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初登校

夏樹なつきのひとりごと】

色々あって本当に疲れた昨日。

よく寝れたような、寝れなかったような。

すべて夢だった、そんなことはないだろうか。

寝坊せずに起きれたものの、何やらリビング

からおいしいにおいが漂っているような…

気のせいか。このへんは食堂も多い。

そう思ってリビングにいくと、ただならぬ

気配を視認することとなった。


なぜかミクさんがいるではないか…

どうして、ここでごはんをよそっているのか。

玄関の鍵、かけ忘れてたかな。

鼻歌を歌ってご機嫌な様子にも見える。

「あ、おはよう。起きれたんだね」

「…おはよう。どうしてここに?」

「お母さんがごはん持って行ってあげてって」

おばさんが気を利かせてくれたのか。

「あと、あかねさんが初日は起こしてほしいって」

そこの差し金か。

あかねというのは、おれの母親だ。

いつの間にかミクさんと仲良しになってる。

起きて見知らぬ人がいたら引くだろ。

まぁ、知った顔にはなったのだが。

色々と突っ込みどころは満載だが、あえて

そこは指摘せず、テーブルのごはんを見る。

うまそーだな。ごはんはありがたい。

「これ、わたしが作ったんだよ」

えっ、そうなの?おばさんがって、

さっき言ってたような…

なにこれ、通い妻?

登校日初日からイベント発生してますが。

ステージ、ちがくない?高1ですよ。

まちがっても新婚初日ではない。

結婚は18歳から。間違ってないよね?

ひとり暮らしのスタートだったはず…


ひとまず用意してくれたごはんを食べる。

これ美味しいな。卵焼き好き。最高。

あれ、なんか包みがある。

お弁当のような、そんな感じだ。

昼からサッカーに行くので、どこかで

何か買おうと思ってたんだけど。

「これ、お弁当?」

「今日はそのままサッカーの練習に行くって

言ってたし、どうかなと思って」

助かるといえば助かるんだけど。

また、ミクさんが作ったとか言わないだろうな。

「わたしの手づくりだよ、ついでに作ったんだ」

ほら、きた。おーーーい。嫁よ、これ。

ミクさん、昨日久々に会ったばっかりだよね。

助かるし、うれしいっちゃうれしいんだけど、

なんか色々申し訳なくて困る。

「ありがとね。また何かお礼させて」

「えー、いいよ~。あ、やっぱいただこうかな」

ん、何かひらめいたような目に変わったぞ。

少し不安を隠せないおれだが、時間もあるので、

そそくさと準備をはじめた。


学校への登校、初日。

なんかエモい感じで、感傷に浸りつつ登校の

はずが、なぜか横にミクさんが歩いている。

どうやら学校の方向が同じようだ。

準備していた定期をかざし、電車に乗り込む。

同じく乗り込む幼馴染がひとり。

うーん、どうしてこうなった。

途中の駅で降りるのだが、そこまでは一緒。

正直、気恥ずかしい。

男だったら、それはそれで何か思い出話を

しながら登校、みたいな感じでよかったの

かもしれない。やっぱこの年での女子って

難しいのではなかろうか。


そんな陽キャでもないし、コミュ力が高い

わけでもない。

にしても制服がまぶしいな。

和菓子屋の恰好も似合っていたが、制服も

着こなしてるというか非の打ち所がない。

ほめることなんてできないし、心の中で

思っておく。白の制服ってオシャレだな。

うちの学校もいい感じの制服だったとは

思うが、まぁ、今日がスタートだ。

まずは馴染まないとな。

ぼっちでも構わないが、ほどほどには

立ち回りたい。

そんな物思いにふけっていると、

いつの間にかミクさんの降りる駅に

着いていた。手を振って別れる。

彼女じゃないんだけど、何かそういう

空気感がある。

まだ2日目。

徐々に打ち解けていこう!

自分に言い訳をしつつ、学校への道を

急いだ。


美空ミクの妄想】

なっちゃんと一緒の初登校。

別れがつらかったな。

もう少し一緒にいたかったけど…

学校が違うから仕方ない。

でも、もう家もすぐ近くになったし、

焦ることはない。少しずつ築いていこう。

なんか家庭みたいなこと言っちゃった♡

まだわたしに緊張してるみたいだから、

徐々にほぐしていかないと。


今日は登校初日だし、すぐ帰れるはず。

バイトもあるから急がないと。

またお店に寄ってくれないかな。

そう思って歩いていると隣から声を

かけられた。

「おはようー!!」

声でわかる。朱莉あかりだ。

朱莉は幼稚園の時からの親友。

いつも一緒で、結局は高校にまで

ついてきてしまった。

「また3年間、よろしくねっ♪」

朱莉は天真爛漫というか、自由奔放?

何か似て非なるもののような気も

しなくないが、まぁそんな感じ。

わたしが落ちこんでるとバカなこと

を言って笑わせてくれる。

わたしが色んなことに必死に取り組む

ところも、ずっと見てくれて応援して

支えてくれた。

だから本当に感謝している。

もちろん、なっちゃんとのことも

朱莉は知っている。

写真を見せたこともあるのだが、

「いいなー、私も好きになっていい?」

とか言うので、肩をがっしりつかんで

念を送っておいた。

「もう、冗談だってば♪」

と本人はからかっていたようだったが、

わたしの顔は笑えていない。

ここまでどれだけの努力を重ねたか。

どんなことがあろうと、なっちゃんに

まとわりつく泥棒猫は排除、そう心に

決めている。

今度はわたしがなっちゃんを守るのだ。

ん、間違っている?

そんなことないよ。わたしは気にしない。

もうあんな悲しい思いはごめんだ。

なっちゃんはおとなしめだけど、意外と

存在感はある。本人は気配を消すことが

サッカーのプレーにもつながるとか、

そんなことを言っていたけれど。

かぐや姫の光る竹のごとく、輝いて見える。

わたしはいつも目で追ってしまう。

自分の存在を相手に悟られないよう、

フィールドを立ち回るとか、そんなことも

言ってた。

サッカーの動きのためにも日常からあえて

そんなふうに生きるなんて、わたしなら

息がつまりそうだが、なっちゃんらしい

とは思う。

またサッカーの試合もちょくちょく観に

行けることだし、声を出しての応援なんか

もできるといいな。

今までは静かに見守ることで我慢してきた。

こっち来てから、いつどのタイミングで

話しかけたらいいかは迷ったな。

偶然にもわたしのバイト先である和菓子屋

に来た時は本当にビックリした。

ドキドキして、まともに接客できなかった

のは内緒だ。


わらび餅を食べていたけど、黒蜜は嫌い

みたいだから次はきなこをサービスして

あげることにする。

しっかりと好みの味を把握していかない

とね。ごはんだって食べさせてあげたい。

胃袋をつかんで骨抜きにしてやるのだ。

今日のお弁当の感想もまた聞かなくっちゃ。

お弁当箱も回収にいかないとね。

なっちゃんのおうちに行く理由が出来た。

そんなことを思いながら、半分うわの空で

窓の外を眺める。


美空の妄想は止まらない。

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