97 お気軽に使う
「てめえ……どんだけ余計なモン持ち込んでんだ」
鼻唄を歌いながらお肉をひっくり返した僕は、えっ、と振り返った。
「余計なものは……持ってきてないよ?」
ディアンの視線を追って、僕の手元に辿り着く。
フライパン、お鍋、キッチンツール。調味料だって、最低限。
「全部余計だろ。そもそも、日帰り予定だ」
「冒険者たるもの、予定変更やアクシデントは常。臨機応変に対応できなきゃ、でしょう?」
「お前が言うな」
ピン、と弾かれた何かがおでこを直撃した。
石? と思ったらカボムチャの種らしい。この種も、安いけど一応買い取り対象ではある。種入れに放り込んで、フライパンに視線を戻した。
今日はどうしてもカボムチャを食べてみたかったから、カボムチャ尽くしだよ。
ディアンがお料理を任せてくれたので、切ったカボムチャにお肉を巻いて焼いてみた。
あとは、カボムチャスープ。
僕ら、ばっちり破裂寸前のを収穫しているから、すっごく甘いに違いない。
調味料はお塩しかないけど、きゅっと効かせたお塩と、あまぁいカボムチャがとろり! そうしてお肉の香ばしさまで加わったら、美味しくないはずないよ!
じっくり火を通すカボムチャが、だんだん色濃く瑞々しさを増していく。不思議だね、焼いているのに。
ひっくり返すと、ジワッと響く脂の音。ちぱちぱ跳ねる脂の飛沫にあちち、と手を擦った。
「はい、カボムチャのお肉巻き!」
「依頼品食うのか」
「これは僕たちの分!」
ちゃんと、報酬の中にはカボムチャも入ってるんだからね! ちょっとばかり、依頼者さんより先に食べちゃうことに罪悪感はあるけれど。
そもそも破裂してしまえば種を拾い集めるくらいしか価値のなくなっちゃうカボムチャ。うっかり収穫時期を逃した依頼者さんは次々破裂していくカボムチャを遠目に困り果てていたらしい。
危なかったね、僕が受けなかったら全部破裂しちゃってたかも。
「一定量の収穫以上は、全部僕たちがもらっちゃっていいんだよ! すっごくいい依頼だったね!」
「フツーは採ってもそんなに持って帰れねえ」
なるほど、と話半分に聞きながら、僕の目はすっかりお皿の上に釘付けだ。
熱いから気を付けて、とディアンへ声を掛け、手の代わりにパンでお肉巻きを掴んだ。
図らずも自身の脂で揚げ焼きのようになったお肉は、こんがり焼き目が目にも美味しそう。
「ん!」
いざ、歯を立ててビックリ。
思わず咥えたままディアンを見たら、ぱっちり目が合った。
ね、すごいよね!!
うん、と頷いたディアンが大きなもうひと口で、熱々のお肉巻きを思い切り頬張る。
夜目にも白い湯気が溢れて、はふ、はふ、と顔を歪めているのが分かった。
「甘やわらかぁい!!」
やっとひとくちを食べ終えた僕は、ようやくそう言って目を輝かせた。
しっかり形を成していると思っていたお肉巻きは、表面のカリリ、を感じた途端、ほとんど抵抗もなく潰れた。舌の上に感じたお塩、とろりとあふれてきたカボムチャ。咀嚼したお肉の香ばしさ……!
これは……師匠に渡すお土産だ!
むふ、と笑みを浮かべ、わき目もふらず3つめのお肉巻きを食べるディアンを眺めたのだった。
「――ねえディアン、せっかくここまで来たのに何かついでにできることってないの?」
少しばかりいっぱいになりすぎたお腹が苦しくて、むしろ眠気が遠ざかってしまった。
多少なりとも運動になるかと、テント内でころり、ころり左右に転がりながらディアンを見上げる。
「ねえよ、てめえはどうせ討伐できねえし」
「もうひとつ向こうまで馬車に乗ったらどうなるの?」
「あと一つ停留所越えりゃ、町がある」
「え! じゃあ僕行きたい!」
めんどくせえ、と顔に書いてあるディアンにそっぽを向かれ、勢いよく立ち上がった。
あるはずだ、きっと何かメリットが!
高まる魔力に、振り返ったディアンがぽかんと僕を見た。
「は? おい……」
「――選書魔法! 今、僕に必要な本を!」
眠そうにしていたグリポンが、嬉し気に古代魔法文字の中を飛ぶ。
ふわり、漂って来た本は……3冊。どれも分厚くはない。
いそいそ受け取った僕に、ディアンのぬるい視線が刺さっている。
「それ、そんなお気軽に使うもんか?」
「そうだよ? だって本を選ぶ魔法だよ?」
「魔力消費は? どう見ても、攻撃魔法よりでけえだろ」
「えっ……と」
それは、そう。
生活にしか魔法を使わなかった僕は、いつも有り余っていた。だから、足りなくなるかもなんて、考えたことがなかった。選書魔法だって、そりゃあただの属性魔法に比べちゃったら消費は大きいけど……僕にとってはそこまで気にするものでもない。
そうか、これからはもっと気を付けなくては。そう反省しながら、パラパラとページを捲る。
「これは、地方のお祭り――あっ!」
ぱっと頬を染めた僕は、勢いよくディアンに飛びついた。
「ねえ! その町の名前ってもしかしてイルトリア?!」
「まあ……」
察したような顔をしたディアンが、顔をしかめる。
「お祭りっ! お祭りだよ?! 運が良かったね!」
「良くねえ。どうせ、マーケットだろが。ただの客寄せだ、月何回もあるわ」
「そうなの?! でも、その時に来られたのは運がいいよ!」
1冊目で正解を引いてしまった僕は、にこにこしながらもう一冊を手に取る。
こっちは、鍛冶コンテストの話かな? もしかして鍛冶コンテストもここで開催するのかと期待を膨らませたけれど、それでもなさそう。
「イルトリアって鍛冶も有名?」
「別に……」
「なんだろう? 武器……あっ! もしかしてディアンにいい武器があるのかも?」
「てめえの選書だろが」
「そうだけど、僕はいつもディアンのことを考えてるもの。何もおかしくはないよ?」
ふい、と視線を逸らされ、ちょっと唇を尖らせる。
「僕だとしたら、そっか、僕も武器を買いなさいってことかな?」
「それは取り急ぎ買え! ナイフを買う話だったろが!」
「うん、でもこれは持ってるから!」
「それは包丁だ!」
けど、刃物を持ってることに変わりはないんだけど。ディアンだって言ったじゃない、自分を刺しそうだって。そう言われると、身に着けているのって怖いじゃない……。
はっと、手を打った。
「分かった! 次の町でディアンと一緒に武器を選ぶといいよってことだよ、きっと!」
だってディアン、買い物には付き合ってくれないじゃない。
なるほどいい機会だ。
すっかり納得した僕は、もそもそ寝具に潜り込みながら最後の一冊を手に取った。
「行くとは言ってねえ」
そんな意地悪な声は、全然聞こえていないことにして。




