第121話 漫画、まんが、マンガらしい
兄、その後も何枚か写真をプリントアウトしたところに、嘉久が段ボール箱を抱えてやってきた。
重たそうな箱を、ドスンと床に置く。
「届いたぞ、参考資料!」
参考資料?
今度は、何?
トイレの次は、なんの資料を集めたというんだ!こんな段ボールにいっぱい。
「他にもあと10箱くらいある」
は?
引っ越し業者が使うような、結構なサイズの段ボールが10箱も?
「ああ、じゃぁ、早速チケットについての資料をまとめようか」
チケットの資料?
「そうだな。有効なチケットの活用法をまとめれば、歓迎会で浮いたお金でチケット配布案も通るよな」
嘉久が段ボールの蓋を開ける。
ぎょあーっ!
ま、ま、ま、
はぁはぁ。
待って、落ち着いて。
口からいろんなものが飛び出しそうになるのを必死に抑える。
あ、ゲロじゃないから。
悲鳴とか、歓喜の叫びとか、口に出せない単語とか。
だって、目の前の箱には、ぎっしりと詰まった漫画が!
漫画が!
どういうこと?嘉久は天使なの?
それとも、私の正体を暴こうとする悪魔?
「書店に頼んで、もらったチケットという単語が出てくる漫画をそろえてもらったんだ。昨日璃々亜が言ったように、活用できるのか調べるために」
おお、書店にそんな細かい注文を……。
そんな風に漫画を買う人初めてだろう?なんか、まるで何かの研究資料を集めるようなあれだな。
だからなのか、なんか、巻数がそろってなくて、バラバラなのですが……。
私の目はさっきから、箱の中から視線を外すことができない。
タイトルは、見たことがあるものに似たやつおあれば、全然知らないものもある。
私の狙いは、何かの途中巻じゃない。1冊で完結してるやつ。だって、下手に続きが気になっても、入手できる可能性を考えると、生殺しだ。
「璃々亜の言葉を疑っているわけではないからな?」
私が、さっきから微動だにせず段ボールの中身を見ていたのを、どう勘違いしたのか嘉久が言い訳するように早口で言葉を発する。
「そ、それに、別に、チケット渡してデートに誘うテクニックを学びたいとか、そ、そんなんじゃないからなっ!」
はぁ。チケット渡すのにテクニックもくそもないよねぇ。
「それが証拠に、必ずしも恋愛感情のある男女間でチケットを渡す話以外もチョイスしてもらっている!」
うえ?
そ、それって……。
男女間じゃなければ……って……。
男男間?
きゃーーーーーーーーっ!
やだ、それって、それって、BLじゃないのさ!
この漫画の山に、BLも混ざってるってことなの?
ねぇ、嘉久、そうなの?
ああ、だめ、涙が出そうだ。嬉しすぎる。
「な、なんて目するんだよっ、ほ、本当に違うからな?璃々亜以外の誰かにチケット渡して誘うとか、そういう方法を知りたいとかじゃないからなっ!」
嘉久が、箱の中をガサガサして、漫画をパラパラ。
「ほ、ほら、こういういろいろなシチュエーションをまとめるために……」
一冊を開いて私の前に差し出す。
『お父さん、お母さん、いつもありがとう。これ、福引で当たった旅行のチケット……二人でゆっくり行ってきて』
というシーンが。
なぬ?恋愛感情のない男女間って……。
「恋愛感情のない”男女”間」ではなく「”恋愛感情のない”男女間」ってことで、家族間とかそういう話か!
BL漫画が混ざっているっていう意味じゃないのかあーーーーーっ!
くそっ、だまされた!
ああ、いや、まぁさ、書店員さんも、不用意にBL混ぜるわけないか……。仮にもどこぞの御曹司と長年の付き合いがある書店だろう。いろいろと配慮ができるだろう……。
ぐすっ。やべぇ。さっきとは違う涙がこぼれそうだ。
兄が背中をぽんぽんとしてくれる。
「璃々亜、父と母を思い出したのか……?」
違う、全然違うが……。まぁ、そういうことにしておこう。
「お兄様、嘉久様が言うのに段ボール10箱もあるんでしょう?私もお手伝いいたしますわ!該当箇所を探して付せんをお付けすればよろしいですか?」
残念ながらBLはなくとも、漫画は漫画だ。
私、普通の漫画も大好き!
BL妄想ができる漫画はもっと好き!
BL漫画は愛してる!
私は、いそいそとしゃがみこんで、箱の中から読み切り作品と、表紙の絵でBL妄想でいそうなキャラクターのいる作品をいくつか選んで居間へと移動した。
居間いはどーんと段ボールが……。
ああ、なんてこと!プチ漫画喫茶だわ!そうだ、お茶!フリードリンクが漫画喫茶には必要だわ!
キッチンで、コップにジュースをついダグラスを3つお盆に乗せてソファテーブルに運ぶ。
「ああ、ありがとう」
ソファではすでに二人が漫画を読んでいる。
待って、その漫画私が読みたい!
すでに付せんがはさんである漫画を私が読んだりしたら変だよね?
やばいっ、先に読みたい漫画を自分用に選んでおかないと……。
段ボール箱、ガサガサ。
「何をそんない探しているんだい?」
え、うわ、あの。
「い、いつか見せていただいた漫画がないかと思いまして……」
あは、あは、はは……。
「そうか」
兄納得。
よし、続いて宝箱の調査を行う!
皆、怪しまれないように慎重にな!
……。皆って、私一人だけど。
「ぷぎゃっ」
やべっ。
変な声出た!
「どうした?璃々亜?」
兄が変な目で見てる。
嘉久は、漫画に没頭。
あいつ、集中すると本当に周りが見えないよな。なんていうか……。
オタクの素質あるんじゃね?
待てよ?このまま嘉久が漫画好きになる。そしてオタクへと成長する。自分の好きなことに没頭する。私は干渉されなくなる。土日は自由になる。
あれ?いいんじゃない?
いや、違う、違う。
嘉久がオタクになる、相変わらず私を土日に付き合わせる。行先はオタクの聖地。
うおっ!いい、それ、最高!
待て待て……。
オタクの聖地まで行って、非オタクのふりをしなければならない璃々亜……。む、無理だ。ちょっとそれは無理。
じゃぁ、私もオタクになっちゃったーってことで?
……。
……。お、オタクの璃々亜……。だめだ、無事に学園生活を送れる自信がない。
芽維たんや皐月たんが、オタクだからって友達やめる!とか言い出すとは思えないけど、「あいつオタクなんだってよ!」って目から芽維たんや皐月たんを守り切る自信がない。
あ、私?私は、そんな目なんて平気だけどね!
まぁ、社会に出てからは、会社ではオタク暴露はしてなかったけど。高校んときは、なんていうか……。
むしろ、オタクである自分がカッコイイとか思ってたくらいで……。なんていうの?熱中できるものがある自分いいじゃん!みたいな?
だってさぁ、高校生ってともすると「何のために生きてるんだろう」とか、「このまま生きてて意味があるんだろうか」とか悩みだすじゃん?
「将来の展望が見えない」とか「不安しかない」とか……。
それが、大好きで、大好きで、熱中できるものが一つあるだけでどうでもよくなったりするんだよねー。
だから、恋愛してる人も強かったりするよね……。
……。いいんだ。別に、恋愛じゃなくたって、それがBLだって……。そうだよね?だれか、そうだと言って!
ありがとうございます。
璃々亜、ついに待望の漫画とご対面です!
よかったねー!
次回、無事に読むことができるかな?




