負けヒロイン?
体験バイト2日目が終わった。
サッカーと違う、軽い疲労感をおぼえながら、
おれたちは街へ向かう。
ふたりきりというのもなんだか緊張するものだ。
いつもはおばさんやおじさんといっしょに食卓
を囲むってことが多かったのもあって、何だか
ぎこちなくなってしまった。
恋愛もの!と強く言うので、特に観たいものが
ないおれは、ミクさんのことを優先した。
そこまではよかったのだが…
ホラーでもないのに、暗がりが怖いとか、女子
だから仕方ないのか、よくわからない。
手をつないでほしい、とかそんなことを言われ、
少し困った。女子と手をつなぐ、しかも映画館。
最高のシチュエーションなのでは?
これってデート?俗にいうデートというもので
はないだろうか。
サッカーや受験勉強で忙しかったおれにデート
なんてする時間はなかった。
なんだかんだで、和也からお誘いが何回かは
あったものの、あいつのハーレムに飛び込み、
疑似デートのようなことをさせられ、和也が
チヤホヤされるのを見て何が楽しいんだか…
おれのファンもいるとか言っていたが、おれを
誘うためのフェイクかもしれないので、迂闊に
誘いに乗るわけにはいかない。
おれは慎重派、しっかりあたためたうえで交際
を進めたい。
それにしても…。
ミクさん、モテそうなのに彼氏いないのかな。
幼馴染とはいえ、それに甘えて厚遇されてる気が
してなんだか申し訳なくなる。
帰りだって、あんなに強く手を握らなくても…
ホラーならわかるよ?夜だし、ちょっと怖いのを
引きずってるからまだ離さないで、みたいな。
恋愛ものだし、引きずるっていっても少し違うような…
最寄り駅まで帰り着き、ミクさんを送り届けた後
の帰り道、ふいにおれのRHINEの通知音が鳴る。
直後に電話のコールが鳴り響く。
ガラスの割れる音だ。
…。
出来れば電源切れてくれないかな。
画面を恐る恐る確認しつつ、仕方なく出てみる。
「おそーーーい!!寝落ちするとこだったよ?」
「いや、そのまま寝ればいいのでは?」
「ひどいね。乙女の心も体も食い物にして…」
「いや、言い方、おかしくないか」
だから出たくなかったのだ。
「わたしはナツ、あなたの心と体をケアします」
「おー、久々のロボきたー!!」
「10段階だと心の痛みはどのくらいですか?」
「うーん…8かな?」
「もう大丈夫。代わりに言ってあげます、ガチャリ」
「いや、ダメダメ!うぉーい、何も始まってないぞ」
電話を切ろうとするおれにストップをかけてくる。
「なんだよ、8だったら統計的には安心な数値だけど」
「わかってないなー、乙女心は複雑なのだよ」
「昔、8の時は上機嫌でOKって言ってただろ」
昔から泣いてばかりのコイツを、おふざけで
メンタルケアしていた頃のやり取りだ。
「なんだよ、バイトで疲れてるんだよ」
「ほぅ、またあのバイトですか」
「仕方ないだろ、和也のお姉さんの頼みじゃ」
「なにやら不穏な情報をキャッチしましてな」
まがまがしいインチキ情報屋のような口ぶりで
話を続ける。ホントに何の用だよ。
「商店街を手をつないで歩く男女を見たと」
「…。」
「しかも恋人つなぎだったらしいですぜ、旦那」
「へ、へー。カップルか何かか、微笑ましいな」
「バイト帰りにおたのしみだったんですかねー」
「あー、携帯の電池が切れそうだ」
「わたしともデートだねっ!」
どこまで見えているのか、それとも見ていたのか…
少し怖いが、電話を耳から離して次の言葉を待つ。
「今週の土曜日、必ずあけておくように」
そう言って電話を切られた。
逃亡すれば鬼電と執拗な拷問が待っている。
今日は本当に慌ただしい日だったな。




