新しい生活のはじまり
「……。」
「……。」
お互い、気まずそうに食卓を囲む。
なんでこうなったんだっけ。
過去の思い出がフラッシュバックする。
みっくん、みっくん、短髪黒髪できれいな
目鼻立ち、「ボク」が口ぐせだったような…
しばらく呆然としていたが、やはり確認を
したくなった。
「おばさん、あのさ…」
なんだい、と言われるとみっくんと思われる
女の子?を見ながら思い切って聞いた。
『もしかして…、女装ですか?』
「「「ちがう(よ)!!ははは」」」
一部、荒ぶる感じでキレられたような…
おそらく気のせいか…
そりゃこれだけ可愛らしい感じの女の子
なんだから、なおさら的外れなひと言で
あったに違いない。
にしても、感動の再会、久々の語らいと
いったおれのイメージが壊れて、なんと
話せばいいか頭の中で再構築しようと
試みた。んー、ムリだ、難しい。
女子は苦手なんだよな。うーん。
「早く言ってよ~」
何か昔のCMにあったような言葉で
天井を見上げ、
どうしたものかとごろごろする。
サッカーもいっしょにできれば、
なんて思っていたけど無理かな。
なんか見た目も女の子っぽいし…
繊細で上品な感じなんだよな。
釣り具屋より和菓子屋のイメージが
ぴったりだ。
こりゃ、あの店に行きづらくなった…
和也には言いにくい。
スタンプたまったって言ってたし、
しばらくは行かないかも?
いや、あいつバカだから行くな、たぶん。
明後日から学校もはじまるって言うのに、
まさかのサプライズだ。
学校も違うみたいだし、そう気に病むことも
ないと思うが、いやーマジでビックリした。
聞いたところ、某お嬢様学校に通うらしい。
一緒の学校にいけるわけねーな、はは…。
疲れたので、今日は眠ろう。
久しぶりの再会を思わぬかたちで果たした
おれは、何とも言えない疲れを感じていた。
過去のイメージが崩れ去った昨日。
今日からどうみっくん(あらためミクさん)
と接していこうか…。
そんなことを考えながら、朝食を作る。
目玉焼きくらいならお手のものだ。
ぼーっと海を眺めながら食べる朝ごはん。
最高だ。休みも今日で終わり。
明日の準備もしないとな。
そんな時、電話の通知音が鳴った。
ガラスが割れるような通知音。
母親からだ。よし、無視しよう。
そういや、着いてから連絡するって
約束してたの忘れてたな。
しつけー。鳴り止まねぇ。
2回目のコールが切れた。
あと1回かかってきたら出るか。
そう思って放置していたのだが。
諦めたか。よし。
すると、家のインターフォンが突然鳴った。
ん、荷物かな?
「はい、今いきまーす」
扉を開けると昨日の女の子、ミクさんが
立っているではないか。
なぜに!?
「茜さん、なっちゃんのお母さんから電話だよ」
そう言って携帯電話を渡してきた。
ひとまず、おれは電話に出る。
「もしもーし、なつき!なんで出ないのよ」
怒気をはらんだ母親の声がうっとおしい。
「ちょっと片づけしてて気付かなかった」
「うそおっしゃい。無視しようとしたでしょ」
「…。」バレてた。面倒だから矢継ぎ早に
つむがれる小言を適当に聞く。
「次やったらわかってるでしょうね」
この人はキレたらヤバいので適当に合わせておく。
「ミクちゃんと仲良くするのよ」
「…。あぁ。がんばるよ」
「くれぐれも間違いのないようにね」
「なんの間違いだよ」
ホントに訳のわからんことを。
電話が切れたあと、はぁとため息をつく。
そこに赤くなって立っている女の子。
「あ、ごめん。電話だったね。はい。」
「あ、うん。大丈夫だった?」
「あー、まぁたぶん。着いてから電話するの忘れて
たのと、無視して出なかったからちょっとキレてた。」
「茜さん、心配させちゃダメだよ」
そう言ってそそくさと話してくる。
これ、店の電話かな。そう思っていたら、
「それ、私の携帯」って言われて返した。
ミクさん、なんでおれの母親とつながってる??
いつの間に携帯交換してるの??謎だ…
しかも、あかねさん呼び。
何がどうなっているのか。
おれは頭の中の整理がつかずにいると、
「何かあってもいけないし、RHINE交換しとこ」
「あ、でもおじさんには連絡先は伝えたけど…」
「うん、でも仕事でいないこともあるから」
何かやけに圧を感じるので、素直に応じる。
断わるような返事に目が笑ってない気がして、
何か野生の勘で身の危険を感じたような…
気のせいか。
何かあったらって何があるんだ。
ひとまずRHINEを交換した。
かわいいネコのアイコンだった。
おれはつまらないサッカーボールのアイコン。
一応、W杯モデルのボールなんだけど、
たぶんほぼ誰もわからない。
「よろしくね♡」
チャット画面にそんなひと言が入った。
「(クマのスタンプ)」だけ返した。
何か満足そうな顔を横目に、まぁいっかと
話しかける。
「あー、みっく、さんはいつうちの母親と
連絡先を…」
「朝ごはん、食べたの?」
なんか焦ったように話をそらされた。
「あ、これから食べるとこ」
「早く食べた方がいいよ!」
なんか急かされてるような気がするが…
「あと、ちゃんと名前で呼んで」
え、みっくんだったから何て呼べば…
「みっく、さん」
「ちがう」
不完全な呼び方は否決された。
「み…く、さん」
「ちがう!」
これもダメだった。名前ミクじゃなかったの?
「ミクさん」
「ちがう!!」
「えっ、なんで!?」
「ミク…」
「えっ、呼び捨てってハードルが…」
「高くない!」
いや、昨日久々にあったばかりなのに。
なぜに名前呼び(しかもさん付けなし)
を強要??
あまり女子と絡むのは苦手なだけに、
呼び捨てとはさらにハードルが高い。
朝から何の拷問を受けてるんだ。
ひとまずRHINEの交換は終わって、
名前呼びも確定したので、家の方に
戻っていった。
あれ、こっちはなっちゃんなのに、
なんでおれだけ呼び捨て強制?
何か間違った契約がなされた気がして、
今のは夢だったんじゃないだろうかと
ほほをつねってみる…現実のようだ。
まぁ、いいや。休みの最終日だし、
有意義に過ごさないと。
おれは気付いてなかった。
この時から幼馴染の執拗なお世話と
アプローチがはじまることを。
【釣り具屋~ソラ空~】
朝からあかねさんから電話がかかってきた。
どうやらなっちゃんが着信を無視している
ようだ。押しかけて電話をつなぐように
言われた。これでなっちゃんに会える♪
スキップしてなっちゃんのおうちへ急ぐ。
どうしよう、寝グセとかついてたりして。
インターフォンを押すと、あっさり出てきた。
荷物とでも思ったのかな?確認せずに開ける
なんて無用心だ。あとでこってり叱っておこう。
作っておいた合鍵もキーホルダーにつけておく。
電話を渡すと、嫌そうに出て話をするなっちゃん。
こんなに間近でゆっくり見れるなんてしあわせ。
ずっと会えなかったから充電しとかないと。
明日から学校がはじまる。
なっちゃんがこっちに来たことで、より身近に
感じられるようになったけど、学校が違う。
こんなことなら女子高になんて通うんじゃ
なかった。あかねさんの話ではもう少し後で
こっちに来る予定だって聞いてたけど。
いっそのこと転校しようかな。
そしたらもっと一緒の時間が増える。
まぁ、通学は一緒の電車に乗るつもり。
明日はなっちゃんを起こしにいこう。
え、なに?わたしヤバいやつ?ちがうよ。
あかねさんからお願いされているから。
なっちゃんは朝が弱い、らしい。
一人暮らしになって遅刻しちゃうとイギリス
に連れて行かれちゃう。それは避けたい。
おっと、電話が終わったみたい。
どうやらこっちに着いた時に連絡を
忘れてたみたい。抜けてるんだから。
かわいい。
バタバタしてたから仕方ないのかな。
なっちゃんがわたしの携帯を持っている。
なんだかうれしい。
今がチャンスだ。これを機にRHINEを
ゲットしてしまおう。
何かあったらいけないし、管理人として
連絡先は把握しとかないとね♪
お父さんに連絡先は伝えてるとか寝言を
言ってるけど、そんなことは無視。
「わたし」が把握しとかないとね。
これで大義をもって晴れてなっちゃんの
連絡先を携帯に登録できた。
早速、今日からいつでもすぐに連絡できる。
まずは明日の目覚ましから。
なっちゃんは、わたしとあかねさんとの
関係性を気にしているようだ。
数年前から連絡を取り合っていて、RHINE
も交換しているのは秘密だ。
そう、もうこれは親公認の関係。
そう言っても過言ではないのでは?
ひとまずお茶を濁して話題を変える。
なっちゃんは昨日の食事の時からわたしの
ことをどう呼ぼうか困惑しているようだ。
あかねさんはわたしのことを黙っていて、
昔の男の子とだと思ったままで「みっくん」
と認識しているらしい。
なので、みっくんと呼ぼうとしていたが、
この容姿でみっくんは厳しい。
どうにか名前を呼ぼうとしていたが、
うまくいかなくて、ミクさんと他人行儀に
呼ぼうとしたところでストップをかけた。
「ミクで」そう押し切った。
ずっと会えなかったんだから、このくらい
わがまま言ってもいいよね。
あの時の約束だって忘れてそうだし。
ハードルが、と慌てていたがスルーだ。
これからどんどん距離を詰めていかないと。
離れていた時に失った時間の分を取り戻す、
それが明日からのミッションだ。
楽しみ、うん。ふふふ。
色々考えちゃうな。




