夏祭り
サッカーの大会を前にケガをしてしまった。
だいぶ足の具合も良くなってきたものの、
幼馴染たちから異様なほど甲斐甲斐しく
お世話される状況に、疲労の色が滲む。
修羅場(幼馴染たち)と思えた状況から
なぜか協定が締結されたかと思いきや、
人助けで事故に遭う始末。
何か悪霊にでも取り憑かれているのか…
厄払いでも行った方がいいかな。
色々あって、あれから何が変わったか。
特筆すべきは、先輩の勢いだろうか…
いっしょにいる時間がとにかく長い。
そこまで必要があるのか?とも思うが、
責任を感じていると積極的にサポートを
申し出てくれるし、ふと気付けばそこに
いる、といった具合だ。
何かチップでも埋め込まれていて、監視
されているのではなかろうか…
最近はその「気づけばそこにいる」頻度が
異常に高い。
いつもおれに構ってくる幼馴染たちを圧倒
するくらい、過ごす時間が増えていた。
今日もお昼をいっしょに食べている。
「先輩、おれなんかと食べるより友達と…」
「大丈夫、問題ないわ」
有無を言わさず即答された。
いや、そういう問題では…。
うーん、そういうことじゃないんだよな。
先輩は控えめに言っても美人だ。
いや、美人だ。大事なことだから2回言う。
おれなんかといっしょにいると申し訳ないし、
こちらはやっかみの視線と、『なんだあいつ』
という殺気を男女問わず浴び続けている。
先輩は学園でも有名な人気者だ。
まぁ、それはおれの事情でしかないか。
となりにいるのが、当たり前になりすぎて、
ちょっと困る。
弁当は美空が死守して作ってくれるが、
先輩は危うく弁当まで作ってくれそう
だったので、ストップをかけた。
容姿端麗、文武両道?いや才色兼備か。
困った人を助けてしまった。
ご恩返しが過剰な気がする。
このことについては一度ならず、二度三度
話し合った。
だが、先輩は頑なに譲らなかった。
治るまではお昼をいっしょに、との約束だ。
ということは治ったら…
よし、とにかく治そう。
そうすれば事態は改善に向かうはず。
そう信じて、足のケガの治療に専念
することにした。
そうして完治しないケガを抱えたまま
夏休みに入ったおれは、うだるような
暑さに苛まれていた。
毎日溶けそうだ。サッカーで真夏に
試合をすることもあるが、そんな日は
ハードな1日となってしまう。
暑いならエアコンをつけろよ、それで
済む話かもしれないが、まったく外に
出ない訳にはいかないし…
今は病人(ケガ人)として丁重な扱い
を受けているため、エアコンのきいた
部屋で概ね快適に過ごせている。
ほぼ治ったのでは?そう思いつつ、
筋トレをして過ごしている。
にしても暇だ。バイトだってできないし。
ちょっと夏休みにバイトに入りつつ、
今までにない夏を過ごすことを少しだけ夢
見ていたはずなのに…
なんとしたことだ。親も美空の家にいること
もあり、ケガをしたといっても安心して帰って
くる気配など毛頭ない。
薄情な奴らめ。まぁ、いいや。
もう少しでギプスを外せるため、やっと解放
される。そういった気分が物理的なものだけ
でなく、メンタル面でも楽になれるはずだと
思っている。
先輩はこれでもうお役御免のはずだし、
幼馴染たちからの解放も期待される。
そういえば、先輩から演奏会のチケットを
渡されていたな。その頃には足も治っていて
自分で会場に行けるはず。
コンサートのようなものらしいが、おれが
行ってよいものだろうか。
バイトも今は休んでいるが、人出不足のため、
和菓子屋カフェはいつでもウェルカムだと
聞いている。
サッカーの練習も開始できる。
だいぶブランクがあるので、しっかり動いて
感覚を取り戻さないとな。
大会直前にケガをしてしまい、できることと
いえば、ベンチをあたためることしかできず。
おれは静かに試合を眺めていた。
残念なことにチームは1次リーグで敗退。
和也からはボロカスに愚痴られ、なぜかディス
られる始末。
ケガをしないよう、コンディションを整えるのも
プロフェッショナルの流儀のひとつだ。
事故とはいえ、大事な試合を控えている時は気を
つけるようにしないと。
「おまえがいたら、あと5点は取れてたな」
「そう言われましても…」
「幼馴染や先輩とお楽しみだったしな」
「おれは何も楽しくない」
「周りにはそう見えてないと思うけどな」
「勝手に来るんだよ」
「それがダメなんじゃないのか」
「…」
「まぁ、いいや。負けたし、夏祭り行こうぜ」
「あの祭りか。その頃には治ってるな」
「もっと早く治せよ」
治らないものは仕方ない、せかすなと思いつつ
和也の文句をかわしていた。
「夏祭り、か」
地元の祭りってなんかいい響きだ。
当然だが、それぞれの地域の特色もあるし、
内容も違ってなんか気分も上がる。
ここの祭りの記憶も微かに残っているが。
昔の記憶が断片的に呼び起こされた。
かつて、美空と行っていた頃の思い出。
小さいながらふたりとも甚平着てたかな。
そりゃ男の子と思うでしょ、普通は。
神社で何か話して指切りしていた記憶を
思い出した。何の話していたっけ。
ちょっと思い出せないな…
8月に入り、ようやく足も完治したと思う。
お世話する機会を失った幼馴染たちは納得
していないようで、和也と行く夏祭りに
いっしょに行くと言い出した。
そんなことで、今は神社の前で待ち合わせ。
雰囲気を出すために、おれは甚平を身に
まとっている。美空や咲良も浴衣で行くと
楽しみにしていた。
4人のはずだったのだが、なぜかそこに
水無瀬先輩までどこで聞きつけたのか、
参戦してきてしまった。
ちょっとややこしいが、決しておれのせい
ではないと思う。
「金魚すくいしたーーい」
咲良がこどもっぽく言うと、なぜか美空も
対抗心も燃やして金魚すくいをはじめた。
どうせそんな取れないだろうに…
「先輩はしないんですか?」
そう聞くと、首を振って出店を眺めていた。
「わたしは祭りの情緒を静かに楽しみたいの」
大人だな。やはり少し感性が違う。
音楽家ならではの発言なのだろうか。
なぜか甚平のすそを少し引っ張っている。
「どうかしたんですか?」
「少し足が痛むかも。肩貸してくれる?」
断わる理由もないので、大丈夫か心配で
様子を見ていたのだが、寄りかかられた
かと思うとバランスを崩して抱きつかれる
ような感じになってしまった。
「大丈夫ですか?」
「ごめんなさい、ちょっとめまいがね」
お祭りの賑やかな雰囲気にあてられたのか、
事故の影響がなければよいのだがと思う。
先輩だって倒れこんだ時に少し打撲は
していたのだから。
体調のこともあるので、少し人混みを
離れて石段のところで休憩する。
先輩は空を見上げてほっと息をつく。
「あまり賑やかなのは得意じゃなくて」
「おれもですよ。静かな場所の方が好きです」
「あの時、咄嗟に助けてくれてありがとう」
「たまたまです。ふらふらしてたから」
「ふふっ、よろけていて良かった」
「なんでですか…しっかりしてくださいよ、ホントに」
「だって、あなたに会えたもの」
「…。そんな大層なことでもないでしょ」
「そんなことない。ケガもあったけど、いっしょに
過ごせて楽しかったよ?」
「少し過干渉気味でしたが、おれも楽しかったです」
そういうと肩に頭をもたげてきた。
あれ、これカップルみたいなのでは?
「そろそろ戻りましょう」
「もう少しこのままで」
えーっ…ややこしいことになりそうだ。
「あっ、見つけた!どこ行ったかと思えば」
「何してるんですか、先輩」
「ちょっと祭りの空気にあてられてね」
「なんで肩に頭を乗せる必要が??」
「落ち着くのよ、こうしてると。ねっ?」
いやいや、何の同意求めてるんですか…
まるでいつもしてるみたいに。
誤解を招くのでやめてほしい。
「とにかく離れてください」
美空がかわりに私がと手を出すと、
先輩はさっと立ち上がった。
あれ、元気じゃない。さっきまでは
何だったのか。
「先輩でも抜け駆けは禁止ですから」
何だか空気が悪いような、咲良も
眉間にしわが寄っているような…
美人が台無しですよ?咲良さん。
美空がやってきて、耳元で囁いた。
「マイナス9,000ポイント」
えっ、なにそれ。10,000ポイント
貯まったんですけど。
何が起きるのか不安に駆られつつ、
その後は美空と咲良に挟まれながら
祭りの屋台を引きずり回された…
あたかもボディーガードのような
SPの振る舞い?で周囲ににらみを
きかせるふたりに守られ、おれは
ただ祭りを楽しもうと努めた。




