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闇を打ち破る真の愛念

 魔王特命係最期の一人、そして政治家坂島。

 敦の部屋ではマゴヒルコの熱弁が振るわれていた。

「坂島はとんでもない野心家だ。洗脳されてより誇大妄想が酷くなっている。こうしている間にも、危険な政策を実行に移すやも知れぬ」

「国全体を人質に取ることだってあり得るかもね。核保有国と戦争する可能性だってゼロじゃない」そう言って正義が指で丸を作る。

「まあでも、特命係は後一人だ。何とかなるよ」敦は暢気に欠伸をする。

「だけど魔王は何で全軍率いて攻めないのかな?俺だったら、こんなジワジワしたやり方しないけど」

「さあな。マニアックな偏執狂なんじゃないの」

 黄泉の生き字引マゴヒルコが言う。

「人間の苦しみ喘ぐ姿を見るのが魔王の何よりの悦楽。隕石級の爆弾を落として、ドンと地球を煤塵にする方法もあろう。しかし、それでは奴の渇欲が満たされん」

「何てえげつない悪魔なの。私たちのリアクションが楽しくてしょうが無いのね」由美が憮然と腕を組む。

「少しずつって言うのは、魔王さんの温情かも知れないわね」亜季がにこやかに髪を撫でる。

「あのね。そう言う問題じゃないよ、二階堂さん」正義が苦虫を潰す。

「でも、長い戦いになるな。果たして人間は勝てるのか」敦は黙念と呟く。

「天津神一同は惜しみ無いサポートをしてくれる。後は救国使であるお前の努力次第だな」マゴヒルコは両手を広げてポーズをとる。

「んなこと言ったってねえ。努力するにも限界ってもんがあるんだけど。そもそも天津神のサポートっていつあんのよ?全然実感できないんだけどなあ」

 目に見えない加護に俺は守られているのか。だとしたら、俺はやはり神の化身だと言うのか。

 思い出せば、あのウイルス事件以来、さんざん危ない橋を渡りっぱなしだ。

 今やクラスメイトの正義、亜季、由美を巻き込んでの大活劇にまで発展してしまっている。

 魔王軍団の次期襲来はいつか。そしてマンドラ本人はいつ自分たちの前に正体を見せるのか。

 暗澹とした未来を危惧しながらも、焦眉の難事を解決していくしか敦に術はなかった。


 坂島光徳の議員事務所は大都会の街角にあった。

 その一室にワープした敦たちは、毅然と椅子に座って待ち構えていた坂島とリザルの強力な視線に射抜かれた。

「待っていたぞ、救国使」リザルが真っ先に開口した。

「そうみたいだな。手間が省けて嬉しいよ」敦が笑いで返す。

「兄弟は二人とも倒したぞ。残るはお前だけだ」正義が挑発的に言う。

「兄弟だろうが、使えぬ愚者など捨て駒だ。大方、油断したんだろう。だが私は長兄。奴等とは違う」

 リザルを宥めつつ、坂島がゆっくり起立した。

「水上君。私はね、この国を魔国最大の主要国にしたいと考えているんだ。世界中の国の中でもマンドラの寵愛を最も受ける超国家にね。そのために、まずこの国を鎖国化させる必要がある。私は近々行なわれる政党内総裁選で確実に勝利することになっている。私が元首になった暁には国を海上封鎖し、この国を世界最初の魔王軍直轄地にするつもりだ」

「海上封鎖?あんた正気なの!そんなことしたら、食糧危機で国民が餓死するわよ!」由美が激昂して反論する。

「魔王軍の天領になるんだ。何でも望みは叶う。その心配はない」

「あんた、それでも政治家か?魔王がそんな優しければ苦労はしないさ。国民の生命、財産、自由をちゃんと守れよ、バカヤロー!」敦が早口になって激怒する。

「無駄だ救国使。坂島の魂は既に魔獣だからな」リザルが不敵に笑って、坂島の上着を脱がせた。

 そしてワイシャツをめくり上げる。

 すると背中に異様な生物が張り付いているのが見えた。それは蜘蛛のような多足の奇っ怪な寄生生物のようだ。

「な、何だ!エイリアンみたいなやつが!」正義が悲鳴を洩らす。

「魔界の幻虫、死刺蟷螂ししとうろうだ。坂島の身体は魔獣化している。もうこの世の人間ではない。お前たちを捻じ伏せる戦闘力も備わっている」

 一同は唖然と息を呑み、事態の深刻さを再認識する。

「皆、今回は私にやらせて」唐突に亜季が気概を吐露する。

「二階堂さん」敦が驚いて凝望する。

「私の破邪の錫杖が一番いいと思う」そう言うと、カプセルから出現させる。

「このアイテムは悪を無力化するって、マゴヒルコさんが説明してくれたし」亜季が杖を強く握って戦意を固める。

「気をつけてね。アイツは魔獣に寄生されているんだ。何をして来るか分からないよ」正義が警告する。

「一人じゃ危ない。俺も一緒に戦うから」敦が横に並ぶ。

「私一人で戦う。水上君は側で見ていて」亜季の決然とした物言いに、敦は気圧されてしまった。こんな気性の強い彼女を見るのは初めてだった。

「分かった。いざと言う時には俺も皆もいるからさ。無理はしないで」

「ありがとう」

 坂島が机を押し退けて亜季の前にやって来る。

「いい友情だな。殺すのは惜しいが、魔王への反逆者は生かしてはおけん」

「坂島さん。女の子だと思って手加減するなよ。ミザルやガザルと同じ轍を踏むことになるぞ」リザルが注意を喚起する。

「任せてくれ。私はこれまで理性だけで政治をやってきた。元より情はない」坂島がそう言い切って高笑いする。 

 そして、坂島の顔が急に醜く鋭くなり、まさに魔獣の形相に変貌した。

「死刺蟷螂のスイッチが入ったな」リザルが満足げに見つめる。

 すると坂島が異様に醜怪な口振りになる。

「正義は嫌いだ。カマトトのメスブタめ、噛み殺してやるわ!」常軌を逸した坂島が飛び掛からんとする。

「待って下さい。坂島さん。あなたは魔物に理性を奪われるような人じゃありません。今まで、その理性で国難を救ってきたはずです」亜季が毅然と破邪の錫杖を翳す。その杖先から仄かな光が生じ、柔らかに坂島を照らす。

 突進しようとした坂島は、その光源に思わず後退してしまう。

 そして、苦痛に顔を歪ませる。

「悪魔を調伏する聖なる光ってことだわ。あの子にふさわしいアイテムね」由美が唇を緩める。

「これが正義の力か。クソアマが、いい度胸だ。骨の髄までしゃぶってやるぜ」坂島が涎を溜めて嘲笑う。

「もとの坂島さんになって下さい。そして魔王さんに愛と調和を持つよう説得をお願いします」亜季が真摯な口調で言う。

「愛と調和だ?堕天使の説教か?悪に喧嘩を売るつもりか?ハッハッ!その勇気を買って、お前は殺さずに魔王の妾に推薦してやろうか?」

「坂島さん。あなたは政治家という、社会を平和にする仕事をなさって来ましたね。あなたが活躍することで、地球は幸せになります。どうか人間に御慈悲を下さい」亜季は実に軽妙な語り口で敵を懐柔する。

 坂島が再度体当たりをかまそうとすると、錫杖がすかさず神聖な光を発してそれを撥ねつける。

「いいぞ。あの杖なら、魔物は全く近寄れないみたいだ。その調子、頑張れ二階堂さん!」正義が手を叩いてエールを送る。

「破壊獣の実力を甘く見るなよ。坂島さん、あんたの魂は私の手中にあるんだ。本気になれば正義など敵ではない」苛立ちを募らせたリザルがけしかける。

「そんなヤワな武器、へし折ってやるぜ!喰らうがいい!魔炎禍!」そう唱えると、坂島の身体から凄まじい炎熱波が迸り出た。

「きゃぁ!」亜季がまともにその火勢に包み込まれる。

「二階堂さん!」動転した敦が叫びかける。

 炎が亜季の身体を焼けただれさせんと渦巻く。

「脆い。それでも天津神のアイテムか?まるきり看板に偽りありだな」坂島が笑い捨てる。

 しかし破邪の錫杖とて、これしきの魔力に屈従する二流品ではなかった。

 杖が清冽なこがね色の光輝を放ち、亜季を囲い燃やす火炎を鎮火していく。

「やるじゃない。看板は偽物じゃなかったわね」由美が頬を緩まして解説する。

「今のは怖かったです。まだ和平に応じてはくれませんか?」亜季が目力を込めて問い掛ける。

「おのれ。メスブタに愚弄される筋合いはない!」 

「魔王さんたちは自分を分かって欲しいんですよね?幸せになりたい。愛されたい。ただそれだけなんでしょう」 

 亜季の真心ある言葉に、坂島が徐ろに鬼面を崩す。錫杖を装備したせいか、亜季の人格がとても高潔になっている。

「何だと?愛だ?こしゃまくれた偽善者め」そう言いながらも、坂島の口調からやや残忍さが抜けている。

「分かっていますよ。あなたがたは愛を求めています。だから私が愛をあげます」亜季は錫杖を空中で左右に振る。

 杖から光の清流が溢れ出て坂島を包み込む。

「愛?この温かく慈しみ深い感情が」坂島が聖なるエナジーを受け、人間の表情を取り戻す。

「何をしている!女神などに惑わされるな!お前は魔王の夢を実現させるために魂を私に差し出したのだ!何を今更血迷っている!」リザルが野望の火をもう一度焚きつけようと喝を入れる。

 坂島の面貌がまたも険しく獣化した。

「俺は騙されんぞ!偽愛など一瞬の泡沫よ!逆らう者には制裁を下すまでだ!魔風で死ぬがいい!烈怒塵!」坂島が気合いを吐くと、風塵が舞い上がり刃牙のような形に変化し、猛スピードで発射された。

「いやぁ!」亜季は風圧に巻き飛ばされ天井に激突した。服とズボンがズタズタに切り裂かれてしまう。

「二階堂さん!」敦たちが落下地点に駆け集まる。

「酷い。傷だらけだ。ヤバいよ」正義が悲壮な顔で頭を掻き回す。亜季は意識がなく、呼んでも叩いても反応しない。

 敦は悔し涙を噛み締める。何てことだ。やはり俺が戦うべきだった。側役とはいえ、女の子をこんな目に遭わせてしまったのは、救国使かつ男子である自分の責任だ。

 くそっ。親御さんにどう弁解したらいいんだ。

 亜季の笑顔と澄んだ声が脳裏に甦る。

 二人は恋人の域にまで達していたはずだ。学校生活では、自分にとって彼女が最大の慰みであり幸せだった。

 頼む。死なないでくれ。また勉強しよう、遊ぼう。そして交際しよう。

「杞憂だわ。見てごらん」由美が微笑を浮かべる。

 見ると、亜季の体中の傷が塞がっていく。破邪の錫杖が清輝を放ち、持ち主を守護する。

 亜季が目を覚まし立ち上がると、何事もなかったように笑う。

「さあ、続けましょ」

 敦たちは悟った。この杖がある限り、亜季は必ず勝てる。

「またしても。ひ、怯むな。魔王軍の恐ろしさを見せろ!」リザルが苦渋の面相で怒号する。

「信じぬぞ!俺は愛など信じぬ!」坂島が血気盛んに吐き捨てる。

「あなたは人を愛したことがあるでしょう。ならば知っています。愛の真理を」

「愛?」言われ、しばし逡巡する。そして穏健な面構えになると、坂島は訥々と語った。

「かつて両親は俺を田舎の地方公務員にするつもりだった。偉大な人物にはなるな。夢や希望などいらない。毎日安心して暮らせればいい。子を生み家庭を持ち、平凡に生きろとな」

「それはあなたへの愛がある証左ですね」

「そうかも知れんが、俺は反発した。俺は田舎を出る。世界に挑戦する。大物になる。でっかいことをしてやる。以来、家を飛び出し政治の世界に飛び込んだ。俺は成し遂げたのだ。目下、国の全てを掴みかけている。誰にも邪魔はさせん」

「あなたは人民を愛しています。社会を世界を思い遣って生きてきたはずです。だから魔王さんに言うべきです。私は人間を大事にし愛しますと」

 錫杖から無償の愛の波動が流れ出る。

 坂島は人間の顔つきに戻った。

「両親は俺を愛していたのか?」

「はい。だからこそ、説教も心配もしたのだと思います。それは全てあなたへの愛です」

 坂島の目から涙が滴る。

「俺は人を愛したい。親を妻を子供を。そして人間を」

「愛してあげて下さい。好きなだけ」

 坂島は床に跪き大人しくなる。

「えーい!この裏切り者が!魔王の寵愛を仇で返すつもりか!」リザルが走り寄り、坂島の背中に付いた寄生獣に思念を伝える。

「死刺蟷螂よ。こいつらを地獄に突き落とせ」

 途端、坂島が狂おしい叫び声を上げた。

 同時に大振動が発生し、建物が激しく揺れ始めた。

 椅子や机がダンスのように弄ばれ、窓が破損し壁にひびが走る。

 「ああっ!」床が裂け割れ、亜季が転落する。

 敦たちも地震に翻弄され、あちこちに転がり倒れる。

 敦は魔封銃の照準を寄生獣に向けようと躍起になる。

 あの杖がついているからには、亜季の安否は心配ない。

 振動に合わせて少しずつ、坂島の元へと転がりながら移動していく。

 揺れと格闘することややあって、敦は坂島の背後に密着した。

 そして、憂さを晴らすように声を張り上げて、背中に魔封弾を撃ち抜いた。


 致命打を受けた寄生獣は坂島の身体から遊離し、今度は近くにいたリザルの胸に寄生した。

 奇声を漏らしてのたうち回る特命係の長兄を、敦が魔封弾で黙らせた。

 かくして魔王マンドラの策謀は水泡に帰したのだった。

「君たちのおかげでこの国は救われた。正直、勲章を授けたいところだが」坂島が凛然と一同を見る。傀儡時の記憶は殆どないようだった。

「それは無理ってもんだ。この事は内密に扱ってもらわないといけませんし」せっかくの栄誉にあずかれず、正義が幾らか不服そうに言う。

「そうか。確かにこれは国家有事どころではないからな」

「坂島さん。政治家大先生なのに失礼な事言ってすいませんでした。でも洗脳が解けてよかったです」亜季が恥ずかしそうに頭を下げる。

「君が私を助けてくれたんだね。ありがとう。どうだね、大学を出たら私の秘書にならないかね?それとも選挙に出てみないか?」

「とんでもありません。私にそんな魅力も能力もありませんので。ご遠慮します」

 伏し目になって首を振る亜季の謙虚さに、坂島は好感を抱いて笑う。

「傲慢な政治家だわね。自分の気に入った人間をすぐ支配下に置こうとする」由美が露骨に嫌悪感を顔に出す。

「危うく国が乗っ取られるとこだったんだ。魔力のせいではあるけど、つけ込まれた坂島さんにも非はありますよ」敦が訓戒を促す。

「その通り。悪意に屈したのは私だ。猛省するばかりだよ」

 坂島はこれを機に、万民のための幸福を実現するべく政務に精励することを一同に誓った。



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