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◆書籍化◆【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第四章

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86 食いきれずに腐るから

「幽霊茸……こんなになっちゃった……」


すごく長かった気のする一夜が明け、もうすぐ人の暮らす場所へ帰り着く……そんな折。

しっかり握っていたはずの袋がぺしゃんこになっていて、まさか落としてきたかと思ったけれど、そうではなかった。

取り出したのは、ひらひらした半透明の干物のよう。

ぺたんこになってる……どうして?

見る影もない幽霊茸だったものを手に、しょんぼり肩を落とした。もしかして、依頼失敗だろうか。でも、確かに採ったのに。

 

……いくらしみじみ眺めてみても、ぺたんこになった幽霊茸は変わらない。

切り替えよう。僕のはダメになってしまったけれど、ディアンはどうだろう。

そう思って振り仰いで――


「ねえ、ディ……え?」


サッと顔を背けたディアンに、きょとんとする。

……何かおかしいことがありましたか。そんな、口元を抑えて堪えるほどに。

むっとむくれて見上げると、肩を震わせていたディアンが、ようやく息を整えた。


「それで、フツー。それが幽霊茸だ」

「これで……? じゃ、じゃあ大丈夫なの?!」


ぱあっと瞳を輝かせた僕を見て、また発作に襲われたディアンが顔を背けた。

……ディアン? 今、笑うところではないよ?

あと僕、もうちょっと早く教えてくれても良かったと思うんだ。なんで黙って見てたの?

むっすり頬を膨らませた僕は、歩く速度を速めて町へ向かったのだった。



「――凄いね……?! こんなにもらえるんだ! 薬草ともゴブリンとも、全然違う!」


報酬をもらって興奮冷めやらぬ僕に、溜め息が落ちてくる。


「てめえの命は随分安いと思わねえのか」

「あっ、そっか。でも……どうだろうね? 僕、そんなにお値段つくかなあ」


確かに、奴隷売買の闇市は金貨が当たり前だと言うし。

僕、孤児だからその点は大幅マイナス。ただ魔法使いだから……それに、まだ若い。なるほど、結構な価値があるかもしれない。

それを思えば効率は悪いし、ただのお肉となって魔物に食べられるのは、あまりにもったいない。


「でもさ、僕を売ったら僕の自由がなくなるわけだし。お金があっても……」

「そういうことを言ってんじゃねえ……!!」


違ったらしい。割りと真剣に考えたのに。


「分かるよ、もったいないよね。だって、いっぱい頑張って、いっぱい貯めて来たものがあるんだもの。僕も、ディアンも。大事にしようね!」

「……俺はひと山いくら、だ」

 

ため息交じりの声に、唇を尖らせた。


「ディアンがたくさんいたら、そうかもしれないけど。いないじゃない」

「俺みてえなのはいくらでもいる。てめえは、自覚しろ」

「甘く見すぎたよ、ディアンは」

「あァ?」


途端にまなじりを険しくしたディアンが、真正面から僕を見る。

ねえ、その瞳。


「ディアンの経験は、ディアンにしかないから。経験ってものの価値を、甘く見てるよ」


力のほとばしるような、その生命力に満ち満ちた瞳。朝日と夕日の橙。ああ、命だなあと、そう思う。

それを、どうやって手に入れたの?

ね、選択なんて無限にあるんだから。

 

「……マジでてめえはどういう神経してんだ」


ふいに、がしっと目を……というか顔を塞がれた。濃橙の瞳を存分に眺めていられたのに、大きな手で顔半分が覆われてしまう。

不機嫌な声音に、言わんとすることは分かるものの、しょうがないでしょう。僕なんだもの。

僕の言いたいことも、少しは伝わればいいんだけど。


「ディアンがわからなくても、僕が大切にするからね!」

「はぁ……? 先にてめえの身を守れるようになってから、大口叩きやがれ」


非情にごもっともなことを返され、うっと言葉に詰まった。

でも、逆に言えば僕が身を守れるようになれば、好きなだけ言えるってことだ!

えへっと笑った僕に、ディアンが額に手を当てて息を吐く。

どうやら、ディアンの想定と違うらしい。

こういう選択をするから、僕なんだな。そう思って可笑しくなった。

ねえ。人間一人に積み上がる経験と選択って、いったいどのくらい……?


黙って歩き出したディアンの横につきながら、教会とは違った方向に首を傾げる。


「どこに行くの?」

「食材店」

 

あ、そうか。お魚は魔物じゃないものね。

道中狩ったような小物類は、お肉としても素材としても売れないらしく、教会へのおみやげになる。

お魚も半分くらいは教会用にとっておくんだって。


街歩きも慣れたもの。遅れないようちょこちょこ駆けながら、収納から本を引っ張り出した。

これは、ミラ婆さんから借りた食材の本。こんなところで役に立つとは思わなかったけれど。

幽霊茸は食材じゃないらしく載っていなかったけれど、お魚は……あった!


「レッド・シロウロスだって! 赤かったかなあ……? あ、ヒレの話?」


すごく美味しい、だったらいいなと思ったけれど、食用であることしかわからなかった。

僕が食べられるところだったけれど、なんて思ったら可笑しいような……そうじゃないような。


ふと、ぱらら、とページを捲った。

すごい、な……。人間には文字がある。

人間一人に積み上がる経験と選択を、他に分けることもできるんだから。

恐ろしい生き物だ。個の経験を群れに、これほど多くに、正確に伝えられる生き物がいるだろうか。


グリポンを思い出して、ふふっと笑った。

個であり群れである彼らほどではなくたって、人間もわりとすごいでしょ。

なんだか身震いするような心地。僕の中に詰まった知識は、一体どのくらいの人生分だろう。


「……やっぱり、もったいないよ。大事にしなきゃ」

「欲張ったところで、どうせ、食いきれねえで腐るだろ」

「……!!」


僕は、はっと目を見開いた。

ディアンが、訝しげにしながら大きな食材店へ入っていく。

そうか、そういうこと。師匠がしたいことは。

腐らせてしまうより……。

 

「ディアンは……凄いね! なんて賢いんだろう」

「…………そうか」

 

そんなぬるい視線を気にも留めず、僕は渾身の笑みで見上げた。


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とっても可愛いルルアとグリポンをぜひご覧ください!
ディアンかっこいいですよ!師匠もね!!

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― 新着の感想 ―
経験か、中々良いことを言うね。ルルアは教育者の素質があると思うな。先生になったらいいんじゃない!
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