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20/21

幼馴染と「ひとつ屋根の下」

人助けをした帰り道。骨折という「おまけ」をもらって

しまったのは不運だった。

まぁ、骨折っていってもヒビだけのはず。

大げさに言われてしまうのだけど、ギプスをつけられ、

松葉杖まで与えられているので、美空ミクの家、釣り具屋で

今日からお世話になることになった。

元々、近くの家に住まわせてもらっているので、

あえてひとつ屋根の下で暮らす必要もないのでは?

そう思って、再三お断りしたのだが…


「ひとりじゃ色々不便でしょ」

「無理して悪化してもいけないし」

「何かあったらどうするの!」


そんなこんなで(これはすべて美空の発言です)、

そのまま釣り具屋に引き取られてしまった。

まぁ、近いのもあるし、移動が楽でよかったと

いうことは確かなのだが…。めぐまれてるな。

お気楽に考え過ぎなのかもしれない。

和也にはバカ、まぬけと罵られ、試合に出場が

出来なくなったことをとにかくけなされた。

少しくらい心配しろよ。鬼か、あいつは…

そりゃ、ボランチでチームの軸なのは確かだけど、

誰か他のやつがうまくゲームメイクしてくれる、

ちょっとは期待してるけど。

でもうちのチームボランチというか、ゲームを

組み立てられるやつがいないんだよな…


サッカーの方はいいとして、登校には少し不便を

感じている。美空は学校が違うので、途中までは

いっしょだが、学校まではまだ距離がある。

咲良も仕事があるので、そうそうひまじゃない。

サポートはしてくれそうにない。

まぁ、ひとりだって大丈夫。そう思うことにした。

「大丈夫?そこまでいっしょに行こうか?」

そう声をかけてきてくれたのは、水無瀬みなせ先輩。

おれの事故の原因を作った張本人だ。とはいっても

善意で助けたのだから、骨折してしまったけれど、

本人を恨んでなんていない。

先輩だって、どうやらおれをケガさせてしまったことに

若干うしろめたさを感じているようだ。

だからなのか、一時は先輩の自宅に住むことを提案?

されていたが、美空が間に入り、頑なに断った。

おれは期間限定で豪邸に住んでみることもやぶさか

ではなかったが、少し夢見た瞬間はあったけれど、

なぜか幼馴染たちに文句を言われ続けるおれ。

ケガをした本人の意思は一切考慮されることなく、

儚い夢と消えた。


「ありがとうございます先輩。でも申し訳ないです」

「いいのよ、わたしをかばってくれたんだから」

肩を寄せるようにして、おれが誤って転倒すること

がないよう、注意してくれている。

優しいな、先輩は。いつも雑に扱われている?

だけに何だか新鮮な気分で受け入れられる。

先輩はちゃんとクラスまでご丁寧に送り届けてくれた。

こんなの、本当に惚れてしまいそうじゃないか。

おかげでクラスのみんなからは、先輩との関係を詮索

されたり、何事かとざわつく事態となっていた。

平凡に隠密に生きたいおれは、少々面倒である。


昼休みになるとやっと落ち着ける。

そう思ったのだが…

和也が何かと色々聞いてきてうっとおしい。

先輩との関係性から、ひとつ屋根の下で同居する

ことになった幼馴染のこと。

そして今日も持たされた弁当箱。

もちろん、美空ミクさんお手製のものである。

新婚のようなしあわせさを感じつつも、複雑な気分だ。

サッカーもできないし、今日からどうしたものか。

通院と暇を持て余すリハビリ生活だ。

釣り具屋で店番をするのもありかな。

今はおれの暮らす家なんだから、ふつうに問題ない

光景だ。ふらっと釣りに行くのもいいかも。


そう思っていた頃もありました。

放課後になって、さぁ、帰ろうとしていたところ、

水無瀬先輩から声をかけられた。

「それじゃ帰りましょうか」

どういうことだろうか。おれは松葉杖を不器用に

動かしながら歩いていたのだが、突然のお誘いに

戸惑っていた。

どうやら帰りの車が待っているらしく、そのまま

ライドしろということらしい。

ご好意を無下に断わるわけにもいかず、ひとまず

乗ることに同意した。

もしかして、うちまで送ってくれるのだろうか。

そう思って窓の外の景色を眺めながら、先輩との

会話を楽しむ。この前会った時はふらついていて、

今にも倒れそうであったが、どうやらあの時は

調子が悪かったらしい。

だから助かったとあらためてお礼を言われた。

あれは本当にファインプレーだったのだろうか。

まぁ、おれにとっては不幸な結果となってしまった。

あれ、家までの道のり教えたっけ?

言わなかったような…

「先輩、この車はどこへ向かっているんですか?」

「あー、もちろんわたしの家だよ」

なんでだ。ケガ人を拉致しないで欲しい。

ここにもおれの意思はなかったようだ…

帰ります、と言っても無理があるので下車できず、

とにかくそのまま乗って目的地まで行くことに。

豪邸へ、と思いきやさっぱりした一軒家に到着。

ここが先輩の家?らしい。

到着すると、運転手らしき人は挨拶をしたあと、

そのまま車を走らせて去っていった。

「ここは私の創作活動の家なの」

あー、へー。なるほどね。この家はそのための

家なんだ。芸術肌、アートな血筋の方は素敵だ。

「ということは、おれと同じ独り暮らしですか?」

「うーん、まぁ、そうとも言えるわね」

おれなんかより、よっぽど意識高い系だ。

いろんな意味で先輩だと思う。

バイオリンだってうまいし、尊敬する。

女子の部屋、というか家だな。

入ったのは初めてかもしれない。

幼い頃のことはノーカウントとして。

ケガ人ではあるものの、なんだか安らぎを感じる。

「ゆっくりしててね」

「あ、はい。でも、くつろいでていいんですか?」

「気にしなくていいのよ」

そう言って、先輩は紅茶と茶菓子を出してくれた。

カフェにでも来たような気分だ。

こういうのを『おもてなし』っていうのかな。

いつもはもみくちゃにされて、お世話はされている

というか、それとは別の感覚を味わっている気分だ。

至高の体験といってもいい、そんなことを考えていた。

とはいえ、時間を持て余して部屋の様子を眺める。

色んな写真が飾られている。海外のどこかだろう。

よく行くのかな?かわいらしい色合いのぬいぐるみ

や装飾がおしゃれだ。よし、参考にしよう。


あれ、これなんだろう?そう思って少し動いていたら

バランスを崩してしまった。

躓いたところを先輩に支えられていっしょに倒れ込む。

「す、すみません。大丈夫でしたか?」

「平気よ。それよりあなたは大丈夫なの?」

「なんともありません。まだ慣れなくて、つい」

こんなことを考えてはいけないとは思うのだが…

先輩に抱きしめられるように倒れこみ、何だかふわっと

やわらかさを感じてしまった。決して他意はない。

なんだか気恥ずかしい気持ちになる。

香水だろうか、爽やかな香りに包まれていた。

あれ、もういいと思うのだが…

そろそろ離してくれてもよいのでは?

そう疑問に感じていると、なぜか強く抱きしめられた。

鼻をスンスンさせて、くんかくんかと嗅いでくる。

残念だが、おれはペットではない。

ふと指先を見ると、本当にしなやかできれいだ。

この指があの音色を奏でているのか。

音楽家というのは、そういうところから繊細にお手入れ

しているものなのかな。

サッカー選手とは分野が異なるので、色々な努力の方向

がまた違うのかもしれない。

「先輩、どうしました?大丈夫ですか?」

「ええ、ごめんなさい。ちょっとね」

少し顔が赤い気がするが、体調がまだ悪いのだろうか。

無理はしないでほしい、そう思っていた。

これ、いつ帰らせてくれるのかな…

なんかほのぼのした空気が流れているが、いつまでも

こうしていられない。

彼女のうちに来た、みたいな気分に浸ってしまったが、

今日からおれの家は釣り具屋だ。

おうちの人がご立腹で捜索願を出している頃かも。

少々不安に感じつつも、穏やかな時間は流れていった。


このあと、美空が急いで迎えにきたのと、ケガ人なのに

椅子に座らされ、延々とお小言を言われたあと、なぜか

ひざの上に乗ることを強要された。

どうやら先輩の家に拉致されたことが気にくわなかった

ようだ。マイナス1000ポイント、そう言われた。

どういうカウントなのだろうか。

何かすれば解消されるのかな…

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