第17話 ティランの優しさ
《デュール谷の姫……石にひびが入りました》
ーーその呼び方、エリサが一番嫌う呼び方なのに。
《そっちの石は大丈夫でしたか?》
呑気な声。
エリサの双子石を持つ手は震えてる。
《おーい! デュール谷の姫?》
「きもい呼び方しないでよ! 私は姫なんかじゃないわーーエリサよ!」
《谷長の孫なのに? では僕のこともディランと呼んでください》
エリサの頭上からは、とても優しい風が降りてきた。
若長のことを心配しているみたい。
それにしても、エリサ怒りすぎでしょう?
「マリベルには、風の騎士の傷が見えてないからよ」
ものすごい勢い。
突風が吹く。
あたし、足を踏ん張る。
子どもだったら、転がってるわ。
<エリサァ~>
「もう、あんなバカ長のところなんか帰ることないわーーリカルド帰ってらっしゃい」
このとき、風の騎士は、どさくさに紛れてエリサの足にたどり着いてたそう。
「風の奥方なんていらない。どっか行って」
《……わかりました。奥方は後で回収しますーーでも、中央神殿までは同行させてもらいます》
「なんのために?」
《あなたの暴走止めです》
若長の声が低くなった。
《セルディアス・フィルムは、一筋縄で行く人ではないです》
ーーあっ!!
そのための双子石?
若長は、あたしたちに協力してくれようとしているの……?
優しい風が、流れた。




