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苦節青春奮闘記

本日、三年生を対象に、卒業後の進路を決める担任との面談が行われた。

「君の目標とする大学への指定校推薦は無理だな。部活の成績も今ひとつだし、評定平均値も足りない。一般入試を考えたらどうかな?」担任の舞田啓介が咳払いをして目尻を上げる。

「指定校推薦ならどこでもいいんですけど。一応、部活では主将をしていましたし、面接でアピールすれば、ひょっとするかも知れません」

「学業成績がもう少しよければいいんだが。ただ水上君。君は口下手で積極性に欠ける。面接には向いていないね」舞田ははっきりと言って捨てる。

「そ、そんな事、ないです。本番になればちゃんと話せます」

 敦の強気に舞田の眉が下がる。

「分かった。決めるのは君自身だ。私ではない。それならひとまず、第二希望の武川ぶせん大学でいこうか?」

「はい、お願いします」

「でも水上君。剣道部ではかなり頑張ったみたいだね。大会では顕著な実績こそ残せなかったが、創部以来最高の結果を出した。そして弱小校から中堅校にまでレベルを引き上げた。その原動力になったのが君だと聞いたよ」舞田が一転上機嫌に褒め始めた。

「ありがとうごさいます。僕だけじゃなく、部員全員、皆泣きそうなぐらい練習しましたから」

 敦は歯痒かった。

 たとえ大会の成績が悪くとも、部内での練習態度や真面目な取り組みをもっと評価に入れてほしいと思った。

 しかし世の中、価値を認められるのはあくまで成果を出した者だ。

 これ以上食い下がる理由もない。

 敦は一礼して教室を出た。

「いいな、二階堂さん。音大の推薦貰えるなんて」正義がもどかしげに言い寄る。

「まだ決まったわけじゃないから。石垣君だって演劇科受けるんでしょ?」亜季が謙虚な口調で言う。

「ダメ元でね。偏差値がからきし足りないから落ちるだろうけど。なあ敦、お前もそうだもんな?」

「煩い。お前よりは断然勝算ありだよ」

 そこに澄ました目つきの由美がやって来る。

「男二人して、低レベルなもんね。私は有国大よ。私立は美桜と駒田」

「えっ!有国って言ったら、超有名国立大じゃんか!美桜に駒田も偏差値70ぐらいじゃなかったっけ!」正義が嘆くように放言する。

「天才は違うね。すごいすごい」敦ももはや嫉妬さえ覚えず嘆息する。

 皆もう何処へでも進学してくれ。俺の知ったことじゃない。

 どうせ社会人になれるかどうかも分からないんだ。

 人類の前には魔王の野望が立ちはだかってるからな。

 今のうちに夢を見て快楽に耽溺すればいい。

「でも今のところ、私たちの将来は暗闇だものね。魔王が地球に来たら全ては終わりだわ」 

「言えてる。俺たちみんな奴隷になるんだからね。けど、もし魔王に勝って地球が救われても、企業に就職したらどっちみち奴隷だけどさ」正義が開き直って皮肉を言う。

「じゃあ、石垣君は魔王さんが勝っても負けても同じだと思ってるんだ。奴隷になるとそんなに辛いのかな?」

「二階堂さんは呑気で幸せだなあ。奴隷ったら、時間や自由を支配者に奪われちゃうんだよ。辛いも何も、人生終わっちゃう」

「それなら、あなたはどっちに転んでも、既に終わってるわけね。可哀想な落ちこぼれ」由美が冷淡に言い放つ。

「だから、終わらないために演劇科に行って有名人になるんじゃない。大丈夫。俺の将来は拓けてるんだから」

「尚の事、終わってる。そんな夢物語、絶対に実現しっこないわ」

 皆、魔の陰謀に阻まれるなか、真面目に自分の進む道を考え苦慮している。

 敦は三人を愛しく、また不憫に思った。

 嫌なことは早く済ませたい。永い苦しみや煩悶はお断りだ。

 いつやって来るんだ魔王軍。

 地球の存亡をかけた救国使としての過酷な密命。

 人々は二度現れた魔物の正体を、まだ知ることなく日常に埋没している。

 そんな中、三度目のラッパがまもなく鳴ろうとしていた。

 

 小代県登山町は数日前から激しい降雪に見舞われ、その隅々までが降り積もる白雪の化粧に覆われた銀世界となっていた。

「紗代子、温まりなさい」彫刻職人の菊太郎がまだ小学生の一人娘に猪鍋を盛ってやる。

「今年は寒いね。学校も臨時休校だって」

「仕方がないな。勉強ぐらいおじいちゃんが教えてやろう」

「勉強はしたくないわ。私も職人になる。職人なら学問なんて必要ないでしょ?」

「職人にも学問は入り用だ。手作業には意外と頭を使うもんじゃ。それより、本当に職人になりたいのか?技を極める道というのは、思いのほか厳しい。女の子の紗代にできるかのう」

「できるわ。勉強は苦手で嫌いだけど、彫刻は得意で好きだわ。それに、おじいちゃんと一緒だと楽しい」紗代子は笑顔をはじけさせる。

「おじいちゃんはいずれ先に居なくなる。そうなれば、紗夜は一人ぼっちになるぞ」

「平気だわ。おじいちゃん、居なくなっても天国から見守ってくれるでしょ?それなら一人でも頑張れるもん」

「紗代子。そうかそうか」菊太郎は娘を抱き寄せる。

 するとその時。表の雪道から騒々しい音が耳朶を刺激した。

 何事かと、菊太郎がガラス戸を開けると、夜闇に何者かが大勢、金属音を立てながら仰々しく行進していた。

 こんな夜更けに何処の誰だと、菊太郎は目を凝らす。

 そして一刹那の後、驚き竦んだ。

 それは人間ではない、異形の骸骨が勇ましく雪面を闊歩しているのだった。

「な、何じゃこれは!」腰を抜かす菊太郎。

 その声に反応した骸骨が、此方に視線を向けた。

 菊太郎は慌てて家に戻り、鍵をかける。

「どうしたの、おじいちゃん?」惑乱に陥る菊太郎を見た紗代子が尋ねる。

「悪魔じゃ。悪魔が来おった。おそらく、あの噂の異星人の一味だろう」

「異星人?それって、ニュースで話題のドラゴンや巨大鳥のこと?」

「そうだ。また現れたんじゃ。それにしても、なぜこの町に」

 その時ガラス戸の外に強い殺気が生じた。

 二人が息を呑むや。ブスり!と、尖った刃がガラスを突き破って中に刺し現れた。

「おじいちゃん!」紗代子が菊太郎の背中に隠れる。

 ガラス戸は錠前もろとも叩き割られてしまった。


 山深い山岳内陸地登山町を突如、謎の魔物が占領した。

 メディアは実相を報道しようと馳せ参じたが、魔物たちに威嚇され町内には入れず、隣町の訓内町を詰所として待機するしかなかった。

 敦は自室でネットニュースをサーフィンしていた。

 しばらくすると、マゴヒルコが来た。

「情報によると、拉致したのは骸骨の集団らしいね。てことは、あの軍団?」

暗黒卍忌まんき軍団だ。魔王マンドラが自身で産み出した天塩の寵愛を受ける髑髏騎士たち。魔王のためなら何時でも命を投げ出し、あらゆる献身を厭わない。言わば、絶対的忠誠心と絆で魔王と結ばれた決死隊だな」

「で、得意技とかあるの?」

「これまでの無双神竜軍団や超魔飛翔軍団に比べれば、軍団としての力は劣るが、何せ奴らは魔王の子息。親のためなら、骨身を砕いて何でもして来るだろう。強敵に間違いはない」

「そうなの。何か、今の俺たちならすぐ鎮圧できそうだけど」

「傲慢になるでない。その過信が命取りになるのだ」

 何だか分からないが、今度は魔王を狂愛する骸骨騎兵か。

 野獣とかはいないみたいだから、案外楽そうだけど。

 まあ、魔王軍だからな。油断はしねえ。

 敦は早速お側役舎使三人にラインを書いて、出発の準備を始めた。


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