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有翼の女神様  作者: カノウラン
5:決勝戦
25/29

ベンチ

肌を刺すような風に吹かれ、礼音は上着を着て来なかったことを後悔していた。

けれど、目の前を駆けている選手たちはみな半袖だ。

さむいなど言ってられないと、礼音はくちん、とくしゃみをかみ殺す。


「たく。もう十一月だぞ、何でそんな薄着で来たんだ、おまえ」


声をふり返ると、背中にぬくもりが降ってきた。

肩から垂れた袖で、流星の着ていた紺色のジャージだと分かる。


「深澤先生こそ、半袖じゃ」

「俺はいい。べつにさむくもねーし、第一、風邪ってもんをひいたことがねーからな」

「えっ」

「おい。今、バカは風邪ひかない、とかいうことわざ、おもいうかべただろ?」


それはことわざじゃないとおもいます、と言いたいのをこらえ、礼音は頭を下げた。


「あの、ありがとうございました……」

「おう。つーか、あらためて礼を言うほど、たいして温くもねーだろ」

「えっと。さっき、私の意見に耳を傾けて、鷹林くんを替えずにいてくれて──」


そっちか、と流星がうしろ髪をかく。


「よく分かんなかったが、おまえが言ってたのって、たぶんメンタルのはなしだろ。常々、オヤジが言ってた。目に見えないからこそ、メンタルは意識しておかなきゃすぐ弱くなる、ってな」


けど、とつぶやき、流星はピッチへ視線をもどした。


「あれ、膝、相当痛いとおもうぞ。しかも、すべる芝じゃ、よけい負担がかかる」


後半開始から、すでに十五分が過ぎようとしていた。

礼音は、電光掲示板にある時計表示に目をやり、そのことを確認する。


「深澤先生。あと五分しても得点できなければ、替えてください」

「──ハ?」

「猶予は二十分だけでいい、と。鷹林くんに伝言を頼まれました。わがままを言っているのは分かっているから、それ以上、他のフォワードの選手の時間は奪えない、と」


目をほそめた流星が、チ、と舌打ちした。


「ケガをおしてゴールを狙うすがたを見せて、最悪、他のやつらに発破をかけようってか」


おい、と流星が雑用をこなす控えの部員を呼んだ。


「交代だ。アップしてる貴巳を呼んでこい」

「ええっ。ま、待って、まだ──」


動揺する礼音が伸ばした手をふり払って、流星は交代用紙の記入にかかる。


「鷹林を替えるんじゃない。ついでに、囮役までさせてやろうじゃねーか。誰が取ろうが一点は一点、チームのものだって俺の持論を変える気はねーんだ」


ビブスを脱ぎながら駆けてきた坊主頭に、流星は紙を渡した。


「ディフェンスラインとキーパーのあいだのスペースを狙え。鷹林がペナルティエリアでボールを持てば、相手はぜったいおまえから目を離す。今日のあっちのキーパーは鷹林が打つシュートにはことごとく反応してやがる。あいつひとりで裏をかくのはむずかしいだろうが、あいつをダシにする気でいけば、裏をかけるかもしれねー」

「鷹林センパイを、ダシに……?」

「ダシが嫌なら、エースを助ける気で行け。あれだけマーク受けながら、あいつは痛めた足を踏んばってシュート打ってんだぞ。他のフォワードも意地を見せろ。行け」



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