第136話 璃々亜は勘違いしてやらかしてしまったらしい
教室に戻り、皐月たんと相模くんの委員長コンビが、プリントを配布して説明しはじめた。
「ただのチケットなんて何百枚だって買えるのに2枚ぽっちもらったって仕方ねぇ。てか、貧乏くせー」
と、生徒の一人が声を上げる。
何百枚だって買える?
思わず、ワナワナと、肩が震える。
肩を震わせている私の後姿を、芽維さんが心配してくれたようだ。
「璃々亜さん、大丈夫ですか?」
「え、ええ、大丈夫ですわ。少しびっくりしてしまっただけで。何百枚もチケットを買うなんて、どれほどたくさんのお友達がいらっしゃるのかと……」
振り返って芽維たんににっこり笑いかける。
ん?
あれ?
おかしい、クラスがしんっと静まり返ってる。って、私の言葉が、しんっとした教室に響いちゃったじゃないの!
お、お友達がたくさんいるからって、うらやましくなんかないんだからね!リアル友達100人だからって、うらやましくなんか……っ。ぐずっ。
あ、あれ?
先ほど何百枚発言したであろう生徒が、椅子をならして立ち上がり後ずさった。顔が青い。
他の生徒も緊張した面持ちで、私を見てる。
あの青い顔……も、もしや……。友達が少ないのに見栄を張ってしまったっていう、それ?
実は私と同じボッチ……いや、私はボッチじゃない。だが、ボッチの気持ちは痛いほどわかる。
友達いないのに、いるふりしちゃうって気持ち、分かるよ……。「チケット2枚じゃたりねーよ」って見え張りたかったんだよね?
えーっと、フォローしなくちゃ。
真っ青な顔してる彼が、ボッチだってばれないように、フォローフォロー。
「ふふふ。何百人もお友達がいらっしゃるわけありませんわよね。きっとお友達は、ネズニーランドの大ファンですのね?ですから、何度も何度も行っていらっしゃるのでしょう?」
よし。例えば、ネズニー大好き5人組で月に5回行くとしたら、25枚のチケットが必要だ。
10か月で250枚。ほら、すぐに何百枚も必要になる。
うん、全然不自然な数字じゃないよね。
「何人ネズニーランドが大好きなお友達がいらっしゃるのかしら?4、5人かしら?毎週のように通ってらっしゃるのね、きっと。それなら、何百枚もチケットが必要になりますものね」
よしよし、完璧なフォロー。
あ、あれ?
クラスの皆の顔が白い。
なんで?計算おかしくないよね?
フォローしたはずの男子生徒(名前はまだ知らない、ってか覚えられなくてごめん)の顔は、青を通り越して紫色してます。
何で?ボッチじゃないってうまくフォローできたよね?
芽維たんが首を傾げた。
できてない?あ、あれ?
もしかして、私、やらかした?
えーっと、えーっと?
はっ!
何百枚も買えるっていうのは、お金があるっていうのを自慢したかったからなの?そうなの?その意図が私に通じなくて、顔を青くしてしまったってこと?
みんなの白い顔もなんていうか「理解してないのねぇ~」っていう白い目の延長?
うわー、やらかした。どうしよう、恥ずかしい。
えっと、あーっと、そ、そうだ、お金持ちが知らない知識を披露して「璃々亜さん物知りですのね」的な話で終わらせちゃうみたいな?
姑息?
ええ、なんとでもおっしゃい!
「ご存じありませんか?何度も行かれるのであれば、何百枚もチケットをお買いになるよりも、年間パスをご購入されたほうがよろしくてよ?」
にこっと笑って、クラスメートの顔を見ずに前を向いて着席する。
ぐすっ。
恥かいたわ!
空気読めない子だと思われたわ!
教卓に目をやれば、少しだけ黒い笑みを浮かべた皐月たんと目があった。
あうっ?
「残念ながら、お配りするのは年間パスポートではございませんが、それでも並ばずにアトラクションに乗れる非売品の優先パスになります。チケットのをお渡しは来週になりますが、資料を参考に使い道をご検討くださいませ」
皐月たんの言葉に、教室内がざわつく。
「並ばなくていいんだ、嬉しい」
「せっかくだけど、もう行く気ないしなぁ。誰かにあげるか……」
くぅーーーーっ。
耳をダンボにして、皆の声を拾い集めたのに、誰も資料の漫画について「あ、これ、少年チャンプに載ってる漫画じゃん」みたいな話をしない。
どういうことだ!
私が、パラパラと資料を見た限りでは、少年漫画も少女漫画も、メジャーどころからマイナーどころまで、色々取り揃ってるのに。
なーぜーだーっ!
「さて、では次にK3についてなのですが、クラスでの社会貢献を考えてほしい。何か、いいアイデアはないかと突然言われても困ると思う。来週のクラス会までに、考えてきて欲しい」
あー、クラスでもK3ねぇ。
ま、私には関係ないでーす。
がんばらないもぉん。目立たないようにするもぉん。
「お時間があれば、食堂でお茶を飲んでいきませんか?」
皐月たんの誘いに、一も二もなく頷く。
お友達と、お茶!
はっ、浮かれている場合ではない!連絡、連絡……。
蜂川さんにポチポチ。『30分ほど遅れます申し訳ありません』。待てよ?理由も書かないと心配させちゃうよね?『お友達と話をしていきすので30分ほど遅れます』ポチポチ。ま、ま、待てよ?女子がお友達と話をするのに、30分で終わるかな?軽く1時間経っちゃうんじゃない?『1時間ほど遅れます』ポチポチ。いやいや、まてまて、若いころなんて、みっきゅんと徹夜でファミレスでおしゃべりなんて楽勝だったよ。1時間で終わるだろうか?
うわー、ダメだ!分からない!どれくらい待ってもらえばいいのか、分からない~!
スマホ片手に頭を振る私。
「お時間がないようでしたら、無理にとはいいませんが……」
「私は大丈夫だよぉ。璃々亜さんは、何か予定あった?」
無いよ、無い!
予定がないから、何時までっていうのが分からないんだよぉ!うわーん。車で送り迎えしてもらうのって、気を遣う!私も電車通学したい!
距離的には、自転車でも行ける!前世の三十路体力じゃ無理だが、今の高校生体力なら、行ける!
ダイエットにもなるし、一石二鳥!
あれ?でも、璃々亜って自転車持ってるのかな?
そもそも、うちの学校って自転車置き場あったっけ?あれ?
自転車と言えば、
「どうした?京」
「都……キャプテン、ちょっとチェーンが外れちゃって」
「どれ?見せて見ろ」
さっと外れたチェーンを器用に直す都キャプテン。バスケ以外もなんでもこなす都キャプテンをさらに好きになる京様。
「ありがとうございます!えっと、お礼に何かおごります!高い物は無理ですけど!」
京様の言葉に、にっと笑う都キャプテン。
「この世で一番高い物が食べたいって言ったら?」
「え?」
都キャプテンの手が、京様の手に伸びる。
「分かってるだろ?」
京様の耳元で囁く都キャプテン。その後、二人は再び部室へ……的な?ふふ腐。
自転車通学がないと、そんなあれやこれの自転車ハプニングイベントがなくて寂しいじゃないか!……おっと、失礼。
スマホ画面に視線を戻す。
『今日は友達とお話をしてから帰るので、お兄様と一緒に帰ります』
よしよし。これでいい。
もし、芽維たんと皐月たんとの話が早く終わっても、兄を待ちながら勉強でもしてればいいんだよね。
璃々亜、いまだに5時起きで勉強頑張ってるけど、数学が全然追いつかない。だって、数学とBLって結びつきが薄いんだもんっ。……、違った。 いや、関係なかった、BLは。
「予定はありませんわ。さぁ、行きましょう、食堂へ。この時間からお茶ということは、自動販売機を使って買うのですか?」
「そっか。私、楽しみだったんだ!自動販売機で買うの!」
え?芽維たんが?なんで楽しみにしてるの?
「自動販売機をお使いになったことありますよね?」
芽維たんが笑った。
「そっか、璃々亜さんは自動販売機を普段使わないから知らないんだ」
知ってるって、めちゃ利用してたって!プロだよ、プロ!
そんな、自動販売機を使うプロの私が驚愕した。
「!」
いつもありがとうございます。
てへ。今日はちょっと遅くなっちゃった。
もう、ストックがなくてね、自転車操業なの。




