2番目
引っ越しから3日目。
部屋の片付けも少しずつ進んできた、と思う。
にしても、海の見える家はいいもんだな。
ちょっと前は裏が山でしかなかった。
せみが本気でうるさかった。あれは騒音…
田舎もいいが、どちらかというと海だ。
昔から釣りもそうだが、海にはなじみが
あるし、心が洗われるんだよな。
泳ぐのは苦手ではあるものの、別荘感や
明石海峡が見えるなんて特別感ハンパない。
あれ、どうメンテナンスしてるんだろうか。
すごい技術が結集されてるんだろう。
今日も釣り具屋の前を通る。
再会したおじさんも、
「出会い頭のぎっくり腰」から少しは回復?
したのか知らないが、今は元気そうには見える。
こ、腰、と言われても何事かと思った。
まだ高校生には馴染みのない出来事である。
あまり無理はしないで欲しいものだ。
一回やるとクセになる、校長先生の話でそう聞いた
ことがある。
とはいえ、少しは店の手伝いもしないといけない。
恩義を感じているのもあるし、そうしようと心の中
で静かに誓った。
学校の準備もあるが、釣りにも行きたい。
そんな欲求にかられて海へ向かう。
ここらへんは昔から見慣れているが、結構釣れた
いい記憶があるので、そう悪い気はしない。
そこまで釣りの歴があるわけではないのだけど、
軽く釣れたらそれでいい。
釣りの醍醐味は人それぞれ。
おれは魚が仕掛けにかかった、餌を食ったあの
瞬間が好きだ。
タイミングよく合わせられた時の感覚が最高。
手応えがたまらないだよな。
釣れたら晩御飯に、そんなことを思っていたが、
実はおれは魚をさばけない。
いつも母親におまかせだったため、調理するのは
苦手なんだよな…
釣るのはいいんだけど、内臓とか触るの嫌だし…
なんかヌルっとした、あの感触がちょっとね。
なめんな!って釣り好きの人はごめんなさい。
テレビでたまに見るけど、船の上で釣ってから
そのまますぐさばいてお造りとかうらやましい。
いつかはできるようになりたい、と思う。
海より湖でブラックバスとか釣っていた方が
自分にはいいのかもしれない。
キャッチ&リリースだ。
でも湖畔だとなかなか釣れないんだよな…
言い訳をしつつ、釣り糸を垂らす。
にしても穏やかな海だ。本当に気持ちがいい。
釣り具屋の方に戻ると、おばさんが店番をしていた。
おじさんは今日は漁港の方で何か仕事があるようだ。
おばさんには昔、漁師飯のようなものをごちそうに
なったことがある。あれうまいんだよ、マジで。
お茶漬けも最高だった。子どもながらに覚えてる。
「なっちゃん、今日は晩飯食べてくかい?」
そう言ってくれるのはうれしいのだが…
「まだ部屋の方が落ち着いてないので」
そう丁重に断ると、おばさんは残念そうに言った。
「昔みたいに気軽に食べていけばいいのよ」
はは、と言いながらまたと約束して別れた。
まだみっくんにも会ってないんだよな。
ここ最近、家の片付けに追われてたし、そろそろ
久々の再会といった感じで、昔の思い出話でも
できればいいなと思っていた。
今、どんな感じになってるんだろう。
あの頃はおれの方が背が低かったけど、今では
ワンチャン勝ってたりして。
和也の身長がクソ高いから、おれはいつもかすんで
見える。なんか人気あるし、アイツ。
そんなこんなで、となりにいる2番目くんみたいな
扱いを受けているおれ。
和也のとなりにいると、なんかいつも2番って感じ
になっちゃうんだよな。
勉強でもいつも1番が取れず、結局は最高でも2番
に甘んじている残念なおれ。ラノベやアニメ作品に
投影して、そんな2番もよしとする。
いや、思うことにする。
名前も姫川だし、女子っぽくて男受け?
しそうなんだけどな…
なぜ女子じゃなかったのか、名前を変えられない
かなーとか考えたり。
まぁ、それはさておき。
みっくん、サッカーもよく一緒に見てたし、
今年はW杯もあるから、またいっしょに話して
盛り上がりたい。
視認しておきたいと親に聞いたら、会った時の
お楽しみでいいじゃないとか言いやがって。
お見合いじゃないんだから、そんなもったい
ぶらなくてもいいのに…
見てないとわからないだろう。
なんせ12年ぶりなんだから。
まぁ、そのなんだ、気恥ずかしさもあるんだけど。
おばさんの話では、バイトもしてるらしい。
何のバイトしてんだろう…
おれも紹介してもらおうかな。
学校がはじまるまでもう日がなくなってきた。
そろそろ準備もしておかないと。
なんせ、ひとり暮らしなんで甘えは許されない。
遅刻していてはまずい。
日本に残る時の約束。遅刻厳禁、成績維持。
家訓?のような響きで連呼していた。
四字熟語じゃないんだから、ほんとに。
寝起きの悪いおれをいつも怒りながら起こして
くれていたので、まったくもって信用がない。
まぁ、仕方ないことだ。
早寝早起き、生活スタイルを整えておかないと。
部活はどうしたもんかな。クラブチームの方は
いいが、めんどくさい。
勉強の方もそれなりにはやっておくとして、
上位をキープできていればいいか。
サッカーの方もそこそこに。
この先の大学のこともある。将来を見据えて、
今のまま両親がロンドンだったら…。
海外の大学に行くという選択肢もいいのでは?
制服も出しておかないと。
学校はじまったら昼ごはんもいるなぁ。
今までは弁当だったので、いざ自分の金でと
なると意外とお金がかかりそうだ。
聞くところでは、食堂のごはんは人気もあって
評判もよく、それなりにうまいらしい。
和也の情報であるが、先輩がネタ元らしいので
確かなのだろう。
こりゃ慣れるまでは外食かな。
弁当作ることも考えてたんだけどなぁ。
生活費のこともある。
自由なお金を増やしたいし、できるだけ食費も
節約したい。
あれこれ考えていたら時間があっという間に
過ぎてしまっていた。
明日はまたサッカーに誘われている。
どうやら練習試合があるらしい。
そろそろ寝るとしよう。
翌日の朝、天気がむちゃくちゃいい。
この時期、花粉がとぶのであまり好ましくない季節
ではあるが、ほどよい気温でまだマシな季節だ。
今日の相手はうちと同じくらいのレベルのチーム。
だいたい勝ち負けは五分五分といったところか。
なんとなくだが、女性ファンがきている。
和也は意外と人気がある。取り巻き?みたいな。
ファンクラブでも作ってんのか、ほんとに。
爆ぜろ、そう心の中で黒いおれがつぶやき
ながらアップを進める。
誰かひとりというよりは、あーやってキャーキャー
言われるのがいいらしい。ひとりにしぼれや。
リア充め。いつか痛い目みるぞ、くそっ。
親心にそう思って心配している。嫉妬ではない。
あくまで親友としてだ。
そんなファン?に見守られながらゲームは進む。
今日のおれは調子がよく、かなりキレがある動き
で1ゴール、2アシストを決めた。
試合は3-2でおれたちのチームが勝利したものの、
和也は2失点。取り巻きたちよ、おれを称えよ。
女子たちと話す和也を横目に少しおとなしい子が
目に入った。この前の和菓子屋の店員さん?に
似てるような女子が、いやちょっと違うか。
他の子の付き添いかな。
もしそうなら和也がいたことで、この前は少し
気恥ずかしかったのかもしれない。
まぁ、今日は納得のいくプレーもできたし、
気持ちよく寝れそうだわ。
戻っていた和也とグータッチをかわす。
「今日も少し付き合えよ」そう言われつつ、
昼めしなら歓迎だ。
と思っていたらまた例の和菓子屋に行くらしい。
なんでもスタンプラリーをやっていて、今日で
コンプリートできるとか。
何をやっとるのか、この人は。
片付けも終わり、グラウンドをあとしたおれたち
は少し外れの商店街の店へと急ぐ。
正直おれはどうでもいいので、今日はモンブラン
を食べることにした。
気が付くと、この前の店員さんが接客で対応を
してくれている。さっきの応援に来ていた女子
に似てるような違うような。まぁ、いっか。
モンブラン、うまっ。
紅茶が合うな。
和菓子屋のくせに紅茶もうめぇー。
和也はスタンプラリーの景品を見に行った。
「今日は大活躍でしたね」
急に話しかけられて驚く。
「いや、少し調子がよかっただけで…」
やっぱり、さっき見に来ていたのか。
それだけ言うと、向こうに呼ばれて店員さん
は去っていった。サッカー好きなのかな。
和也のファンなのだろうか。
脳内お花畑のスタンプ野郎が帰ってきたので、
少し話して店をあとにした。




