第29話 カティアの娘
あたしは、大賢者さまの命令で、エリサと別れて治療棟へ入ることになった。
「私もマリベルといっしょがいいわ」
エリサは、最後までついて来ようとしていた。
でもーーレフさまにげんこつを食らっていたわ。
「おまえは、魔法棟で精霊の整理だ!」
「マリベルが、魔法棟に来ればいいのよ」
無理言わないでよ!!
精霊も見えないあたしが、魔法使いの真似事なんてできないわ。
結局、エリサはレフさまに引っ張られて、魔法棟に向かった。
あたしは、一人で治療棟へ。
ーー治療棟は、神殿の西側にある。
嗅いだことのない、懐かしい匂いがする。
後で聞いたところ、治療棟は『海』という大きな湖に面しているのだとか……
「マリベル・モルガン? こちらへ」
声をかけてきたのは、三十代くらいの女の人。
「あたしは、マリベル・フレイドルです。デュール谷のマリベルです」
「……似てないわね」
え? 誰とかしら?
「あなたのおかあさまを知っています」
あたしは、思わず声を出そうとして圧し殺した。
だってーー
かあさんは、神殿をやめて来た。
そのきっかけを、あたしは知らない。
「慎重なのね……そんなところは似てるわ」
「あのーー」
「光の術に長けた治療士なら、この治療棟にもいくらでもいますーーでも、カティアさまは浄化治療に特化した癒し手でした」
「母さんの名前は、カナよ」
「では、そう名乗っていたのでしょう。
本名はカティア・モルガンです」
あたしは、初めてかあさんの過去を知った。
「私はルチア・エヴェルよ」
ルチアさんは、手を差し出してきた。
あたしは、その手を握り返す。
「カティアさまに娘がいたことは……早くからわかっていたけど」
ルチアさんは、目を細めて微笑んだ。
あたしの中に、かあさんの面影を探すように。




