表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者  作者: 海目 愚丸
食われた明鏡編
80/81

第五十八話「芽生えた殺意」

 

 山に入って3日目の朝。

 まずは隠れ村まで戻ってきた。

 

 さすがにヒワシとセンカと一緒だった時よりも早い。

 それに、全速力ではないけど、軽く走ったからね。

 こんなもんだろ。

 ついでに、道中に熊と遭遇しなかったことも大きいかもな、無駄な戦闘が起きなかった。

 ていうか、ほんとに熊の生息地なんだろうか、今のところまったく見てない。

 たまに見かける木や岩とかには、縄張りを主張する爪痕とかあるから、間違いなくいるはずなんだけど、出くわさない。

 まぁ、戦いたくないから全然遭遇しなくていいんだけどね。


 さて、ここで今1度僕は地図を広げた。

 キヨマルにもらったモノだ。

 これをチカセとケンセイにも見せる。


「このまま東に山を2つ越えたあたりね」

「あともう少しやな」

「うん、あと1日もかからないはず。

 じゃあ行こうか」

「あ、待って」


 僕が走ろうとしたら、チカセから待ったがかかった。

 なんだろう。


「今度は私が先頭走る」

「? いいけど、なんで?」

「イサミの走るペースが乱れてる、急に速くなったり遅くなったり、無意識のうちに疲れてるんだよ」

「へーそうなのか、よく見てるね」

「えっ、まぁ、こ、これぐらい普通だよ!」

「ありがと! じゃあ任せる」

「うい!」


 チカセは決め顔をしてから、走り出した。

 その後を僕とケンセイが横並びで追いかける。

 


---

 

 ちょうど夕食の準備をする頃か。


 葉っぱがみかん色に染まっている。

 その影から、僕とチカセ、ケンセイは盗賊団の拠点が見えるところまでたどり着いた。


 場所は山と山の間にある谷間、そこにヤツらは拠点を構えていた。

 決して広い土地ではないが、ほぼ平地で近くには渓流があり、畑もある。

 木造の家屋が点々と並び立ち、まさに一般的な村って感じがする。


 そこから、かすかに漂ってくるご飯の香りに、僕は誘われそうになりつつも踏みとどまって、身を潜めていた。

 だがそれもつかの間。


「あ、いたよ!」


 チカセが木の上から探し人を見つけた。

 もちろん探してたのはキヨマルとアンネだ。


「合流しよう」

「うん」

「おう」

 

 盗賊団の村にも見張り台はある。

 見張り番のやつらが真面目でないことを願いながら、僕らは静かに移動を始めた。

 

---


 草木をかき分けて進むことしばらく。

 僕らの視界にキヨマルとアンネが入った。

 2人は剣の柄に手をかけていたが、僕らを見てすぐにその手を下ろした。


「来ましたか」

「おまたせ」


 2人が無事なことにほっとしたものの、僕は彼らの足元に視線がいった。

 誰かが倒れていた。

 顔には布を巻きつけられ、口にも布を噛ませられている、まるで拷問されたあとのようだ。

 誰だこいつ。


「その人は、なに?」


 そう聞くと、

 キヨマルはその存在を思い出したかのように言った。


「ああ、彼は盗賊団の一味ですよ。

 周辺の見回りでもしてたのでしょう、そこを捕らえました」


 なるほどね。

 僕らが合流するまでに、賊からなにか情報を吐き出させたのか、さすがだ。

 

「残念ながら何も喋りませんでした。

 ここに住まう人数、首領の名前、もしくは他の拠点の場所でも知れたら良かったのですが、仲間意識が高いようで」


 あら、キヨマルが拷問に失敗するなんて珍しい。

 隠れ村で捕らえた賊を吐かせるのは一瞬だったのに……あれ?

 そう言えば、アイツどうした?

 確か、キヨマルが道案内させるために連れてったよな、でもこの場にはいないってことは……殺されちゃったか。


 まぁ当然か、キヨマルは容赦なんてしない。

 用が無くなればその場で斬り捨てるだろうな。

 目の前に倒れている口が堅い賊も死んでるようだし。


 ……それはいいとしてだ。


「これからどうやってあの拠点を潰すの?

 正面から勝負?」

「それはやめときましょう、正確には分かりませんが、40人近くいるようです」


 40人か、

 えーと、トラジロウに教えてもらった算数で考えるとだ。

 僕たち5人いるから、1人で……8人倒せばいいんだろ?

 数、間違えてないよな、ちゃんと指を曲げて数えたから合ってるはずだ。

 そう考えると、いけない気もしない。

 まぁ、その8人が1人ずつ来てくれればだけど。

 

「では、暗殺でどうですの?」

 

 そう言ったのはアンネだった。

 悪くないと思う。

 一斉に相手しなくていいから楽だし、正面から仕掛けるのと比べたら危険度も低い。


 だが、この策は通らないだろう。

 アンネはわかってない。

 この場にはキヨマルとケンセイがいるんだぞ、2人は正面から戦うのを好む、武士道精神の持ち主だ。

 そんな闇討ちを良しとするわけがない。


「いいですね、それでいきましょう」


 あれ……いいの?


「ちょうど夜になるしな、決まりや」


 ケンセイもやる気だ。

 あれれ、おっかしいぞ、僕の方が2人を全然わかってなかったっぽい。


「では最後に、細かい打ち合わせをしてから決行しますわよ」


 アンネの言葉にそれぞれが返事をし、やることが決まった。


---


 僕がやることは単純だ。

 

 賊の拠点にある家屋に侵入して、そこにいる者を引っ捕える。

 どの家に入るかはキヨマルが選んだ。

 装飾がなされているわけじゃないけど、立地的に1番偉そうなヤツが住んでいそうな所だ。

 

 賊の(かしら)が相応しいだろう。

 てことは、僕と戦ったあの兜兵がいる可能性が最も高い。頭って呼ばれてたしな。

 彼が本当にトラジロウなのか、確かめられる。

 ……もし、トラジロウだったらどうしよう。

 僕は彼と上手く話せるのかな。

 聞きたいことが多すぎて、何から聞けばいいのやら……。

 いや、それは実際に会ってから考えよう。


 今は、この家にどう侵入するかだ。

 

 1階建て、正面玄関と裏口がある、煙突は無い。

 どうしようか。

 一応、窓もあるけど、さすがに割るわけにはいかないな。

 いくら夜で見えづらくても、音ですぐバレちゃう。

 だから今回は裏口から押し入るか。


 僕はしゃがみながら、裏口まで回る。

 それから辺りを見回す。

 誰にも見られてないよな。


 松明を持った男が数人見えた。

 けど僕の方には来ない、山の方へ向かって行く。

 

 きっと陽動のおかげだ。

 今、キヨマルが山の中からわざとバレるようなことをしている。

 音か、火か、何を使うのかは分からないけど、賊を何人か拠点から引き離す。


 アレ、なんだろう?

 どれどれ? 行ってみるか。


 こんな具合にだ、

 そして、のこのこと山の中にやってきたところを、キヨマルが仕留めるってわけ。

 それで、キヨマル以外の4人。

 僕とケンセイ、チカセにアンネが拠点でそれぞれ賊を各個撃破。

 もし、誰かがバレて戦闘になったら、そこからはもうみんなで正面から叩く。

 まぁ、そうなった時のために、できるだけ最初の闇討ちで数を減らしたい。

 

 それでは、お邪魔しまーす。

 

 ガタンーー。


 開かない。

 ……ふーむ、鍵がかかっている。

 まさか初手でつまずくとは思ってもみなかった。

 こんなことならトラジロウに解錠術とか教えてもらえば良かった。


 パタンーー。


 なんだ?

 扉の向こう側から何か音がした。

 もしかして、僕が侵入しようとしてたことがバレた?

 だとしたらさっさと隠れなきゃ、中から出てくる人と鉢合わせちゃう!


 僕がそう思った頃には、もう遅かった。

 ギギィィーーと扉が開かれ、僕は中から出てきた人と目が合ってしまった。


「……」


 女の人だ。

 耳飾りをつけている。

 右に太陽。

 左に……三日月かな。

 

 僕は剣に手をかけようとしてやめた。

 なにせ、彼女があまりにも戦う意思がないように見えたからだ。

 すごく平静、まるで友達が遊びに来たみたい。

 彼女は振り返って、今からお茶を入れなきゃって感じで中に戻っていった。


 僕はというと、どうしていいのか分からず立ち止まっていた。

 本来ならさっさと剣を振って気絶させるべきなのに……どうもできない。

 すると、女の人の声がした。


「何をしているの? はやく入ってらっしゃい」


 僕はその声に従った。



 中に入ると、耳飾りの女の人は椅子に座っていた。

 食卓に肘をつき、僕を見ている。

 他には誰もいない、この家にはトラジロウはいないようだ。


 彼女の向かいにはちょうど椅子があり、引かれていた。

 どうぞ座ってと言わんばかりだ。


 だから僕は座った。

 ゆっくりと。


「アンタ、見たところ兵士よね」

「……」

「ここに来たってことは捕まえに来たのかしら、それとも皆殺し?」

「……」

「へぇー、アンタお口が堅いのね」


 耳飾りの女の人は、左耳たぶにぶら下げていた三日月を外した。

 そしてそれを僕の目の前で垂らして、ゆっくりと揺らした。


 僕は振り子のように揺れる三日月に、釘づけになった。

 全然目が離せない。

 しかも先程から、おかしいんだ。

 まるで熱を出して寝込んでいるような不快感がある。

 あたりがぐるぐるする。僕もぐるぐるする。

 気持ち悪い。

 

「まぁいいわ、まだ彼にアタシが有用だってことを魅せないといけないからね」


 耳飾りの女の人は何を言っているんだろう、分からない。

 それよりも意識がぐわんぐわんと、意識が朦朧としてきた。

 このままだとまずい。


「アンタはそこで寝てなさい。

 とびっきりわるーい、夢でも見てね、ふふ」


 その声を最後に、僕は机に突っ伏した。

 意識が飛んだ。



---



 気がつくと、僕は家の前に立っていた。


 すごく見知った家。

 というか、僕ん家だ。

 ウルスが攻めてくる前、漁村に暮らしてた頃の家だ。

 ここで僕は母ちゃん、父ちゃん、爺ちゃん、(ハル)と暮らしてた。

 すごく懐かしい。


 でも、どうしてこんなところに僕はいるんだろう。

 ……いや、うっすらと覚えてる。

 僕は盗賊団の拠点を壊滅させる任務に当たっていた、うん、そうだ。

 それで、僕は偉そうなヤツを捕まえることになったんだ。

 キヨマルに言われたのを覚えてる。

 でも、失敗した。

 耳飾りをつけた変な女の人に見つかったからだ。

 なぜかあの時、身体が思うように動けなかった気がする。


 そんでだ、アイツは僕に『寝て夢でも見てね』って言ってた。

 てことはー? 今、僕がいるここは夢の中だ。

 そうに違いない。


 しかし、こんなものを僕に見せてなんだと言うんだ。

 ただ、故郷を懐かしめってことじゃないよな。


 んー周りには誰もいない。

 なら家に入れってことか?


 僕は迷わず自分家の扉を開けた。


「…………え」


 目の前の光景に、ちょっとの間、何も考えられなくなった。


 母ちゃん、父ちゃん、爺ちゃん、(ハル)がいた。

 だけど、誰も普通に立ってはいない。


 床に倒れていたり、

 壁にもたれかかっていたり、

 首だけが転がっていたり、

 ……ひと目で死んでるってわかった。


 そんな中、血溜まりの上に立っている者がいた。

 1人の男だ。

 僕に背を向けている。

 そいつは剣を握っていた。しかも血が滴っている。

 

 彼は僕に気がついたのか、振り返った。

 そして、片方の口角をあげて、僕に歯茎を見せてきた。


 僕はこの男を知らない、見たこともない。

 だけど間違いなく、この男が僕の家族の命を奪ったって、思った。

 

 その瞬間、身体が動いた。


 1歩踏み出す。

 右手を背中の剣にかける。


 しかし、男の方が速かった。

 既にその手の剣を振りかざしていた。


 僕はそれを見て、剣を抜くことを一瞬止めた。

 先に左手を上げて、男の振り下ろす腕を受け止める。

 がっしりと、だいたい手首あたりを掴む。

 

 そして、

 腕を掴んで逃げられなくなった男に、

 僕は流れるように剣を抜き、振り下ろす。

 めいいっぱい力を込めた。


 剣は男の左肩から差し込み、みぞおち辺りで止まった。

 

「はぁ、はぁ」

 

 なぜかこの一瞬で息が上がった。

 

 僕は剣と男の腕から手を離した。

 すると、男は身体に剣が刺さったまま、仰向けに倒れた。


 ぺちゃりーー。


 と音を鳴らし、さらに血溜まりが増えていく。


 僕はその様子を見て、

 見て、見て、その場に座り、なおもそれを見続けた。


 ……これは、なんなんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ