第15話 エリサが飛べない
歩き疲れたエリサは、ついに黙ってしまった。
頭上を見上げる。
風の奥方に、協力を得ようとしていたのだろう。
でもーー返事はない。
しょんぼり、とした気配だけが残る。
「いいから、飛んで。飛びなさい」
乾いた風が、すっと抜けた。
次の瞬間。
エリサの足元の地面が、消えた。
「えーー」
視界が持ち上がる。
風に『持ち上げられている』のではない。
空間ごと、押し上げられている。
往来のど真ん中で、静かに浮くエリサを見上げて、あたしは固まった。
「……ねえ、本当に女の子なの?」
風は軽く笑うみたいに流れて、二人の間をすり抜けた。
「もっと、高くよ。マリベルもいらっしゃい」
エリサは、あたしに手を伸ばす。
「無理よ! あたしは高いの駄目! 早いのも無理!」
叫んだ瞬間だった。
風が、一瞬だけ揺らいだ。
次の瞬間、視界がぐらりと歪む。
ーー落ちた。
いや、落ちたというより
支えを失った。
「っ……!」
地面に膝をついたエリサが、息を詰める。
風は変わらず吹いている。
ただ、そこに意思だけがない。
息が合わない。
それだけで、世界が言うことを聞かなくなる。
エリサは、信じられないものを見る目で空を見上げた。
「……今のは、拒否されたの?」
風は答えない。
ただ、軽く流れるだけだった。
あたしは、荷物を抱えたまま呟く。
「精霊って……そんなに気分屋なの?」
あたしは、初めて精霊を「知識」じゃなく「現象」として見た。
……怖かった。




