第52話 傷ついた火竜
デュール谷の暮らしは、まだ元通りではなかった。
魔法に慣れた暮らしの人々が、自分たちで暮らしを支えていかねばならない。
普通のことだけど、水車が回って粉を引くことも、釜戸の火加減をしなくても美味しいスープが作れるのを当たり前のように思っている。
エリサは、再び飛ぶ。
「エリサ、あたしも」
エリサは止まって、あたしに手を差し出す。
エリサは、珍しく無表情だ。
くるくる表情の変わる子が……?
ーー火竜谷。別名、魔竜谷という。
魔竜なんて呼ばれかたをしていたのは、古竜のせいね。
今の竜族よりも、遥かに古い種族。
「パーシア!! ごめんなさいね。
傷つけてしまって。あなたが結界の下にいたなんて知らなかったの」
エリサは、臆することなく火竜の巣に入っていく。
あたしは、おずおずと見守るしかなかった。
『エル・セレシア……本当ですよ』
真っ赤な鱗の竜が出てきた。
なにか喋ってる。
「どこを怪我したの?」
『右手に結界の破片が刺さっているわ』
「ごめんなさい。パーシア、癒し手を連れてきたの。大きかったら治療できないわ。人型になってくれると嬉しい」
『では……』
すごい……エリサ、パーシアさんと普通に話してる。
「マリベル。パーシアが人型になったら、治療お願い」
「でも、あたしで役に立つかな」
「ご謙遜! サントスの奇跡の治療士の話は東方にも届いてたわ」
やがて、赤い髪と、真っ青な瞳の美人な女の人が現れた。
パーシアだ。
腕に銀色の破片が刺さっている。
痛かっただろうな……
あたしは、とりあえずサントスから持ってきた治療道具を広げた。
破片を無理にとったら、とても痛いだろうな……
「パーシアにピク草を与えなさい」
アリシアさまだ。
「もう!! サントスは、一大事よ! でも、所詮は人間の世界のことよ。怪我したものがいたら、助けるーーそれがカナの生きる道でもあったわ」
「アリシアさま……」
「ピク草は、パーシアの大好物だから、とうさまの鍛冶場においてあるわ。取ってくる」
駆け出すエリサ。
アリシアさまが来てくれて、少しほっとした。




