第138話 本当に名前を覚えるのが苦手な人はいるらしい
取り巻きが補足説明してくれる。親切だな。
「日本でも10本の指に入る須賀財閥のご令嬢に名前を聞かれるなんて、名誉なことですわよ?」
「ですが、須賀様が貴方のお名前を覚えておかれるかどうかは分かりませんけどもね。ふふふ」
おお、小悪嬢ではなく、須賀様は、私のなかーまなのね!人の名前を覚えるのが苦手なんだ!
仲間だと思えば、なんだか親しみがわくから不思議。
「私、白川と申しますわ。私も、人のお名前を覚えるのが苦手なのですわ。次に会った時に忘れてしまっても許していただけますわよね?」
名前が覚えられない仲間の須賀様に微笑む。
「し、しら、白川、さ、さ、様?」
小悪嬢須賀様が、どもっている。
ん?聞き取れなかったのかな?
「ええ、し、ら、か、わ、白川璃々亜と申します」
もう一度、今度はゆっくりと名前を口にする。
「白川様?」
取り巻きさんが、口に手を当てて、ひぃっとか言ってる。何それ。
「そんな……。白川璃々亜様といえば、立派な縦ロールをしていらっしゃると……」
はいぃ?それ、どこの情報よ!
っていうか、誰が広めた情報だ!
いや、でも仕方がない。
人の名前も顔も覚えられない人間にとって、髪型というのは人を識別するための重要なファクターだ。とりわけ、縦ロールといった特徴的な髪型は、より重要な目印となりうるのだ。
縦ロールをしているのが白川璃々亜だと、覚えようとした努力は認めねばならぬ。
私なんて、はなから人の名前を覚えようとしないんだから……。立派だよ。小悪嬢須賀。
「私、高校入学を期にイメージチェンジいたしましたの。ですから、私だって分からなくても仕方がありませんわ。今後も、私とすれ違う時に分からなくても責めたりいたしませんわ。挨拶など必要ございませんわよ?お気になさらないで」
取り巻きさんたち、青いよ、顔が。何?もしかして縦ロール情報を流したのは、貴方たちなの?間違った情報流したのを後で怒られたりするの?
「さ、皐月様、白川様を味方につけたからって、いい気になっては困りますわ!私のクラスには三笠蔵様がいらっしゃるのですから!それに、足を引っ張るような庶民もいませんし!白川様がいらっしゃっても、特待生という名の庶民がいる2組に、負けたりはしませんから!」
震える手で、皐月たんを指さして小悪嬢須賀様は立ち去って行った。
「何、あれ?」
ぼーぜん。
庶民庶民って、まさか、芽維たんのことバカにしたよね?皐月たんのこともバカにしてたよね?
「皐月さん、私はあなたの味方についたわけではありませんからね?」
言っておかないと。
「私は、皐月さんのことは友達だと思っておりますわ。敵とか味方とかそんな薄っぺらな関係ではありませんわ」
皐月たんが、私の言葉に、ほほをうっすら染めたのを見逃さなかった。
きゃー、何、そのラノベみたいな顔!確実に、押し倒されるわ!
ん?何か嫌な思い出が。そうだ、あれは、東くんに京様があんぱんにかぶりつく姿が子犬みたいで可愛いなってからかわれた回だ。
京様が恥ずかしがって、ほほをうっすらピンクに染めた。その顔をみて、東くんは、染まった頬にちゅっってしやがったんだ!「あんこついてる」とか言って。
違うだろぅ、そのきゅん顔に我慢できずに手を出したんだろうが!と、東×京同人誌をうっかり見てしまって身をよじった嫌な思い出……。腐っ。
頬染は危険なのであります!
それにしても、もしかして取り巻きさんとは友達じゃないのかなぁ?味方っていう認識なのかな?下手したら下僕?小物悪役令嬢も大変だなぁ……。
「なんか、璃々亜さんすごいこと言ってたねぇ」
え?私、何か言ったっけ?
「貴方の名前は覚える気はないって」
言ってないよ?
覚える気がないんじゃなくて、忘れたらごめんねって言っただけだよ?
「会っても話しかけるなともおっしゃいましたね」
言ってないって。
挨拶されても、誰だっけ?ってなると困るでしょ?
何故だか、芽維たんと皐月たんがふふふふっと楽しそうに笑いあっている。
そんな悪役令嬢的なセリフは一言も言ってない!
あ、あれ?言ってないよね?何でそんな解釈してるの?
……須賀様に勘違いされてないよね?
せっかく名前覚えられない仲間、じゃないや、生徒会役員候補を確保できそうなのに……。
紙コップに注いだ「目玉と親父汁」をちびちびと口にしながら、芽維たんが下を向いた。
「ごめんね……皐月さん……璃々亜さん……」
そして、小さな声で謝る。
うえ?
目玉と親父汁を選んでしまったことを、今更謝るというのですか?
だ、大丈夫だよ。名前も色もあれだけど、味は悪くないよ?ほ、本当だよ?ごくごく。ほら、飲んでるでしょ?
「私の所為で、色々言われちゃって……」
芽維たんが、ぎゅっと目をつぶってつらそうな表情を見せる。
はっ、そういえば、小悪嬢須賀「庶民がぷぎゃーっ」って言ってた!
「言わせたい人には言わせておけばよろしいのですわ。彼女は、芽維様のことだけではなく、私のことも気に入らないのですから……」
うん、そうだね。
ああいう人種は自分をちやほやしてくれない人は全部嫌いなんだと思うよ?
だって、私のことも、名前を覚えられなかったらごめんねって言ったとたんに、すんごい顔されちゃったもん。
きっとあれ「このアテクシの名前を覚えないとは、失礼にもほどがありますわ!」みたいなのだよね?
それに、私、全然知らなかったよ。
「ごめんなさい、皐月さん……。クラス委員って、お茶会部の人になってもらわなければならなかったんですのね?知らなくて……」
皐月たんをクラス委員に推したのは、私だ。
私の所為で、言われなくてもいいことを言われてるんだよね?それに……。
クラス委員にならなければ兄に目をつけられるなんてこともなかったわけで。過去の私、今の私に謝れ!まったく、問題ばかり増やし追って。
「今からでも交代していただけないかしら?確か、2組のお茶会部のメンバーといえば……」
アパレル娘だっけ?あと他に誰がいたのかな?
「くすくす。璃々亜様、お茶会部のメンバーがクラス委員になるというルールはございません。クラス委員の半分はお茶会部のメンバーではございません」
「え?そうなの?」
「それに、何を言われようとも平気ですわ」
私と芽維たんが皐月たんの顔を見た。
決して、私たちに気を遣った言葉ではないのがその表情で分かる。
「だって、2組は決して5組に負けるようなクラスではありませんもの。ですから、言わせておけばよろしいのですわ」
え?
皐月たんが黒い笑顔を見せた。
「2組のクラス委員は私と相模くんですよ?それに、優秀な頭脳を持った特待生がいるんですよ?」
皐月たんが胸を張る。
うん、そうだ。その通り。
「生徒会やお茶会部からも注目を集めている璃々亜様もいますし」
ぐおっ、い、い、い、今、何て言った?
私が注目を集めていると?お、恐ろしい。いやまて、生徒会やお茶会部って言ったよね?
生徒会は、兄がいるから妹に注目するのは当たり前だから仕方がない。しかし、お茶会部ってなんだ?あ、もしかして、あれか?嘉久がお茶会部で暴走したときに、忠告しちゃったあれか?
確かに、あれは目立ってしまった。ぐぬぅ……。嘉久め!
私の目立たずひっそり無事に高校生活を終えて破滅フラグを回避する計画の邪魔をしおって!
「皐月さんと相模くんはとても頼りになるクラス委員だと思うし、璃々亜さんの求心力も素晴らしいと思います……でも、私は勉強しか取り柄が無くて……」
ふわっ、芽維たんが落ち込んでるよっ……。
違うよ、勉強しかじゃないよ?すんごくかわいいし、性格もいいし、
ボッチだった私に声を掛けてくれて、しかも笑いかけてくれた。それってすごいことなんだよ?
「そんなことはございませんわよ。勉強以外にも素晴らしいところがたくさんございますわ。私の友達なんですもの」
必死に訴えると、皐月たんが笑った。
「そうですわね。璃々亜様とお友達なんですもの、自信をお持ちになればよろしいんですわ。璃々亜様は、つまらない人間と親しくするような方ではございませんよ?」
えー、ごめん、待って、私と友達だから自信を持てって意味じゃないよ。
「そ、そういう意味ではございませんのよ?あの、」
なんだか、悪役令嬢ちっくな意味になってるー。ど、どうしてそーなった。慌てて否定する私に、ティーカッププードルちゃんのキュートな微笑みが向けられた。
「えへっ。そうでした。私、勉強だけが取り柄じゃないですよね。素敵な友達がいることも自慢の一つでした!皐月さんに璃々亜さん。それから、田中くんに相模くんに轟くん。相原さんや相良さんとももっと仲良くなれるといいなぁ」
そうだよ、そうだよ!
「素敵なクラスメートがたくさんいるんですから、5組に負けるはずはございませんわ!」
ぐいっと拳を握りしめる。
「ふふ、璃々亜様、気合がはいっていらっしゃいますわね。2組がK3でクラス評価上位になれるように、頑張りましょう」
握りしめた拳の上に、皐月たんの手がのる。
「えへへ、うん。がんばろうね!」
さらにその上に、芽維たんの手が重ねられる。
え?
あれ?
わ、私、がんばらないつもりなんだけど……
どーして、
どーして、
どーしてがんばることになってんのぉ?
御覧頂き感謝です。
まだざまぁではございませんよ?
璃々亜さんのやる気を出させるために煽ろうとおもったのですが、璃々亜ったら、いまいちですな。もっと、やる気だせー!
無理、うん、無理かも・・・。




