ヒロイン(幼馴染)の独白
「看板娘」
そう呼ばれたらみんなはどう反応する?
嬉しい?誇りに思う?古くさい?
きっと中には喜ぶ人もいるのだろうが、
わたしは嫌だった。
お店に華がある、いいねぇ、かわいいねぇ。
そんなことをいつも言われて育ってきた。
「看板娘」って老舗旅館とかならどれだけ
よかったろうか。
残念ながら、わたしはただの釣り具屋の娘。
昔からお客さんにも可愛がられて、
大切に育てられてきた。
もちろん、両親には感謝している。
でもそれとこれとは話が別だ。
今でこそ、女性の釣り人(釣りガール?)
も増えてきたが、みんなにとって釣り
なんてほとんど興味ないと思う。
釣りガール、なんて小さい子どもに
理解なんてないし、大して魅力ある
ものではない。
釣り=魚、そんなレッテルを貼られて
小さい頃はいじられてきた。
挙句の果てには、いわれのない魚くさい
とか勝手なことを言われ、男子たちには
からかわれる始末。
髪も短かったことや、一人称が『ボク』
だったことも相まって、男子たちから
余計にからかわれる材料になった。
いいことなんてひとつもなかった。
だからもうみんなと一緒に遊ぶことを
やめてしまった。
それからは海の景色を眺めながら、
ひたすら絵を描くことに没頭した。
海はきれいだ。遠くまで澄んでいて、
何を言うこともなく受け入れてくれる。
父親が船に乗って出かけることもあり、
それを見送ったりすることも楽しかった。
よく船の絵や海の絵を描いた。
でも退屈だった。ひとりで絵を描くのは。
そんな時、いつもわたしの近くに寄って
くる男の子が現れた。
それがなっちゃんだ。
わたしの絵をのぞきこんでは話しかけて
くる。そんな男の子。
最初は周囲を警戒しながら遠目に観察し、
何も話しかけてくれなかった。
次第に距離が近づいてきて、すぐそこまで
やってきたと思ったら絵だけをじーっと
見てくる。何か言ってよ…
それからしばらくは静かにわたしを見守って
くれていたのかな。
そのうちに絵について、何かと質問をして
くれることが増えた。
わたしも自分の描いた絵のことについて、
ここがどう良くて、この日は空が赤くて
とか一生懸命説明していたっけ。
彼はすごく興味を示して、へぇーとか
すごいなって言ってくれて、感心して
ほめてくれたり、次から次へと自分が
いいと思うポイントをあげて、なんだか
わたしを励まして元気づけようとして
くれているようだった。
次第にそれがわたしの『日常』になった。
わたしもだんだん楽しくなって、気づけば
いつの間にか彼が来るのを待ち遠しく感じる
ようになっていた。
彼はいつもお父さんと一緒にやって来ては、
その合間にわたしのところにやってくる。
なっちゃんはわたしにとってのヒーローだ。
釣り具屋の娘で、魚くさいとか男子たちに
からかわれた時も、真っ先に駆けつけて
リーダー格の子に釣りの面白さや、なぜか
魚の美味しさ?を正論でひたすら理屈を
並べ立て、相手にしゃべる隙を与えない
ように圧倒していた。
そんなこんなで、次第に男子達も面倒くさく
なって、わたしをいじって面白がってくる
ことをしなくなった。
きっとウンザリしたのだろう。
なっちゃんは狙ってやっていたのかな。
あの頃からなっちゃんは頭が良くて、
難しい言葉も使うし、理屈っぽいとこが
あったかな…
もちろんわたしにははそんなこといじわるは
しなかったけど、悪意をもっていじめたり、
からかう輩がいると徹底的に対抗してわたし
を守ってくれた。
そんな真っ直ぐなところが輝いて見えた。
だから、わたしはなっちゃんが好きだ。
今も変わらない。
そんな日々が続いていたけど、いつの間にか
わたしのルーティンになったこのしあわせな
日々に、突然の終止符が打たれた。
しばらくしたある日、あの約束をした日、
それをさかいになっちゃんが来なくなった。
どうしたのかな。
そう思っていたある日、偶然、お父さんが
なっちゃんが父親の仕事の都合で引越した
ことを話しているのを耳にした。
当時のわたしは悲しくてふさぎこんだ。
だってお別れの言葉も何も聞いてないから。
なっちゃんのいない生活なんて、到底わたし
には耐えられなかった。考えられなかった。
しばらくはふさぎ込んでいたけど、ようやく
立ち直った。考え直したのだ。
もっと魅力的になって、次になっちゃんに
会った時に振り向いてもらえる女の子になる!
女子力?というものが何かわからないけど、
かわいくなって、とにかく女子力を磨いて、
いつかなっちゃんに会ったら見惚れさせる。
そう思ってとにかく努力をはじめた。
髪も伸ばした。
一人称「ボク」もやめた。
習い事もはじめた。
お母さんにお願いして書道を習った。
先生の紹介で茶道の教室にも通った。
ファッションだって雑誌をいっぱい見た。
勉強だって必死でがんばった。
なっちゃんも勉強ができたから。
お嬢さま学校と言われる高校に受かった。
もっと女子力を高めるために。
絵だけは続けた。
なっちゃんとの大切な思い出だったから。
いつかまた一緒に並んで笑い合いたい。
お話してごはんを食べたい。
離れていても募る想い。
1日だって忘れることはなかった。
サッカーをしていることも知っていた。
なんでって?
それはお母さんがなっちゃんのお母さん
と仲良しで、お魚とか特産品を送り合う
仲だったから。
あの日から直接話すことはなかったけど、
なっちゃんのことはお母さんづてで色々
聞いてたんだ。
勉強ができること、サッカーをしてること、
レギュラーでチームのかなめだってこと。
ボランチ?って言ってたかな。
中学の最後の大会だって、実はこっそりと
観に行っていた。だって気になるから。
ずっと見てたんだけど、ぜんぜん気がついて
くれないんだよな。ひどいよ、なっちゃん。
応援したよ、わたし。
負けちゃったけど、悲しい顔してるの辛い
気持ちで見てたよ。
励ましてあげたかった。
でも声をかけられなくて…
わたしだってがんばろうとしたんだけど。
久しぶり過ぎて、なんて声をかけていいか
わからなくて。
緊張で声が震えてうまく話せそうにない、
そう思って一歩が踏み出せなかったんだ。
ごめんね、なっちゃん。
まさかこんなかたちで会えるなんて、
わたしもビックリだよ。
和菓子屋に来てくれた時は心臓が止まる
かと思った。ドキドキしてまともに顔が
見れなくて…
まだ気づいてないんだもん。
かなしい。
ま、わたしはなっちゃんのお母さんから
写真ももらってたし、顔もわかってるけど
なっちゃんはまだ知らないんだよね。
わたしが今こんな感じだってこと。
気づいてほしいな。
サッカーだって観に行ったのに、わたし
のことわかってない。
わたし取り巻きのひとりじゃないよ。
なっちゃんのファンだからね。
応援してるのに。もうなんで気づかないの。
でももう大丈夫。この春からいっしょに
暮らせるんだから、ふふ。
同棲みたいなもんだよね...えへへ。
楽しみだな。
またごはんいっしょに食べたい。
いっしょに学校も通ったりして。
まるで恋人みたい。はずかしい。
なんて呼んでもらおうかな。
昔はミク、でみっくんとか言われたっけ。
何がいいか考えておかないと。
こうして妄想が尽きることはなかった…




