バチバチ?
学校もはじまって、朝のリズムもうまくできてきた。
RHINEでの「起きた?」「おはよう」のやり取りは
ミクさんと欠かさずすることになっている。
電車の時間もあるので、それに合わせて待ち合わせ。
そこまでがモーニングルーティンだ。
相変わらずいっしょに登校するのは定番となって
いるのだが、気恥ずかしさはまだ抜けていない。
初日のこともあってか、毎日おしかけてきそうな
勢いだったが、朝にRHINEで連絡取り合うことを
提案すると、少し考えて何やらぼそぼそ呟いた後、
なんとか納得してくれたようだ。
とにかく、こんな調子でおれの新生活は概ねうまく
いっている。まぁ…70点といったところか。
通学の電車は始発に近いから、落ち着いて座れる
ことも多いのだが、進むにつれて人は増える。
ミクさんは何とも思っていないようだが、やはり
周囲の視線を感じることも多い。
白の制服がまぶしいのもあるが、それをまとった
ミクさんも神々しいのだ。
なので、男子の視線をたまに感じることもある。
それは隣にいる、おれへの殺気に満ちたものも
混じっている。
平和主義なおれには、時々嫌気がさすもの。
なんの気兼ねもなく、のんびり通学したいしね。
ちょっとうとうとしながら、とか。
電車に揺られてマンガのようなイベントに遭遇。
そんな空想にふけりながらラノベでも読んでる
登校風景を夢見ていたのだが…
リアルはそんなことを許してくれないらしい。
代わりに幼馴染の美少女と殺気に満ちた視線を
セットで受けとる羽目になっている。
「それもありか…」そっとつぶやいた。
ミクさんは気付いてなかったようだ。
まぁ、いっしょなのは途中までだし、ひとりで
さびしくぼっち登校より、緊張感はありながら
多少会話しつつ、学校までの時間が過ぎていく。
【美空の独り言】
なっちゃんといっしょに登校する毎日。
朝はRHINEでモーニングコールのようなこと
をやり取りする。習慣づけることで日常化、
それがまず第1ステップだ。
あとはどう意識させていくか。
今は通学だけになってるけど、ごはんとか
いっしょに食べたりもしたいな。
家に来てもらうのでもいいけど、なっちゃん
のお家に行ってごはんでも作ってあげたい。
申し訳ないからって、軽く断られたけど、
クヨクヨしていられない。
少しでもいっしょにいる時間を増やして、
距離を縮めていきたい。
あの親しげに話していた小日向さんとやらに
一歩でもリードしておかないと。
バイトもあるので、自由になる時間は大事に
取っておかないと。
通学の電車はなっちゃんのとなりをキープ。
変な虫がつかないよう周囲を警戒。
乗ってくる女子学生でチラチラなっちゃん
を見ている子をチェック。
本人はうわのそらだが、実はモテることを
認識していない。心配だ。
少しにらみをきかせておく。
なっちゃんの袖口をつかむような素振りで
彼女アピールをしてみる。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。なんか糸くず付いてた」
「あ、そうなの?ありがとう」
さり気なく、親しい感じを漂わせつつ、
立ち入る隙間はないことを周囲にアピール。
徐々に外堀を埋めていくように、少し違う
かもしれないが、心と体の距離も近づけて
いこう。
【夏樹の夢の中】
だいぶ慣れてきた登校風景だが、昨日は
ネットでサッカーの解説とプレーを研究
していたせいで、寝不足だ。
ウトウトしてしまった。
座れたこともあって、余計に眠くなる。
ミクさんは隣にいるが、申し訳ない。
だめだな、これ…
気付いたら夢見心地であっちの世界に
引きずり込まれていた。
なんだか懐かしい風景を見ている。
これはみっくん(ミクさん)と遊んで
いた時の記憶だな。きれいな絵だ。
一枚だけ、息をするのを忘れるくらい
ハッとする絵があった。
あれは何の絵だっただろうか…
白いキャンバスが輝いていて、何が
書かれていたのか思い出せない。
この絵、本当に好きだったんだよな。
何か約束したような気もするが。
「気のせい、だろうか…」
少しの間、眠ってしまったのか。
気が付けば、隣の人にもたれかかって
いたようだ。
「すみませ、あっ…」
隣はミクさんだった。何かぷるぷると
震えているような気が。
「ごめん、重たかったよな?」
「ううん、ぜんぜん大丈夫!!」
ぐっすり眠り過ぎて気づかなかった。
迂闊だった。隣に座っていたのを
すっかり忘れていた。
にしてもスッキリしたわ。
うたた寝っていいもんだよな、うん。
もたれかかってしまったのは失態で
あったが、からだは軽い。
今日も河川敷で練習があるから、
寝不足のまま臨むわけにもいかない。
授業で寝るか、電車で寝るか。
空き時間の有効活用だ。
しかし、ミクさんをひとりにして
しまったのはダメだった。
「わるい、寝落ちしちゃって」
「いいんだよ、音楽聴いてたから」
もうすぐ降りる駅だ。
ふと見ると、心なしか顔が赤い気が。
「顔赤いけど大丈夫?体調わるくない?」
「だいじょうぶだよ!!じゃ、降りるね」
そそくさと降りていくミクさんを見送る。
本当に大丈夫だろうか。季節の変わり目、
少し心配だが手を振って別れる。
【怪獣の唄】
しばらくしていると、何かうるさい声が
している気がする。
「おーい、居眠りさん。おはよう」
「…」
たぶん、気のせいだ。そう思ってながす。
「スルーすな!!」
空いた隣の席にどっしり座って狭いぞ
アピールしてくる学生がひとり。
脇腹を突いてくる。失礼な奴だ。
さっきまでのおれなら、体力を削られて
キルされていたことだろう。
「……。」
無駄に体力を消費するわけにはいかない。
「この電車だったんだね。よく寝てたこと」
なんだ、コイツ見てたのか。めんどくせぇ。
「わたしの肩を貸してあげようか?」
ミクさんにもたれてしまったのを見ていた
のだろうか。うっとおしく肩をポンポンと
しているが、軽く受け流す。咲良め。
はいはい、と適当に返事していたらぐいっと
引っ張られて、からだごと持っていかれた。
「な、なにしてんだよ!」
「これくらいどうってことないでしょ」
電車の揺らぎに合わせて受け身でも取るか
のように引き寄せられた。
そして、今のおれはなぜか『膝枕』をされた
状態になっている。
恥ずかしいので今すぐ起き上がろうとする
おれをホールドしてきやがる。
なんてことを…
羞恥心に苛まれているおれをあざ笑うかの
ように、今の状況を楽しんでいる。
咲良…、コイツはなぜ朝からこんなハイな
テンションで動けるんだ。
低血圧が、とか無縁の生活なのか。
目の前の席の老夫婦がまぁまぁ、と。
ひそひそ言っているのが聴こえる。
「あほか、おまえ。やめい。」
「充電よ、充電」
「何の充電じゃ。何の足しにもならん」
「ひどい。聞きました?おじいさん」
なんで老夫婦に語りかける、おのれ。
「わたしの初めての膝枕を奪っておいて、
まだまだ満足できないですって」
また、人聞きの悪いことをほざいている。
「そんなに美少女の肩に寄りかかれるのが
良かったんでしょうかね。よだれたらして」
おれ、よだれ垂らして寝てたの??
ちょっと気になって確認する。
「お似合いのカップルさんじゃの。」
おじいさんがほほほと、高笑いしながら
言うので、なんとか否定しておかないと。
「はい!そうなんです。甘えん坊で困ります」
おれの前に勝手に肯定したような発言を
代弁するが、事実とは異なることをでっち
あげるのはやめてほしい。
老夫婦は微笑ましく見ているが、そろそろ
電車を降りる頃あいだ。
「降りるぞ、さっさと離せ」
「はいはーい」
おじいさんたちは手を振りながら降りる
おれたちを見送ってくれた。
ぜんぜん違うから、間違ったままお別れ
となったのは非常に残念だ。




