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◆書籍化進行中◆【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第四章

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91 名前

「それで……魔笛ってあるでしょう、従魔とか用の。あれなら、魔力を載せて遠くまで届くから……いけるかなって」


ヴェルさんと簡単に連絡がとれたら、町から出てすぐ拾ってもらえるかも。そうすれば、ディアンがいなくてもきっと大丈夫。

師匠とディアンが揃うと喧嘩ばっかりなんだもの。仲が悪いのかどうかは、正直よく分からないけれど。

ふあ、と小さくあくびを零した。


あの町に、魔笛が売ってるだろうか。ヴェルさんは僕の魔力が載った音なら、すぐわかるみたい。

それを探してみようと思って――という話をしていたつもりだけど、半分夢の中だったかもしれない。

くっついたディアンが温かくて、ますます眠くなってくる。

遠慮なく体重を預けて魔力を流していると、低い声が体を通して伝わって来た。


「……一人では行くなよ」

「えーと……ここへ? どうして? ディアンも来たい?」


まるで僕の考えを読んだかのようなセリフに、重たいまぶたを持ち上げた。


「馬鹿か。てめえはまた捕まる可能性があるだろ」

「捕まる……? えっ、そんなわけないよ!」


どうだか、と短く息を吐くディアンに苦笑する。

幼児を監禁して奴隷扱いしていた、だっけ。一体彼の中で、師匠はどんな悪徳なんだろうか。

僕、そんな人のところだったら、すぐに脱出しそうな気がするけれど。


「じゃあ、毎回一緒に来る? ふふ、そうしたら師匠ともヴェルさんとも、仲良しになるかもしれないね」

「なるか」

「でも、ヴェルさんとは、僕よりも仲良しみたいに見えたよ?」

「目ぇ腐ってんじゃねえか」


どうしてそんな、断固たる拒否?! 仲良しじゃダメなことがあるの?!


「師匠はまあ……分かるけども。でも、ヴェルさんとは仲良くすればいいのに」


師匠はね、そもそも人嫌いなので……相手と仲良くしようという前提がないよね。そんな人を好きになりにくいっていうのは、分かる。

でもヴェルさんは別じゃない? あんなに素敵なのに。


「絵姿は知っていたんだけど、やっぱり本物は違うね。あんなに綺麗で、カッコよくて」

「どこがだ。ただのウゼえデカ鳥じゃねえか!」


ペタルグリフをそんな風に言うのは、多分ディアンと師匠くらいだと思う。

 

「何がうざいんだか、さっぱり分かんないよ! ギルマスさんが言ってたよ、『翼の王者』って。ペタルグリフってそんな風に呼ばれるんだね! そうだ、知ってる? ヴェルグラースって名前は、師匠、が――」 


心地よいまどろみから、ばちっと目が覚めた。

急に口を閉じた僕に、ディアンが訝しげな視線を落とす。

浮かんだ考えが僕の頭の中をいっぱいに占領して、徐々に、鼓動が大きく響いてくる。

僕、僕……そんなこと考えてなかった。師匠が、僕に……僕のためにわざわざそんなことしないって、そう思い込んで。 

  

「ルルア?」


すっかり魔力を流すのも忘れていて、ディアンがぐいと僕の顔を上向けた。

深い橙の瞳を見つめ返して、抱きしめる腕にぎゅうと力を込める。


「名前……。あのね、『ヴェルグラース』は師匠がつけた名前なの。古代魔法文字で、『空を統べる大いなる翼』って意味だって……」

「それがどうした」

「僕の、名前」


そう言って、息を吸い込んだ。

どうしよう。まったくの見当違いだったら。

……でも。


「適当だって言ってた。一般の名前でもないし、元になる『なにか』もない名前で。でも、本当はそうじゃなかった、の?」

「何の話だ」

 

ぱっとディアンを放して本棚へ駆け寄ると、大きな一冊を引っ張り出してきた。


「ねえディアン、一緒に見て」

「……何を」


しっかりディアンを感じる距離で、ボロボロになった分厚い本を開く。


「もし、もし古代魔法文字だったら……意味が、あるから。きっと分かる。それが、誰のための名前か――」


気付いたディアンが、ぐっと唇を結んで僕を見る。

その瞳の色に、少しだけ鼓動が落ち着いた。


「……大丈夫。ね、どうしよう。白い毛むくじゃら、みたいな意味だったら」


師匠だったら、やりかねない。くすりと笑うと、ディアンが少し目を細めた。


「見たいのか」

「うん……そうだね。僕、見たいな」


フン、と鼻を鳴らしたディアンが、手元の本を覗き込んで顔をしかめる。


「読めねえ」

「そうだよね、僕が説明するから大丈夫! 僕の名前の音――多分、これだよね。同音が二回……ルをふたつ……魂……が、ふたつ。それと、光か、もしくははじまり……」

「……!」


紙面を見つめたままの僕に、ディアンの視線が注がれているのが分かる。

僕は、何か間違えているだろうか。

ル・ル・ア……『二つの魂をもって始まる者』――。


「これは、犬じゃ、ないかも」


そう絞り出した僕に、ディアンが不機嫌そうに頷いた。

 

「お前の名前だ、ルルア」

「でも、僕が訳を間違えて――」

「どうでもいいわ。俺には、てめえがルルアだ」


ぱちっと瞬いた。

見上げた橙は、迷いなく僕を見る。

……そっか。


「そういう話だっけ?!」

「そういう話だろ」


なんだ、最初からそうだったんだ。

お腹の中でぐるぐるしていたものが、急になくなった気がした。

そっか。たとえこの訳が、全然違っていたって……ルルアは、僕の名前だ。


「じゃあ僕、答え合わせはしないでおこうかな!」


ふふっと笑ってベッドへ四肢を投げ出した。

僕、この訳が気に入っているから。そういうことにしておこう。


「明日、聞いてみようかな」

「何を」


寝返りを打ってディアンへ視線を返し、顔半分まで布団を引っ張り上げる。


「犬の名前」


まったく、師匠がきちんと答えてくれていたら、あんな風に思うこともなかったのに。

ルルアの意味は聞かないけれど。

だけどきっと、犬の名前はルルアじゃない。

確信をもって、僕はおやすみを言った。


遅刻!!すみません!

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素敵な名前だねルルア。 でも2つの魂か、やっぱり…
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