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◆書籍化進行中◆【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第四章

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98 イルトリア

朝は簡単に済ませて、さっそく卵と僕に回復魔法をかけた。

ビシビシひび割れそうな体が、ほんのり楽になったような気がする。どうしてこう、筋肉痛には回復が効きづらいんだろう。

よいしょ、と卵バッグを肩にかけると、ぐっと食い込む重みに苦笑した。

もはや、僕が持ち歩ける重さじゃなくなってきている。


「そろそろ、出てきてくれないかなあ……」

「置いて出ればいいだろ」

「だって、もし何かあったら……」


そっと、温かい卵を撫でた。手を当てていると、柔らかな殻の奥で、もぞりと何かが動くのを感じる。

自然と浮かぶ笑みをそのままに、ディアンを見上げた。


「触ってみる? ちゃんと、生きてるんだよ!」

「……ただのトカゲだろ、そこらにいる。何が嬉しい」

「僕のトカゲだよ? 生きてるから嬉しいよ?!」


そこに疑問を抱く余地があるとは思わなかった。

ディアンってば、不思議だ。当たり前に、嬉しいよ?

全然分からない、という顔をする彼にくすっと笑って、ぎゅっとしがみついてみた。


「ディアンがちゃんといるのも、とっても嬉しいよ!」

「はあ? いないってどういう――」


ふと、言葉を切ったディアンは何かに気付いた顔をした。


「いるのがフツーだろ」

「それが普通だったら、すごくうれしい!」


満面の笑みで即答した僕に、ディアンは少しだけ詰まって、そうかよと言った。



――結局、ディアンを押し切ることに成功した僕は、町へ向かう馬車に揺られている。

3冊目の本を熱心に読んでいると、隣からディアンが覗き込んできた。ふわ、と若木みたいなディアンの匂いがする。


「これ? 面白いよ! 確かに僕、グリポンたちのこと、ちゃんと観察していなかったなって思ってるところ!」


ちらりと表紙を向けて、『使い魔の観察と訓練』のタイトルを見せてみた。


「知る? 何を」

「えっとね、何ができるか、とか。それって、ただ日々観察するだけじゃなくて『させてみて確認』しなきゃいけないんだって」

「当たり前だろ」

「ディアンは、そう思うんだね!」

 

ぱっと笑った。

僕、もしかしてディアンよりもずっと、グリポンを出来損ないだと思っていたのかもしれない。

ふいに、ローラが浮かぶ。

『かわいいルルアちゃんは、そこにいるだけで最高! 一緒に住もう!』

事あるごとに、そう言ってくれる。僕のこと、好きだって言ってくれる。僕、なんにもしてないのに。

膝の上で、お腹を見せて寝ているグリポンを撫でた。


「おかしいよね。僕は、それじゃ嫌だなって思ったのにね」


僕もローラが好きだし、一緒に住むのは楽しそう。でもね、それじゃああんまり嬉しくないんだ。

ちら、とディアンを見上げた。

もう本に興味をなくして、腕を組んで目を閉じている。

ねえ、ディアン。君はそうは言わないもの。

根本が違うって分かってるけれど、でも、僕はその方がいいって思うんだよ。

だって僕、役に立たない僕はいらないもの。

だって僕、けっこう頑張れるんだよ。今は、君の役には……立たないかもしれないけれど。


「……あれっ」


そこまで考えて、ふと、今朝のことを思い出す。

僕、ディアンにローラみたいなことを言ったよね。

ディアンは、嫌だったろうか。

でも……どうしてだろう、ディアンに言いたいのは、こっちで合ってると思うんだ。

しばらく首を捻っていた僕は、答えのないまま、グリポンに釣られるように眠っていたらしい。


「――起きねえなら、帰るぞ」

「起きるっ! 大丈夫っ!」

 

反射的に大きな声でよく分からない返事をして、顔を上げた。

ろくに覚醒してない頭が、後から追いついてきてぱちりと目が開く。

そして、馬車内から微笑ましい視線を浴びていることに気が付いて、小さくなった。


そそくさと馬車を下り、見たことのない町にうわあ、と体を膨らませた。

違う……町って、場所によって全然違うんだ……。

匂いも、音も、色も、形も。

僕らのいた町でさえ、日によって全然違うと思ったのに。


「早く歩け」


どん、と後ろから脚で押されてつんのめった。

 

「ちょっと?! 今、感動を噛みしめてるのに!」

「何をどうすりゃ、ここで感動できんだよ」

「ディアンだって、初めて来たときには感動したでしょう?!」

「しねえよ」


目をまん丸にした僕に、ディアンの方がぬるい視線を寄越す。


「そんな、もったいない! 僕の、分けてあげるよ!」

「いらねえわ!」


門についた飾り、門番さんの恰好、石畳の色、入ってすぐの広場、道の幅、お店の匂い。

僕は、さっさと歩くディアンの隣で小走りしながら、僕に見える世界を教えてあげた。

見て、見て。こんなに色々あるのに。

あっちもこっちも、全部見たことないお店で、通りで。


てっきり、すぐに『うるせー!』なんて顔面を掴まれると思っていたのだけど。

ディアンは、跳ねる僕の横で何も言わなかった。

ただ、時折視線が周囲へ向かうから……僕は、ますます足取りもおしゃべりも弾んだのだった。

 



「す、すごい! これがマーケット?!」


そうだとも言わずに歩き出そうとしたディアンを、はっしと捕まえた。

思い切り掴んだ固い布地が張って、彼が慌てて振り返る。


「おい?! てめ……!」


自分のズボンを押さえたディアンが、僕の胸倉を掴む。

待って、今感動するところ。

忙しい。僕の全部が忙しい。

あっちもこっちも見なきゃいけなくて、嗅いで、聞かなきゃいけなくて、あれはなに、これはなにって考える必要があって、心臓の方は既に全速力だ。


「……放せ、掴むな」

 

無反応の僕にしびれを切らしたディアンが、僕の手を振り払おうとする。

あ、駄目だよ。これ、放したら僕行方不明になると思う。

だって見てよ、人間が詰まってる。

広かっただろう道には、びっしりと露天が並び、びっしりと人がいた。

人間の頭の上を歩けるんじゃないだろうか。


「ディアン。あの、お願いがあります」

「……」


真摯に見上げた僕に、ディアンは大変失礼な顔で体を引いたのだった。

  

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― 新着の感想 ―
ルルアが街で感動する様子は、散歩先で大はしゃぎしてた、嘗ての愛犬にそっくりです。あの子も嬉しい気持ちを分けてくれようと思ってたのかな(^_^)
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