど、おしまいにしよう。
さて、数学数学。数学。すうが……ぐぅ……。
おっと、いけない。思わず眠気が!なぜ?って、分からないからだよ!
問題集や参考書を読んでも、分からないものは分からない。……、兄、もう起きてるかなぁ。
時計の針は6時。起きてそうだよね?よし。教えてもらおう。
部屋を出て兄の部屋をノック。返答なし。おや?寝てるのかな?
階下から声がかかる。「敦也様でしたら、ジョギングに出られましたよ」
ほえー、兄……すごいな。朝から走るとか。流石に攻略対象なだけはある。生活がスマートだよ!引きこもってゲームやってるような人間が攻略対象なわけないじゃんよっ。
一人くらいいてもいいんですよ?フィギアの並んだ部屋に引きこもってエロゲー三昧な攻略対象がいても。私がヒロインだったら、速攻飛びつきますから。
……。あ、まてよ、悪役令嬢の出番がなくなるか?まさか、エロゲー大好きキモオタ君(将来ニート)をめぐって、ヒロインと悪役令嬢が壮絶なバトルって……。それは乙女げーではなく、別のゲームになっちゃうからね?
しかし、兄には聞けないのか。どうしよう。
今日の朝食は、カレーパンとサラダ。
外はカリカリのカレーパンを割って食べる。
ふわぁ、中身は昨日のカレーをベースにしているんでしょうか。ひき肉とみじん切りになった玉ねぎがたっぷり加えられています。
あちっ、あちっ。揚げたてカレーパンの中のカレーをなめちゃあかんよっ!
ふーふーするわけにもいかぬ。それがお嬢様。
てなわけで、冷めるのを待つ間、会話でもするか。
「もうすぐ、全国模試がございますけれど、嘉久様は、勉強はどうされていらっしゃいますの?」
「どうって?いつも通り、1時間参考書や問題集に目を通してるだけだな」
嘉久も勉強してたのか。勉強などまったくせずとも大丈夫な超人ではなかったわけだが……だが、わずか1時間でトップの成績とか……。象に踏んず蹴られちゃえばいいのに。
「お兄様は?高校も3年生になると勉強も大変ではありませんか?」
「んー、そうだな。確かに、1年に比べると多少は難しくもなるし、宿題も多くなるから時間が取られるな。だが、勉強は積み重ねだからな。1年からきちんと勉強していれば、そこまで大変ではないかな」
「分からない問題があったらどうなさるんですか?」
と、口にしてみて後悔。
分からない問題なんてないとかあっさり言われそうで。それを聞いたら、もともとの出来が違いすぎて落ち込みそうだ。
「何だ?璃々亜、分からない問題があるのか?だったら、いつでも教えるよ」
にこっと笑う兄。
「敦也兄は3年の勉強してればいいよ、同じ1年だし、俺が教えるよ。何なら、朝食前に毎朝勉強会するか?」
と、嘉久。
嘉久と勉強会……。
猪突猛進な嘉久との勉強会……。想像したくないです。なんだか、背筋が寒いのです。
「嘉久、人に教えるのは、自分の勉強の復習にもなって役立つと言うだろう?璃々亜、遠慮することはないよ。1年の問題だろうが2年の問題だろうが、3年の問題だろうが、なんでも教えてあげるよ。朝食前に勉強したいというのなら、明日から始めるかい?」
右に嘉久、左に兄……。何でこんな簡単な問題が分からないんだ空気が充満する密室。
ぎゃー、軽くホラーだよ!ホラー!
助けて~。
「い、いえ、結構ですわ。今まで通り、分からない問題を教えていただけるだけで……」
「本当か?遠慮することはないんだぞ?」
兄、遠慮じゃないから!
「そうだ、土日を使って教えてやるよ」
「嘉久、土日にそんな時間取れるのか?生徒会の手伝いだけじゃなくて、クラスやお茶会部の方もK3対策をするんだろう?」
「あ、ああ……うん……」
うおっ、都キャプテンにたしなめられて、声のトーンを落とす京様。むふっ。
今日も朝から脳内録音ありがとう。ふふ腐。
しかし、そうか。勉強を教えたがる人間が近くに二人もいては、家庭教師も塾も必要ないってことなのかぁ……。なるほど。
御覧いただきありがとうございます。
魔法のランプのあれ、名前調べたよ。そして、覚えられないよ。
食事中は特に人の話が聞けない璃々亜さん。
大化の改新については、諸説あります。(←いや、BL説はないから、諸説もくそもない。)
というか、久しぶりに大化の改新あたりの歴史を勉強したよ……。