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◆書籍化進行中◆【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第四章

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94 鍛錬

昇り切ったお日様が、だんだんと空気を温める中、まだもう少し冷えていてもいいよと心の中で呟いた。

ギルドから教会までは、僕にはちょうどいい距離だ。

行きよりも少しだけスピードアップして、はふはふ息が弾む。


「到着!」

「るっ!」


途中で起きたグリポンが、荒い息をつく肩に舞い降りて胸を張る。もしかして、グリポンも特訓していたつもりなのかな?

ドコドコ鳴っている心臓が納まるまで、教会の壁に背中を預けて休憩する。

まるで貯めていたかのように、溢れて来た汗を拭った。

ぼうっと空を見ていたら、小さい小さい手が、何か尋ねるように僕の冷たい頬に触れた。

こんなに小さいのに、随分あったかい。


「ふふ、待ってね。こんなんじゃすぐばれちゃうから。落ち着いたら入るよ」


大きく深呼吸して、そろそろ大丈夫かな、と門へ足を向けた。

そっと、そっと、この時点からこっそり入らなくては、きっと気取られてしまう。

飛び立ったグリポンが、不思議そうに僕の周囲を飛び回る。


「ディアンがね、鍛錬しているところを見られるかなって」


にっこり笑うと、なるほど、と言いたげにポケットの中へ戻って来た。

ふふ、グリポンが隠れてもしょうがないんだけどね。

思ったより早く帰って来られたから、きっとまだ鍛錬している。抜き足差し足、木陰の中を鍛錬場へ向かった。


「あ……」


思わずあげそうになった声を抑えて、ポケットから顔を出していたグリポンのくちばしを抑えた。

『ム……』なんてくぐもった音が漏れ、理不尽、と言いたげな目がこちらを向く。

居た……! 誰もいない鍛錬場で、空を切る鋭い音と、踏みしめる足の音がする。

滴る汗が肌を光らせるほどなのに、僕と違って静かな呼吸。

木剣の一種だろうか、ディアンは何度も踏み込みながら、棒に柄をつけたようなものを振っている。どう見ても、そんなに素早く振れる類のものには見えない。


とてもリズミカルだ。タ、タ、トンと軽い足取りで前へ出て剣を振り、二歩で素早く戻る。時折ぐっと沈み込んだり、剣の軌道を変えて。

鋭いステップのたびに、散る汗が見えた。

は、は、ふっ、と抑えた呼気の音がする。

これが鍛錬なんだ……。きっと、筋力トレーニング系もやっているはず。

ストイックだな、とその場に屈みこんで動き回る姿を眺めた。しなやかな肢体が機敏に動くさまは、見ていて心地いい。まるで、動物みたいだ。人間も、こんな風に自在に動けるのか。

……僕、君を強くしたい。

だって、こんなに頑張っている。ひとりで、こんなに。


外せない視線の中、ふうっと息を吐いたディアンが、足を止めた。

きっともうびたびたになっているだろうタオルを取って、荒っぽく頭から顔を拭う。

わしわしやりながら、橙がぴたりとこちらを射抜いた。


「……うぜえ」


ビクっと飛び上がった拍子に、大きく藪が揺れる。い、いつバレてたんだろ……。


「うざいことしてないよ?! 見てただけ!」

「見てんじゃねー」


慌てて駆け寄ると、ディアンはそのまま踵を返した。どうやら鍛錬は終わりらしい。

ふわりと、汗と土が香る。

並ぶと、ディアン側だけ空気が熱い。


「すごいね、いつもこんな鍛錬してるんだ。僕も頑張らなきゃ」

「そうしろ」


もしかして、だからかな? 僕がパーティメンバーだって認めてくれたから。だから、もっと頑張れって見せてくれたのかな。

えへ、とグリポンに笑いかけると、『そうかな……』みたいな顔をされてしまったけれど。

  

「そうだ! 依頼、ちゃんと受けられたよ! それがね、ギルドの中は人がいっぱいで、全然依頼書が見られなくって」

「ああ……」


そうだった、と言わんばかりの顔に、ディアンなら多分、押しのけられることもなく見に行けるんだろうなと思った。大人に肩を並べられるくらい背が高いしね。

でも、さすがにあの人に比べたら小柄と言えるくらいだ。


「ガイアスさんって大きな人がいてね、そんなことだから、背中を貸してもらったんだよ」

「は? ……はぁ?!」


何で二回驚いたの? 


「ディアンも知ってるんだね! Aランクなんだってギルマスさんが言ってたよ」


動きを止めていたディアンが、ゆっくり瞬いた。

こうして見ると、強面度はどっちが上かなあ。ディアンの方が、危なそう。

トゲトゲしているというか、いわゆる抜き身の刃って感じだ。

ガイアスさんは……寝ているドラゴンみたいな。起こさずに通ろう、と思う感じ。

くすっと笑ったところで、ディアンが口を開いた。


「背中……?」

「うん、よく見えると思って。大きかったよ! 代わりに依頼書も取ってくれたし」

「ガイアスを、踏み台に……?」


え、そんなことしてないよ?! 踏み台だなんて、そんな――。

違うよ、と憤慨しかけて、脳裏に今朝の光景を思い描いてみる。

すうっと血の気が引くような気がした。


「そういう……見方も、できたり……する?」


にわかに噴き出してきた汗が、こめかみを伝った。

もしかして僕、とても失礼なことを……? 

でも、でも……丁寧にお願いして受けてくれたのだから。嫌なら断るだけだよね?!


「で、でも! いい人だったよ! ギルマスさんは笑顔だったし!」

「笑顔じゃねえ、爆笑してたんだろが」


なんで知ってるの?!


「お前……マジでやめろ……」

「うい……」

  

ぎりぎりと頬を潰す手はいつもの数倍強く、その声は地にめり込むように低かった。 

  

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