幼馴染『協定』
なにがどうしてこうなった。
なんの因果か、3人でランチを食べることに。
うん、今日はいい日だなぁ、あはは。
仲良しグループのランチ会、端からはそんな
感じに見えているのだろうか。
この場合、どう振る舞うのが正解?
間違えば死、そんな戦慄が走る。
動物の勘、あるいは種の保存のため?
人類の危機管理能力は、この日のために
磨かれてきたといっても過言ではない。
座席の配置は、おれが真ん中に挟まれている。
妥当な配置とみなさんは思うかもしれない。
だが、そんなことはないぞ?
この空気の重さ、何か空間の歪みのような
ものを感じる。
この前の和菓子屋騒動からだいぶたったが、
ふたりとも落ち着いたのでは?
あの時はわらび餅が売り切れてただけ。
そう、きっとそのはず。
予測の付かないこの非常事態。
はたして、おれは生きて帰れるだろうか…
【美空の陽動戦】
最近、なっちゃんがカフェや美味しそうな
ごはん屋さんを探している。
それはなぜか。
あの女だ。何かなっちゃんに絡んでいる。
そんな電話での話し声を聞いた。
わたしは平然を装いながら、こんなとこも
あるよ?とオススメスポットを提案する。
もちろん自分のためである。
これでもしデートでやってきても、合流して
独り占めを阻止することが出来る。
しっかり行く店を誘導しつつ、あたかも偶然
を装い、デートなるものに合流するのだ。
させない、独占は。そう決意を固めた。
【咲良の想い】
なに、なんでこんなとこにいるの?
電車で肩貸してた和菓子屋バイトの娘。
ちょいちょいしゃしゃり出てくるみたいだし、
この辺でハッキリさせとく必要がありそうね。
どちらが正妻か、見せつけてやろうじゃないの。
わたしと夏樹の付き合いの長さは誰にも負けない。
あうんの呼吸で体調や機微の変化すらわかる。
わたしと夏樹は心でつながってるのだ。
なんの目的でここにいたのかは知らないが、
仲良し恋人アピールさせて諦めさせる絶好の
チャンス。
わたしの魅力を思う存分見せつけてやる。
絶対に渡さないんだから。
~~~
なにやらそれぞれの思惑が絡み合う昼下がり。
パスタランチを食べながら、何を話そうか戸惑う。
ふたりはほぼ話したことがない、はず…
(きっと和菓子屋のやり取りくらいだ)
ということは、おれが話を振るしかない。
「学校はどうだ?」
あ、これ会話のないお父さんとかが言うやつ。
「隣のクラスでしょうよ」
たしかにそうだった。
「てか、最近おまえ学校に来てないだろ」
「忙しくてねぇ、ふふ。文化祭の手伝いも
出来なかったし」
「ちゃんと手伝えよ、ほんと…」
「文化祭も出れそうにないんだよね」
いっしょに回りたかったな、と話す咲良。
「わたしは関係者だから行くよ?」
なんと、ミクさんは文化祭に来るらしい。
ミクさんの通う高校とうちの学校は昔から
深いお付き合いがあるらしく、イベントが
あるとお互い交流をする間柄のようだ。
「だから、なっちゃんが案内してね♪」
なにやらご機嫌にマウントを取りにくる。
咲良が歯を食いしばり、今、何やら舌打ちを
したような気がした…
「夏樹はわたしと長いお付き合いだからねぇ」
脈絡もなく、言葉をつなぐ。
「お風呂もいっしょに入った間柄だし」
「それ、5歳の話だからな!」
「えー、そうだっけ~♪つい最近も入ったり♡」
「「いや、絶対ないし」」
「まぁ、なが~いお付き合いってことね」
ここで、ミクさんが反論する。
「わたしはいっしょの家に住んでるし」
「いやいや、名義だけだからね!!」
「それって、もう婿入りってことじゃない?」
あたかも結婚して同棲しているかのごとく、
またマウントを取ろうとしている気が。
「さり気なく優しいところは素敵だよね」
「わかる。何気なくそっと寄り添ってくれたり」
おや、潮目が変わってきたような…
「「…、…。」」
なぜにほめ言葉の応酬がはじまったのか。
いつの間にか、おれの長所やどこが素晴らしいか
語り合う会になってしまっていた。
そういうのは本人であるおれのいないところで
やることなのでは?
そのうち、鈍感だのディスられている言葉も
ちょいちょい混じっていたような気がする。
最後はなぜか意気投合して、女子どうしRHINE
を交換していた。微笑ましい。
よくわからないが、ふたりとも自分達が幼馴染
であることがわかると、色んな思い出や苦労話、
おれの好きな食べ物、嫌いな食べ物、挙げ句の
果てには幼少期の失敗談をネタにカフェランチ
を堪能し始めた。
もしかして、この人たち気が合う??同じ種族
なのでは…
とにかく、ケンカは良くないので仲良くしよう。
おたがいにおれの時間を効率よくシェアして、
しあわせに活動しよう、みたいな訳のわからない
会談と協定事項が締結された。
おれは第三国のような立ち位置であったが、
戦火に巻き込まれた当事者でもある。
仲を取りもつ役割としては少しばかり違うような、
そんな違和感をおぼえつつも、無事にこのランチ会
を切り抜けられたことに安堵していた。
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サッカーの練習に行ったおれは、すっきりしない
気分でボールを回す。和也に苛立ちとやるせない
この気持ちをぶつけてやりたい、そんな気分だ。
先のランチ会では、あわや戦火に巻き込まれた
哀れな子羊のようであったものの、そのうちに
戦利品としてどう取り扱うかの材料となり、
モノではないのだが、最低限の人権は守られた
かたちで対談を終えた。
この際、ハッキリ言っておく。
この協定事項におれは納得していないし、調印
すらしていない。
どちらかというと、ペットショップで飼い主が
引き取りにあたっての注意事項を読み上げて、
確認をされている状況に酷似している。
そして、おれはペットではない。
ぼーっとしてたら和也にボールをぶつけられた。
クソッ、おまえのせいだ。
「おまえ、今日飯おごれ」
「は?なんでだよ。急にどうした?」
「戦犯者に拒否権はない」
コイツが咲良に情報タレ流しているせいで、
とんだ災難にあっている。
それを思うと、安い損害賠償額だな。
よし、いちばん高いハンバーガーを食べよう。
ひと悶着、ふた悶着あった後のおれではあるが、
気持ちは晴れやかなのか、ボランチとしての
ロングフィードがきれいに数本出せて満足だ。
からだのキレの良さを感じる。
外野には和也のファン達、それに協定を結んだ
ばかりの幼馴染ふたりがいっしょに歓談しつつ、
おれのプレーを見守ってヤジをとばしてくる。
うん、取り越し苦労だったかな。
幼馴染という同じ境遇だからこそ、わかり合える
こともあるのだろう。
雨降って地固まる、そんな言葉が似合いそうだな
と思いながら汗を流した。




