表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆書籍化進行中◆【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/100

90 邪魔する宣言

魔法の灯りの中、大きなテーブルを庭に設置した。もう、お外用のダイニングセットを置けばいいかもしれない。

目の前では、師匠が眉間にしわを寄せつつ、ちまちまお魚を食べている。相変わらずだけど、きっとこれは好きな方。お腹に優しそうだもんね!

ヴェルさんは、あっと言う間だ。ひょいと投げ上げてぱくっとひとくち。うむうむ、と味わうようにくちばしを開閉させている。

普段何を食べているのかな。とても、僕らが用意するお食事では足りないと思う。


そして僕の隣では、まるで一大事のようにガツガツ食べているディアン。多分しょっぱいだろうお魚を頬張って、ずぞっとお粥を椀ごと呷る。

……ほっぺがぱんぱんだよ? お魚って、そんな風に食べるものだっけ? 


「あの……ディアン、骨があるよ? 大丈夫?」

「もう食った」

「骨も!?」


大丈夫なの? そう言えばバリバリいっていた気がするけど。僕より犬みたいだ。


「る!」

  

グリポンが叱るように鳴いて、僕の手をつついた。

 

「ふふ、ちゃんと食べるよ」


はぁい、と笑って自分の魚に向き直る。

大きなお魚は、選書魔法で選出したレシピ頼りに、シンプル塩焼きにしてみた。

黒っぽいと思っていたお魚は、じっくり焼くとぴかぴかの銀色になってびっくりだ。

所々金色にさえ見えて、何て豪華な見た目なんだろうと感心した。

皮目の所々には、カリカリに結晶化した白いお塩。口へ入れる前から唾液が溢れてくる。

ドキドキしながら身をほぐせば、ぱり、ふわりと湯気が上がった、白い身。

僕はディアンと違って上品な犬だったと思う。念入りに骨をとって――。

 

「わ……美味しい! お魚ってこんなに美味しいんだ! うわあ、僕お魚も好き!」


きゅう、としょっぱくなる口の中へお粥を投入すれば、途端にお粥の美味しさまで倍増する。これはすごい。そりゃあ、ディアンがあんな風になるわけだ。

 

「僕、こんな大きい魚初めて食べたよ! こんな美味しいんだったら、また獲りたいな!」

「へー、初めて食ったのか」


そうだよ! とにっこり笑う僕からディアンの視線が一瞬外れ、ちらっと他所へ向く。


「そういや、店で食うのも初めてだっつってたな」

「うん、あの肉とパンだよね! あれも美味しかったなあ。そうだ師匠、お店の人はね、ものすごく大きい声でやり取りするんだよ!」

「は、その程度の店――てめえは黙ってろ!」


師匠が投げつけた野菜を上手にキャッチして、ヴェルさんがクカカ、と鳴きながら飲み込んだ。

言いかけた古代魔法文字が霧散する。

何言ったのか、全然分かんなかったけど。とりあえず師匠はご機嫌ナナメだ。

ルルア、と呼ばれて隣へ視線を戻すと、ディアンがほんのり視線を逸らした。


「今回、依頼達成の金があるだろ。もう少しいい店に行ってもいい」

「本当?! それって外依頼達成記念?! 楽しみ!」


ぱあっと渾身の笑みが浮かぶ。ディアンは、そうだとも言わなかったけれど、でもそういうことにしておく!

無言のディアンは、ちらっと僕を見て席を立った。


「部屋にいる」

「うん、寝ていていいよ!」

「てめえに部屋を貸した覚えはねえ!」


憤る師匠をフン、と鼻であしらって、ディアンは振り返りもせずに室内へ戻っていく。

その傍ら、師匠とヴェルさんがやり合っていた。ヴェルさんって……結構余計な事を言うというか、案外人をからかうのが好きなタイプなんだろうか。

気高く美しい、賢き幻獣のイメージが……。


「師匠、元気そう。ねえヴェルさん、僕がいなくたって元気だよ」


ふふ、と大きな幻獣を見上げると、師匠の方が反応した。


「――ッ。……よくもぬけぬけと。お前が、この俺の邪魔しているんだろうが。こいつらがいなければ、俺の望みは遠からず静かに叶ったものを」


ぷいとそっぽを向いた師匠に、にっこりしてみせる。あのね、僕が言ったことは取り戻せないから、もうちゃんと言うことにするよ。


「ごめんね。……でも僕、師匠の望みを邪魔をするね!」

「なっ……」


絶句する師匠の側で、ヴェルさんがばさばさ羽ばたいて笑った。

僕、平気じゃないよ。

でも、今、こうして師匠を見ていて、やっぱり思うもの。

今の方が、いいなって。


だから僕、師匠の望みを叶えるよりも、僕の望みを優先するね。どっちが本当に良かったかなんて、どうせ分からない。

ねえ、だって師匠もどうせ分かってないよ。そうでしょう?


「そうだヴェルさん、ここへもっと簡単に来られないかな? ヴェルさんに『来たよ』って知らせる方法ってない?」

「クァ」


思案気に首を傾げたから、何か考えてくれているのだろう。


「来るな! 鬱陶しいわ!」

「だって僕、会いたいもの。師匠も、もっと僕に会いたいと思えば解決するよ!」


えへっと笑う僕に、師匠がまた言葉を失った。

師匠も、僕と会うのが楽しみになればいい。何か、いい方法は――そこで、はたと思い出した。


「そうだ、師匠これ見て!」


懐からそっと取り出した、あの卵。僕の体温が移ってほんのり温かい。

ヴェルさんが姿勢を低くして、あーんと口を開け待機している。

 

「ち、違うよヴェルさん?! これはちゃんと孵化させるの! ねえ師匠、楽しみじゃない? 次来るときには、孵化してるかもしれないよ!」

「何が楽しい。トカゲの卵なんざ」


そんなこと言うなら、孵ったって見せてあげないからね?!

でもとりあえず、師匠が何も言わないってことは、危険はなさそう。そしてヴェルさんが物欲しそうな目で見ているから、厳重に管理しなくては。

 


――師匠とこんなに話したの、初めてかもしれない。 

憎まれ口は変わらないし、ぶっきらぼうだし、僕みたいには笑わないし。でも、時折ヴェルさんに怒りながら、こんな時間まで話をした。

町の話、ディアンとの話になるたび不貞腐れるのが可笑しくて。師匠の話が出るたび舌打ちする彼が脳裏をよぎる。

そっと、そんな彼が眠っているだろう自室の扉を開けた。


「あれ? 起きてたの?」


ソファで振り返った人影に、ちょっとビックリして駆け寄った。


「そんな早く寝ねえだろ」


そうだけど、部屋に行くって言うからてっきり眠いのかと。

だって僕、既に眠いけど……。


「僕、先に寝ちゃったらごめんね」


ベッドに飛び乗って、ディアンを真似るように足元だけ布団をかける。

ちょうど窓の外に、師匠の瞳によく似た月が浮かんでいた。

 

「……ルルア」

「え」


うつら、としかかった目がぱちっと開いた。  

やっぱり、聞き違いじゃなかった。食卓でも、呼んだよね?

とても、とても新鮮に感じる僕の名前。


ぱっちり目を開けた僕に、不貞腐れた顔をする。


「……やるんじゃねえのか」

「何……ああ、魔力循環! あ、でも……」

「ンだよ」


ディアンから声をかけるなんて珍しい……。

少し躊躇して、眉尻を下げた。


「師匠、寝てないかな。多分、魔力が動いたら分かると思うんだ」


起こしてしまわないだろうか。一日やらなかったからといって、どうというものでもないし。

だけど、にやっと笑ったディアンが、手を伸ばして僕を引っ張り寄せた。


「こんな時間に寝てねえよ」

「うーん、まあ大人だもんね」

「知られたらマズいわけじゃねえ、だろ?」


……うん。そう、なんだけど。

なんだろう、むしろマズイことだと言わんばかりのような。

妙に機嫌のいいディアンを不審に思いつつ、まあいいかとぎゅっとした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ディアンの仕返しかな(^_^)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ