ライバル(敵)
疲れたー。
今日のゲームはかなりハードに動いた気がする。
帰りに何か食って帰りたいなー。
お昼に弁当はいただいたものの、男子高校生には
まだ余裕がある。
新生活がスタートして、学校にも今日は行ってきた。
クラスもいい雰囲気で、和也とも同じクラスだ。
まぁ、別でもよかったのだが。
先生も無難な感じでひとまずは安心。中学の時は
そっち系?の人か謎の担任にあたって困惑をした
こともあった。
平和がいちばん。穏やかな日常を送りたい。
昼に弁当を持っていたことで、和也がイチイチ
うるさかった。
お世話になっているうちの人が持たせてくれた
とは伝えたものの、独り暮らしという家の事情
を知っているあいつからすると、疑いの芽は
まだ残ったままのようだ。
間違ってもミクさんが作ったと知られる訳には
いかない。非常に危険だ。
今日の和也は和菓子屋ではなく、ハンバーガー
が食べたい気分のようだ。
昨日の今日でまた少し恥ずかしいこともあるし、
微妙な空気が流れても嫌なので、安堵のため息
をつく。
ゆっくりと最寄りのファストフード店へ向かう。
たまにはいいな。
時間帯もあって店内は学生が多め。
うちの制服姿もちらほら見える。
「新居はどうですか、夏樹さん」
アホみたいにポテトをマイクに
仕立てた和也が聞いてくる。
「荷物整理はだいぶ終わった」
当たり障りのないことを話す。
「そういや、話してた幼馴染とやらには会えたのか?」
余計なことを聞いてくるやつだ。
どう話したものか…
バツの悪さを感じていると突然隣から
肩をぶつけられた。
…。
「なっちゃんー♪」
この声は聞き覚えがある。
スルーしてジュースを飲もうとしたが、
再びぶつかられた。
「なんで無視なの??あたしだよ」
……。
黙って咀嚼する。
ハンバーガーはうまいなぁ。
「かずくんも何か言ってやってよ」
「夏樹、ガン無視はダメだよ」
腹を抱えてこの状況を楽しむ旧友。
他人事だと思いやがって。
おれの平穏を返せ。
思いっきり隣に座ったと思ったら
肩にもたれかかってきやがった。
公共の面前でなにしてやがる。
コイツは本当に…。
おれの名を呼ぶ隣の輩はストーカー。
要注意人物のひとりだ。
「また失礼なこと考えてる」
「なにも考えてない」
頬を両手でつままれ、ふにふにされている。
なすがままだ。
コイツに何を言っても無駄か。
「なんだ、食事中だ」
「つめたっ、ひどくない?」
「ひどくない」
「衣食足りて礼節を知るだ」
「なっちゃん、それ使い方違う」
「いや、合ってる。おまえには礼節を求める」
失礼なやり取りを繰り広げているが、
このストーカー、もとい隣人は知り合いだ。
「どうしたんだ、隣人」
「ひどっ、私の事こんな体にして、なかった
ことにするのね」
「おまっ、誤解を招く言い方すな」
和也が阿呆なら、コイツはバカ。
天然陽キャで、おれの中では平穏を乱す
特定外来生物。
そう、コイツは…
もうひとりの幼馴染だ。
今の場所から転勤で引っ越した後、
田舎の町でコイツとは出会った。
腐れ縁というやつだ。
公園でいつも泣いているやつがいた。
おれは引っ越したばかり。
まだ友達もおらず、ひとり通りすがり
の子供ではあるが、何も声をかけない
という選択肢は選べなかった。
泣いてる子にハンカチを差し出す。
泣き止むまでしばらくいっしょにいる
ことになった。
特に事情は聞かなかったものの、
帰り道の途中までとぼとぼ歩いたあと、
そのまま別れた。
あのあと、大丈夫だったかな、とか
幼いながらにそんな心配をしていた。
結局、翌日にまた会うことになるのだが…。
同じ公園だった。おれも暇なので、
とりあえずはまた公園の横を通り過ぎよう
とした時、またいたのだ。
悲しげにうつむく姿に、ただただ無力で、
おれには隣にいることしかできなかった。
何をどうしていいかわからず、
こんな時、面白い話でもできればまた
違うのかな、とか。
一発芸のようなものがあれば!!
とも考えたり。
小さいながらに頭をフル回転させ、考えては
みたものの、結局はただ黙って隣にいること
くらいしかできなかった。
どしゃ降りの雨の日だって、
こんな日にまさか…。
おれは気になって走り出した。
「またあそこにいるんじゃないか」
そんな予感は的中し、やっぱり雨の中、
カサもささずに雨に打たれ続ける姿を
見つけた。
ひとまず手を引いて、自分のうちの
お風呂に入るようすすめた。
女子だからなんというか、最初は困り
もしたけれど、そんなこと言っても
はじまらないので、とにかく強引に
でもじぶんの家に連れて帰り、
あたたかくしてあげようと思った。
その後にココアを入れてあげると
美味しそうに飲んでくれた。
それがはじまりだった。
今ではなんというか…。
助けなくてもよかったのではないか、
そんなことを思う時がたまにある。
「また失礼なこと考えてるよね」
付き合いが長いせいか、どうも
なんとなく表情で思っていること
がうっすらわかるらしい。
もう、せっかくハンバーガーが
うまかった記憶も消え失せたわ。
せっかく落ち着いて食べれると
思ったのに、とんだ邪魔が入った。
「まぁまぁ、わたしとなっちゃんの
仲ではないか♪」
おれは壁を感じているが。
むちゃくちゃ踏み込んでくるんだよな。
パーソナルスペースが近距離パワー型
のスタンドと同じで2mは欲しい。
おれは攻撃する側ではないのだが、
それくらい離れないとやられる、
そういう意味だ。
既に攻撃されているし、一瞬で懐に
というかもう隣でくっついててゼロ
距離だし。どこから突っ込んでいい
のか、というか突っ込みたくもない。
早く帰ってくれ。
「なんでそんなつれないの~」
…。
「わかった、他の女だ。浮気だよ、こりゃ」
「席にもどれよ!!友達待たせてんだろーが」
「だいじょぶ、だいじょーぶ」
おれは大丈夫じゃない。帰ってほんとに。
「久しぶりにあってなに、その態度。母さんは悲しいぞ」
まじ、うぜぇ…
同じクラスじゃなかったのが救いだ。
おれのクラスは進学コース、コイツは芸能科だ。
コイツもそうだが、待たせてる友達もなんか
キラキラしてるな。
「あ、ダメだよあの子は。わたしのだから」
なんだよ、それ。おまえのでもないだろ。
心の中で思っていると、脇を肘で突っついてくる。
「何かあったらなんでも言いなよ、独り暮らしでしょ」
「間に合ってまーす」
「じゃあ、またRHINEしてねっ!」
そう言いながら席に戻っていった。
嵐の後の静けさ…まさにその言葉が合う。
「やっと帰ったな」
「おまえひと言もしゃべらんし、助ける気まったく
なかったよな」
サイテーだ、この野郎。絶対今度の試合で
痛い目に合わせてやる。
「まぁ、仲良きことは素晴らしいではないか」
「アイツはうるさいから落ち着かないんだよ」
せっかく運動後のごほうびにとハンバーガー
食ってたのにさ。胸やけがしそう。
言えないけど。
「ま、話それちゃったけど”もうひとり”の
幼馴染には会えたの?」
「一応ね、まぁ小さい時とぜんぜん違うし、
なかなかどう話していいか難しいもんだよ」
「今度サッカー連れて来いよ。蹴ってたんだろ?」
いや、それはそうなんだけどさ。
もう蹴ってないと思う、はは。
心の中で苦笑しつつ、最後のポテトをつまむ。
ジュースを飲もうとしたのだが…ない。
「あのクソ、横向いてる間に飲み干しやがった」
絶対ゆるさん。今度たっぷりと仕返ししてやる。
せっかくのくつろぎタイムが、やつのせいで
散々な時間になった。まだ近くにいるので、
心の中の警報が鳴り続けている。
危険、要注意人物。
アイツの名は咲良。
おれのもうひとりの幼馴染だ。
離れた柱の片隅に、この様子を伺うふたつの人影。
この時、おれは何か寒気がしていたのだが、それが
何によるものなのか皆目見当もついていなかった。




