大51話デュール谷へ
不意にエリサがあたしの前に来た。
「今すぐ、谷に帰ろう!!」
何言ってるの?
エリサ。
こんな騒ぎの中をどうやって?
「空があるじゃない! このサントスの中では、風の奥方の圧も大きいから、控えてるわ。その合間に風の騎士に飛ばせてもらうの」
レフさまから、なにか事情を聞いたみたい。
でも、エリサだってこの話の当事者。
「いなくていいの?」
一応聞いてみる。
エリサの顔は思い切り歪む。
「いいのよ、勝手に言ってるだけなんだから」
エリサは不機嫌になった。
そして、あたしの手を取ると、そ~っと人の輪の中から、少ないほうへ移動していきーー
「風の騎士ーーデュール谷まで全速力」
<承知>
突風とともに、あたしたちは浮き上がった。
そのときにあたしが迂闊にもびっくりして声を挙げてしまった。
「きゃっ!!」
本当にびっくりしたのよ。
足元をすくわれるように、持ち上げられるんですもの。
「ひえぇ~」
「マリベル~!!」
エリサに睨まれた。
追手もすぐに来たわ。
アリシアさまが。
でも、風の騎士のほうが階級が上らしい。
アリシアさまは、なかなかあたしたちに追い付けない。
飛ぶのは、二度目だから大丈夫というよりは、エリサが飛びかたを考えてくれた。
半透明の絨毯を出してくれて、そこに座ってるだけ。
もちろん、下を見るのは怖いけど、普通に飛ぶのに比べたらまし。
これでーーアリシアさまが追い付かないなんて……
風の騎士、思ったよりも力があるのね。
三日三晩飛び続けて、ようやく遠くに見慣れた大山脈が見えてきた。
デュール谷は、大山脈を望む山々の間にあるの。
エリサは、谷の入り口で下ろしてくれた。
さすがに無茶をした自覚はあるみらしい。
「バーシアも古竜なのですって」
「えっ?」
「三百五十年前の戦争で、召喚されたのですって」
「じゃあ、サントスの地竜よりずっと若いのね」
「そうね」
エリサは何も言わず、谷の結界へ駆け出した。
その背中を追いながら
あたしは胸がざわめくのを感じた。




