清楚系?
【美空の決意】
ファーストフード店での出来事。
あのあと帰って夢にまで見たあの一連のシーン。
焼き付いて離れない。悪夢。
やってやる。わたしも負けない。
芸能人だかどこの馬の骨だか知らないが、
相手として不足なし。今日まで磨いてきた
女子力をここで活かさない手はない。
あの後、朱莉の話でさらにあの女子の情報が
浮き彫りになってきた。どうやらなっちゃん
と同じ学校、芸能科に通っているようだ。
確かにあの制服は同じ学校のものだった。
わたしも学校選びで迷っていたため、制服
も色々見ていたので知っている。
まさか、同じ学校にいるとは…
ここに来てお嬢さま路線のこの学園を選んで
しまったことを後悔する。
家が近いことや朝からいっしょに行動(通学)
できることを考えると、アドバンテージは
わたしにある、はず。
しばらくは距離を縮める努力を続けよう。
相手の情報をインプット。
名前は『小日向 咲良』、
女優志望。
歌がうまいらしい。わたしも負けていられない。
最近、少しずつ仕事が増えてきているようだ。
そのため、なっちゃんと会える時間は減る。
これはわたしにとってはプラス。
どういう関係で、あんなに距離が近いのか、
それはわからない。
なっちゃんに一度聞いてみようかな…
それは悪手か。なんと言われるだろう。
思わぬ言葉が出てきてショックを受ける、
そんなことにはなりたくない。
怖くて聞けないかも。
今は不安しかないが、それでもわからない
なりに一定の距離を測りつつ、相手の出方
を伺うことにする。
とにかく、こっちは積極的にいかないと。
あんな男たらしな甘えた声ですりよるなんて、
なっちゃんをたぶらかしているとしか思えない。
守らなければ…そう固く決心した。
【夏樹の憂鬱】
あー、もう調子が狂う。
咲良が来るといつも変だ。
なんていうか全部持っていかれるような…
ペースが乱される。
無視していても勝手に展開して自分の世界に
相手を引き込む力を持っているから、これが
またたちが悪い。
にしても、マジで公衆の面前であんなことを
するのやめて欲しい。
まがりなりにも芸能活動をしてるんだから。
こんなとこ見られたら将来に影響するかも
しれないし、もう少し慎重に行動して欲しい
ものだとため息をつく。
アイツの足を引っ張りたくない。
せっかくわざわざ自分の将来のために決心して、
引っ越してまで出てきたんだから、応援をしたい。
そう思ってはいる。
アイツは昔は泣き虫だった。
それが今では公衆の面前で歌を歌ったり、
ライブまでやっている。
一度、応援で観に行ったことはあるが、
本当に頑張っていた。
だからこそだ。邪魔はしたくないし、
何か出来ることがあるのなら、本当の
意味でアイツの力になってやりたい。
咲良は両親がいない。
あとで聞いたのだが、交通事故だったらしい。
そのことですべてを失った。
あの頃、悲しみに打ちひしがれていた場面に
偶然おれは遭遇した。
当時、うまく励ますことなんて出来なかった。
小さくてまだそんな気遣いもできないし、
隣にいて気にかけるくらいしかできなくて…
けど、そこからなんとなくいっしょに過ごす
ことが増えたかな。
幼馴染の腐れ縁ってとこだろうか。
咲良は、いつもサッカーをしているところを
見てくれていた。精一杯応援もしてくれる。
そのせいもあってか、微妙なコンディション
も見分けられるようだ。ある意味、怖いが…。
おれが独り暮らしをはじめると伝えた時、
それならいっしょに住むとうるさかったが、
なんとか説得して断念させた。
なんで同棲しなきゃいけないんだよ。
シェアハウス?いやいや、普通にしねーし。
なんだかんだで、さもいっしょに住むことが
当然のように、丸め込もうとする咲良に、
おれのおひとり様ライフが夢の淡と消える、
そんな風前の灯火となっていたが、事務所
の契約の関係もあり、指定のマンションに
引き取られていった…
ありがとう、事務所さま。合掌。
まぁ、共働きとはいえ、ひとりで過ごすのは
経験済みではあるものの、『自分だけの家』
みたいな響きに少し憧れを抱いたことは確か。
だから、念願の新生活がはじまり、サッカーや
バイトでもして色んな経験が出来ればといいな
と思う。
だが、うちは校則でバイト禁止である。
しかし、例外はあっておれのようなおひとり様
は許されるルールがある。
それを活用して人生を謳歌するのだ。
カフェ店員なんかいいよなぁ。
ミクさんにバイトを紹介なんて考えていたけど、
それは男だと思っていた時の話。
どうしたものか…。
牛丼チェーン店のバイトを想像してみる。
牛丼は食べてる方がしあわせだな。
あ、某ハンバーガー店はどうだろう。
まかないで食べれないだろうか。
まてよ、ハンバーガー店とかだと咲良が
来てムチャクチャからまれそうだな…
…。うん、なしで。
どう考えてもからまれてカスハラにあう
未来しか想像できない。
奥でキッチンとかの方がよさそうだ。
独り暮らしだってのに、ごはん作れない
じゃ何か冴えないし、そのへんプラスに
なるバイトならいいんだけどなぁ。
カフェのホールでもまかない飯とかが
もらえそうだし、そういう系でもいい。
ファミレスとかでもいいんだけど、
なんかいいとこないかなぁ。
時間はあるし、じっくりさがすか。
ぼーっとネットを見ていると、画面には
某アイドルグループの新曲が流れていた。
以前、咲良にふとした瞬間に聞かれたこと
がある。もし彼女にするならどの子がいい
かって。グループの中にはいろんなタイプ
がいたのだが、なんか似たような顔の子
ばかりだなと思ったり…
ギャルって感じは耐性がないので、困る。
「どちらかというと清楚系かな?」
と、ぼそっと言ってしまったのを聞いて
いたのか、なにやらぶつぶつ言っていた。
「やっぱりそっちか…」
とかなんとか。あーし、とかグイグイと
激しく絡まれるのは嫌だし、落ち着きは
欲しい。咲良はどっちというわけでも
ないが、事務所的には清楚系で売って
いきたいようだ。
まぁ、ギャル路線とか自分の思いを
無視されて違う方向に無理やり話を
進められるとよくないと思うが、
咲良は自然体でいることがいちばん
魅力が引き立つ。のびのびやれて、
いろんな刺激を受けつつ、成長して
いってくれたらとあたたかく見守る
つもりではいる。
正直、芸能界とか無縁の世界だから
心配はしているが、アイツのこと
だからうまくやっていくだろう。
もしかしたら、こうしてメディア
の画面で拝める日がくるかもな…
サイリウム振るとか、ちょっと
嫌だけどやってみたいとも思って
いるから、アイツのためならいい
かもしれない。
そんなことを思いながら、寝落ち
してしまっていた。




