第五十七話「3人目」
暗闇の中、誰かが泣いている。
そんな声が聞こえる。
そして、それはどんどん音が大きくなっている。
僕はなんだなんだと確かめようと、身体を動かす。
「はっ!」
瞼を開けてから、瞬きを2回。
少しずつ、ボヤけていた目の前がはっきりとした。
どうやら僕は眠っていたようだ。
地下室の隅っこに積まれていたぬいぐるみ達、そこに僕は倒れ込んでいた。
ここで寝た覚えがないから、ヒワシか誰かが僕を移動させたのだろう。
優しいぜ。
それはそうと、さっき聞こえた泣いている声、あれば夢じゃなかったはず。
誰だろう。
僕は確かめるべく、起き上がる。
そして目に入ったのはーー。
「起きたゾか?」
ヒワシだった。
まさかコイツが泣いて……そんなわけない。
ヒワシが泣いてる姿なんて想像できない。
悲しかろうが、怖かろうが、ニコニコしてそう。
実際、今はすごいニコニコしてる。
「僕はどれぐらい寝ていたんだ?」
「入れた茶がちょうど飲めるくらいゾネ」
「そうか」
じゃあそんなに経ってないのか。
「ところで、誰か泣いてなかった?」
そう聞くと、ヒワシは1歩横に移動した。
お陰で視界が開ける。
そこで見えたのは、泣いてるツクヨミちゃんと、抱きしめてるセンカだった。
「ツクヨミ殿がアマテラス殿に謝ってたゾ、途中で泣き崩れたがネ」
「……そっか」
ちゃんと謝れたんだ。やるじゃん。
見た感じ、センカは許したっぽいな、ツクヨミちゃんの背中をさすってる。
まぁわかってたけどね。
あの優しいセンカが許さないわけない。
ただツクヨミちゃんが謝れる勇気があるかどうかだった。
彼女にはあった。
「それはそうと、火の玉の材料を集めなきゃ、
ヒワシ、なにを探せばいいの?」
「その必要はない、これを見るゾ」
ヒワシはドンっと大きな袋を足元に置き、
中身を見せてきた。
中にはゴロゴロと、石ころがいっぱい詰まってた。
どうやらこれが必要なモノらしい。
「全部揃ったなら、もうここには用がないね。
さっさと戻ろうか」
よっこいしょ、と僕は立ち上がる。
妙に気だるさを感じるが、大したことはない。
「イサミ殿、忘れているゾ」
「え、おおありがと」
ヒワシから剣を受け取った。
そういえば、アマテラスを欺くために僕が投げたんだったな。
もう輝きは収まっている。
……あんまし気になるわけではないけど、結局なんだったんだろう。
ヒワシに言われて、盾と剣を擦り合わせたら剣が輝いたけど、特になんも無かった。
ビームが出るわけでもないし、斬撃もでない。
ただちょっと眩しかっただけ。
んー僕の使い方の問題か?
まぁいいや。
とりあえず剣を背中の鞘に戻して、出口に向かう。
その際、センカに指で合図する。
先に上に戻ってるよって、
それに対してセンカは頷いた。
たぶん通じた。
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来た道を戻る。
長い通路と階段、それらを抜けてやっと地上に出た。
そのまま家屋からも出る。
外はまだ明るかった。
お日様の位置を見る限り、だいたいお昼過ぎぐらいだろうか。
今から出れば、来た時と同じ4日でルナの街に戻れると思う。
と、そこで、センカとツクヨミちゃんが家屋から出てきた。
「久しぶりの外だぁ」
そう言ったのはツクヨミちゃん。
まるで長いこと牢に入れられたかのようだ。
実際に似たようなもんか、地上にいた賊たちが怖くて、ずっと1人で地下室で息を潜めてたらしいし。
「そう言えば、ツクヨミちゃんはこれからどうするの?」
「え?」
「これから僕たちはルナの街に戻るわけだけど、君は?」
確かこの子、王の命でヒワシとセンカを探してるんだったよな。
じゃあ、見つけたって報告しに王都に戻るののかな。いや、ウルス王は今バレナに攻め込んでるから、そっちに行くのか?
待て、そもそも見つけた報告だけなわけないか、ちゃんとヒワシとセンカを連れて帰ろうとするよな。
それは困るな、僕は2人を改心させることをまだ諦めてない。
何とか、1人で帰ってくれないかな。
「なんでボクを仲間はずれにしようとするんだぁあああ」
「……え? 一緒にくるってこと?」
「当たり前だぁあ!」
それ、いいの?
王の命ぜんぜん守る気ないじゃん。
まぁ、僕が気にすることじゃないけど。
「キョキョ、研究対象が増え……居住者が増えれば大家殿も喜ぶゾ」
「いまちょっと本音でたよね」
「はて」
なにとぼけた顔してるんだ。
ヒワシがついにニコニコ以外の表情したと思ったらこれかよ。
「センカは……いやなんでもない」
「?」
センカはツクヨミちゃんを許した。
でも、一緒に行動したいかは別だ。
それを聞こうと思ったんだけど、優しいセンカのことだ、この場では問題ないって言うに違いない。
2人の時にでも聞こう。
実際、センカはどう思ってんだろ。
「じゃあ行くぞ! しゅっぱーつ!」
僕らは隠れ村を立った。
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出発してから2日目の夜。
僕たちは野宿することにした。
さすがに疲れが溜まった、僕がじゃないよ。
僕はまだ平気だ。
平気じゃないのは他のみんな。
ヒワシもセンカも、ツクヨミちゃんもくたくたで、元気が無くなっている。
なんなら馬もだ。
ヒワシの研究室から持ち出した材料の石ころ。シラホシに運ばせてたんだけど、かなり重くて、シラホシもヒヒーンって音をあげてしまった。
だから、途中からは僕が担いでたんだけど、それでもダメだったらしく、またヒヒーンって音をあげた。
意外と持久力ないなシラホシ。
それはさておき、今、僕は1人で焚き火を眺めている。
他のみんなはもうとっくの前に寝た。
別に見張りをしているわけではない。
研究室から出てくる際、ヒワシが熊よけのお香を持ち出したらしく、ちゃんといまそれを使っている。
だから僕も寝ていい。
じゃあなんで寝ないのかと言うと……眠くないから。
というより寝れなかった。
さっきまで横になってたんだけど、驚くほど目が冴えてる。
もしかしたら、地下室でアマテラスとツクヨミちゃんらが出す、太陽と月を見たからかもしれない。
あれのせいで、僕の体内お日様とお月様がおかしくなっちゃった。
今、お腹の中で朝なのか夜なのか揉めてる気がする。
「……イサミ君」
ふと横を見ると、センカが隣に座り込んだ。
いつの間に目を覚ましたのだろう。
「あれ、起こしちゃった?」
「う、ううん、勝手に、目が覚めたの」
「そう」
でも途中で目が覚めるって良くないんじゃなかったっけ。
そんな話をキヨマルにされた気がする。
睡眠でどうのこうので、健康がどうのこうのって。あんま思い出せないや。
「あの、ちょっ、と聞きたいことがあるの」
「うん」
センカからなにか聞かれるなんて珍しい、なんだろう。
「そ、その、なんで、敵兵を殺さ、ないのかなって、賊と出くわした時も、ツクヨミちゃんの時も、ウチの時も」
「あぁ、うーん、難しいな、正直僕もよく分からない」
「……」
「絶対に命を奪わないって、そんな気は今はさらさらないんだ、ただ、先にどうにか助けてやれないかって、思うんだ」
「イサミ君が、剣を向けられてるのに?」
「うん、あぁでも1度負かしたのに、2度目また向けてきたら、その時は容赦しないよ」
「……」
なんか、センカがすごい疑ってるような目つきで見てくる。
でも本心だ。
1度負かした後、僕はどうにか助けようとするんだ、それでまた剣を向けられるということは、そいつはもう助けられない。
あ、アマテラスは2度負かしたって思ってるのかな。
でもあれはまだちゃんとアマテラスと話せてないから、んーなかったことにしよう。
「そうだ、僕もセンカに聞きたいことがあったんだ」
「う、は、はい」
「センカは、ツクヨミちゃんのことどう思ってるの? 君は優しいから、もし無理してたら僕が何とかするよ」
やんわりと引き離す。
んー確か、ルナの街には戦争孤児のための施設があった気がする。そこに連れてく?
……いやダメだ、めっちゃ泣きそう。
それにあれでもウルス王の臣下なんだよな、すごい力持ってるし。
そんな子が暴れたら、とんでもないことになる。
やっぱり、僕かヒワシかセンカが面倒を見た方がいい。
てか、どういう成り行きであの子は廻衆になったんだ?
今度聞いてみるか。
「……う、ううん、大丈夫、あの子には、そんな酷いことされたわけじゃないし」
「そう、よかった」
はぁ、なんかホッとして眠くなって来たかも。
これなら眠れそうな気がする。
と、思ったけど、無理そうだ。
なんたってもう夜明けだ。
気がついたら空がうっすらと明るい。
「もう朝か、僕が朝ごはん作るから、センカはみんなを起こしてちょうだい」
「あ、はい」
僕は気を取り直して、朝食の準備をしようと立ち上がった。
まずは荷物から鉄板取り出さないとな。
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4日目の夜。
僕たちはルナの街に戻ってきた。
なでしこ荘の前。
「ギョー、疲れたゾ」
「もう歩きたくなぁい」
真っ先にヒワシが倒れ、続いてツクヨミちゃんが倒れた。
もう、部屋まであっとちょっとだってのに、仕方ない、担いでやろう。
そう思って2人に近寄ると、止められた。
「う、ウチがやるよ、イサミ君は、ままた隠れ村の所まで戻らないとでしょ?」
「え、うん、ありがと!」
確かに急いだ方がいい。
キヨマルとアンネが僕を待ってる。
だからこの場は有難くセンカに頼らせてもらおう。
そうして僕は彼らと別れた。
ちなみにシラホシも置いてきた。
アイツももう限界みたいだからな、休ませてやらないとだ。
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で、僕が向かったのは第3小団の天幕。
チカセとケンセイを呼ぶ。
これから賊と1戦交えるからな、2人が必要だ。
僕は駆け込んで天幕に入った。
「チカセー! ケンセイー! いるか!?」
すると、目の前には髭もじゃなおじさんがどっしりと座っていた。
誰だ!?
いや、久しぶりに見たから分かりづらいけど、この人は。
「タロウ小団長!」
意識不明の重体だったらしいけど、無事に意識戻ったんだ!
良かった。
「おお、イサミか! 久しいのう、儂じゃよ」
「分かってますよ! タロウ小団長」
「ガハハ、チカセは何日も疑っていだがな!」
まぁ、気持ちは分からんでもない。
すごい髭がもじゃもじゃしてて、顔が分かりづらい。
「で、どうしたのだ、そんなに慌ておって」
僕は手短に話した。
キヨマルとアンネと任務に出たこと。
任務は火の玉の材料集め、と、あるかもしれない賊の拠点を潰すこと。
材料集めは達成したけど、賊の拠点はまだなこと。そして、思いのほか、賊の拠点が大きいそうだから、チカセとケンセイを連れてこようと僕が戻ってきたこと。
「なら、さっさと街の東に行け、あやつらはいつも通り見回りをしておる」
「ああそうか! ありがと!」
「油断するでないぞ!」
僕の後ろからそんな声がした。
もちろんだ。
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僕らがいつも見回りしてる街の最東端。
そこに着くなり見つけた。
チカセとケンセイだ。
「おーい!」
僕は2人に手を振りながら駆け寄った。
2人はすぐに僕に気がついた。
「イサミ! おかえり、どうしたの!?」
「はぁ、はぁ、2人とも今すぐ出発するよ」
彼らの肩をはたいて、僕はまた走り出す。
そうすると、2人は僕のすぐ後ろにピッタリとくっ付いてきた。
そのまま走りながら、ほぼほぼタロウ小団長に言ったことを2人にも話す。
すると、ケンセイは苦い顔をした。
「すまん、あん時俺もついて行ったら良かった。
ジジィがあの日までに意識が戻らへんかったら安楽死ちゅうから、気が気やなかったんや、すまん」
今なんて?
僕は思わず立ち止まって振り返った。
「え、待って、そんなことになってたの?」
「せやで」
チラッとチカセの方を見ると、
彼女も知っていたようで、ウンウンと頷いた。
「あ、そうか、イサミだけには秘密にしよってみんで話したんだった」
「なんでよ!」
「そりゃイサミが知ったら、兵団に歯向かって戦い出しそうだから……ね」
「しないよ! そんなこと、たぶん」
僕だってそういう規則なら仕方なく受け入れるよ。
でもそうか、戦から帰ってきたのに意識が戻らない、そんな人がいるのは知ってた。
その人たちって、ある期間過ぎたら安楽死させちゃうのか。
……そりゃいつまでも兵団が面倒見るなんてできないよね、悲しいな。
あれ? ってことはさ。
「僕も意識不明な時あったけど、もしかして、僕結構危なかった?」
「いや、お前は病院じゃなくて俺らの天幕にいたから、そんな話しはでなかった」
「そうだったんだ」
じゃあいざとなったらタロウ小団長も僕らの天幕に移動させれば良くない?
と、僕が言ったら、全然僕とタロウ小団長とでは容態が違うから無理だと言われた。
しかも、ここで衝撃の事実を知らされた。
なんと僕は意識不明の時でも、ご飯は食べてたらしい。
誰かが持ってくれば、自分で起き上がって受け取ったとか……ほんとかよ。
これもうヒワシが言ってた夢遊病ってやつじゃないのか!?
ちょっと自分が怖くなったぞ。
まぁいいか、今はさっさとキヨマルとアンネのところに向かわないとだ。
しばらくして、
僕らは暗い山の中へと入っていった。




