遠い日の約束
10,000ポイントが貯まったみたいだ。
マイナスらしいが…
美空ポイントは何に還元できるのか。
その後、美空様の呼び出しで軟禁される。
いや、軟禁というより監禁に近い。
いつの間にかポッキリーゲームを強制されていた。
勝敗の行方はどうなるのだろう。
動揺するおれにサッカーボールという賞品を
ちらつかせ、何が正しいのか、錯乱させる。
用意周到に計画されたプランだったのか、
今となってはわからない。
ただ、この結果はなかったことにできない。
この時、おれの「初めて」は奪われた。
ギリギリでかわす予定だったのだが…
間際のこと、いきなり両手で頬を包み込まれた。
何が起きたのか、どう反応してよいかわからず、
そのまま唇を重ねられる。
こうして既成事実を作られた。
美空は嫌じゃなかったのだろうか。
何故、ポッキリーゲームなんて発想に至ったのか。
部屋の片隅に見えたあのラノベ。
きっとあそこから発想を得たのでは。
天然というか、たまにブレーキが壊れていると
思える行動に走る時がある。
ここぞの圧もすごいというか、なんというか…
今日みたいに押し切られてしまったのは反省だ。
ゲームだよね?こういうことは本当に好きな、
大切な人とやるものでは?
本当に、おれで良かったのか。
【美空の回想】
適当なことを言って、なっちゃんにポイントを付与。
どうにかして距離を縮めようと考えた結果、
ラノベから得たヒントをもとに、考案したプランだ。
『ポッキリーゲーム』からの既成事実づくり。
「なっちゃん」ではなんだか子どもっぽいのでたまに
夏くんと呼んでいる。
結構いい感じじゃない?
ここ最近は、咲良ちゃんと休戦?協定を結び、
おたがいの出方にある程度セーブさせることに
成功していたのに…
ここに来て、水無瀬先輩の登場だ。
あの先輩は学園でも有名、若手ヴァイオリニスト
として、雑誌でも取り上げられている新星の音楽家、
アーティストらしい。
なんと言っても整った顔立ちに上品さが漂う。
事故のきっかけで、夏くんと仲良くなり、距離感
ゼロではと思うくらい接触が見受けられる。
なんといっても、わたしが不利なのは二人が同じ
学園ということだ。
夏くんがケガした時、わたしも本気で転校を考えた。
けど、それを話したら夏くんに止められた。
「1か月の療養に、学校まで変えるのはダメだよ」
確かに冷静な判断だ。
でも、正直この際わたしは転校してもよかった。
だって、いっしょにいられる時間が増えるから。
もっといっしょにいられるなら、転校だって
ひとつの選択肢だ。
お金のこともあるし、仕方ないのであきらめたが、
お弁当だけは毎日作り続けた。
早く元気になって欲しい一心で。
あの先輩がお弁当を作ろうとしていると聞いて、
それだけは絶対阻止しなければ、よくないことに
なる。女の勘がそう告げていた。
ふたりが急接近して、夏くんの心が揺らがぬよう、
わたしの目が届かないところで、何かの間違いが
起きないように。
家での時間もできるだけ、夏くんといっしょに
過ごすようにした。
アルバイトが足のケガで入れなくなったから、
その時間はがまん。
その分、家の仕事を手伝う機会を増やした。
サッカーの試合はいっしょに応援する側に
なってしまったけど、それはそれである意味、
楽しかったと思う。
色々考えて動画の話をしたり、海外サッカー
の試合もチェックして話題づくりに励む。
わたしって健気でしょ?
お弁当だって夏くんの好物のものを把握し、
日替わりで詰めてあげた。
こんな献身的に努めてるのに、何も感じて
ないのかな?
どうすれば振り向いてもらえるの?
鈍感なんだから。
ちょっとやそっとじゃわからないのかな。
こうなったらもっと積極的にいくしかない。
そう思ったきっかけは、この前の夏祭りの
出来事だ。
こっちが金魚すくいに夢中になっていると、
気が付いたらあの先輩がいつの間にか夏くん
とふたりで抜け出し、あろうことか甘える
ように肩にもたれかかっていたではないか。
危険だ。たぶんあの先輩も夏くんを狙っている。
自分の中に焦りの色が芽生え始めていた。
いっしょの家に住んでいる今、もっと
アドバンテージを活かさないと。
そう思った美空は決意したのだった。
ポッキリーゲームに絡めた戦略的アプローチを。
ここが勝負時、美空はそう心に誓った。
【いつかの約束】
あの夜は、なんだか気分が高揚していたかもしれない。
ポッキリーゲームでおたがいにキスをしたあの日。
3本勝負、必要なのだろうか。
そう思っていたのに…
なし崩し的に初めてが奪われた。
そのあと言葉にならない状況にそのまま呆けていると、
2回目、3回目とたてつづけに口づけられた。
痺れるような感覚。今まで味わったことのない、
自分の中を何かが貫いていったように感じられた。
そのあと、10本もあるポッキリーをなんとか
袋に戻させたものの、ベッドに横になって
手をつないでいた。
ふと、美空が昔の話をはじめる。
あの目を引く、いちばん気に入っていた絵を
描いていた時のことだ。
いつもいっしょに遊んで、子どもながらに
楽しい日々だった。
どうしたらこんな日が続くのか。
そう考えたおれたちは、絵に願いごとを
込めたのだ。
『かぞくになろうよ。これでずっといっしょだよ』
昔の絵のはしっこに書かれた、その幼くて
拙い文字は、おれの心の片隅に眠っていた
懐かしい記憶を呼び起こした。
あの頃は本当に楽しくて、今みたいに無気力
で投げやりな感じじゃなかったよな。
なんであんなに笑って、
楽しく過ごせてたんだろう。
それはきっと…
あぁ、なんで今まで気付かなかったんだ。
こんなにも一生懸命で、おれのことを
考えてくれて、いつも見てくれている
存在がいたのに。
当時は同じ男の子と思っていたけど、
性別が違ったからって急にぎこちなく
不器用に接してしまって。
美空はこんなにも努力して、おれに精一杯
向き合ってくれていたというのに。
おれはなんて残念な奴なんだ。
聞けば、いつもサッカーの大会には
足を運んでおれのことを応援して
くれていたらしい。
あの日、勝敗のかかったPKを外し、
フィジカルでも思うように動けず、
チームのみんなに迷惑をかける結果
となってしまった。
みんなに顔向けができず落ち込み、
自信をなくしてしまった試合も、
美空はおれを陰ながらずっと見守って
くれていたようだ。
とても心配していた、と。
そう教えてくれた。
自分のことを思ってくれる存在って
そういない。親は別だ。
腐って常に8割でしか力を出して
生きることをしなかった、
省エネモードなおれだが、こうして
自分を見てくれる存在がいることを
知った今、きちんと過去に向き合って
前を向かなければ。
もうごまかして生きるのはやめだ。
今、この瞬間から仕切り直していく。
そして、大切なものにもしっかりと
向き合って行こう。




