第30話 治療棟
治療棟は、デュール谷の治療院とは違う匂いがした。
使っている、薬草、香料が違うんだとすぐわかる。
あたしは、おずおずとルチアさんのあとについて治療棟へ入った。
なんて大勢の人がいるのーー
病気、怪我で治療を受けてる人。
治療士の数も、数十人はいる……
「こんにちは……マリベル・フレイドルです」
と自己紹介すると、みんながどよめいた。
手当てをしていた治療士も、手をとめて、あたしを見る。
「カティア・モルガンの娘か……」
ここでも言われてしまう、かあさんの過去の名前。
今ーーこの世界は、光の神様の力で満ちている。
だから、その系統の魔法や癒し手は、たくさんいるんだ。
でも、かあさんーーカティア・モルガンは、浄化力に特化した癒し手だった。
だから、かあさんは、特別な存在だったらしい。
でも、十七年前に突然サントスの神殿を去った。
「東方で結婚していたとは……ね」
ルチアさんは、かあさんのことを聞きたがったわ。
でも、かあさんはあたしが、三歳のときに亡くなって、ほとんどなにも覚えてないの。
懐かしい香木の匂いがした。
「懐かしい匂いだわ」
「気分を落ち着かせる香よ。カティアさまが見つけてきたのよ」
「えっとーーなにからはじめましょうか?」
「そうね、患者さんの話し相手でも構わないわ」
「そんなことで?ーー」
ルチアさんの目は、大真面目だった。




