第36話 ティラン視点(4)
「それで、若長。《《カナ》》のことを聞きたいとか?」
「彼女の本名が、カティア・モルガンだということは知っていましたか?」
アリシア殿の顔は、一瞬強張った。
「カナはもう死にました。マリベルは、普通の子です」
「ここに来て、カティア・モルガンの力の片鱗を見せつつあるそうです。父は、銀の森に来て欲しいと言ってます」
アリシア殿は、大きくため息。
「カティアは、夫のレフがデュール谷につれてきたんです」
「え?」
レフは、アリシア殿の夫君だ。
S級魔法使いにして、『ロイル姓』の持ち主
そして、神殿の秘宝、魔法剣を作りたるものだった。
「レフは、飛び級で学び舎を卒業して、サントスに剣と鍛冶の留学に来てたんです。
だから、治療棟は、常連だったそうですわ」
「その頃に、カティア・モルガンは、ここにいたんですね?」
アリシア殿は、大きく頷く。
「身体がかなり、ボロボロだったみたいですよ」
浄化治療は、代償つきのものだったのかーー僕は、ジェドを振り返った。
ジェドも知らなかったと首をふる。
レフとジェドは、学び舎の同級生だ。
ジェドの水晶にも、カティアのことはなにも写していなかった。
「最終的には、大賢者さまが治療棟から出してくださったのです。
留学を終えてデュール谷に、帰るレフがつれてきました」
「えっと……」
アリシア殿が、妖しく笑った。
「レフには、私がいますもの~ 渡しませんでしたわ~」
僕は、エリサの片鱗の一部を見た気がした。
今でも色褪せない金色の腕輪を見せてきた。
「私がいなければ、レフが娶ったかもしれませんけどーーレフの助手をすることが決まっていたロブと結婚しました。
デュール谷で彼女は幸せでした。
普通の女、『カナ』として生きたのです。
だから私たちは、マリベルに魔法にふれさせてないのです」
「近くに、《《あの》》エリサがいたのに……」
「だから若長、これ以上は……」
「でもーーたくさんの人が必要としてる力です」
「そうですか……」
アリシア殿は、残念そうに頭を下げて、ジェドにも挨拶して去っていった。




