伏兵?
放課後のひと幕。
今日はバイトに入らなくてよくなったので、
朱莉といっしょに放課後デート。
この間から気になっていた新作バーガーを
食べたいと言う朱莉に、仕方なく付き合う
ことにした。
朱莉は何かしら新作を見つけてはわたしに
「見てみてー!」と教えてくれる。
なので、わたしが調べた努力の結果ではなく、
気付いたら頭の中の情報がアップデートされて
いるといった具合だ。
このハンバーガー屋さんはよく来る。
なんとなく気に入っているし、たまにテスト
勉強の時は使ったりしている。
集中出来るのでその点では重宝している。
「なんか、クラスの子たちお嬢って感じ」
それはなんとなくわかっていたが、この学園
にはどうもカーストのようなものが存在して
いるのかもしれない。
内部進学組では、明らかに取り巻きのような
振る舞いが見てとれた。
わたしたち外部からきた人間は、今後の学内
での関わり方ひとつで面倒なことになる、
そんな可能性も否定はできない。
「でもまぁ、うちのクラスはいい感じっぽいよ?」
まぁ、少し不穏な空気も感じなくはないが、
なんとなくやっていけそうだ、そう思っている。
「だけど、クラス離れたのは悲しいよぅ」
そう言って朱莉は甘えようと抱きついてくる。
スキンシップは毎度のことだが、少々しつこい
のがたまに傷だ。男女がイチャイチャするなら
まだしも、百合じゃないんだから控えてほしい。
そうこう言っていると、前の方でなんか女子が
ウザがらみしようとしているではないか。
かわいそうに。でも相手は男子のようだ。
「なっちゃん~♡」
「??」今、なっちゃんて言った?言ったよね。
女子が向かっていったその先には、なんと
ホンモノのなっちゃんがいた。なんで!?
ってか、アンタだれよ!
その女は親しげになっちゃんに話しかけて、
ボディタッチまで頻繁に繰り返している。
わたしだってまだそこまでしてないのに…
悔しがっていると、その女子がまた勢いづき、
なっちゃんをいじりはじめた。
口をふにふに両手でしている。
「……。」
立ち上がろうとして、朱莉に止められた。
「どうどう」
なだめられた。この様子を黙ってみていろと?
耐え難きにこの所業を見守れと言うのか親友よ。
そうこうしていると、その女子の許しがたき
行動を目の当たりにする。
「!!!?」
なんと、なっちゃんの飲みかけであろうジュース
のストローに口をつけ、チューチュー吸い出した
ではないか…。
わなわなと震えるわたしの手を朱莉はつかみ、
落ち着くようにジェスチャーを送る。
深呼吸を数回繰り返すわたし…
スーハー、スーハー、スーハー。
……。落ち着けなかった。
許すまじ、あの女子。
なにものぞ。ただではすまさん。
なんとか正気を保とうとするわたしに、
更なる悲劇が襲う。
なんと、なっちゃんにもたれかかり挙げ句の
果てに肩に頭をもたげたではないか。
「怒り心頭に発す」そんな言葉が頭をよぎり、
動きだそうとしたのをまた親友が止める。
「止めるな、友よ…。行かせてくれ」
これを野放しにしてはまずい。
今こそ裁きを、正義の鉄槌を下すのだ。
「もう少し様子を探ってみては??」
慎重になるよう、促してくる親友。
当事者ではないと心の持ちようも違うはず。
冷静になれるかは別として、もう少し様子を
見ることに決める。
歯ぎしりして血の滲む苦しみに耐えながら、
心を落ち着かせる。
孫子の兵法にもある。
「敵を知り己を知れば百戦あやうからず」
考えろ、考えろ、考えろ!
まず、あの女が何者かを把握するのだ。
頭の中のCPUがフルスロットルで回り始める。
この女は敵だ!本能がそう告げている。
まず、顔。なにこのメス顔。どこかの女優
みたいなきれいな顔立ち…。まさか彼女!?
いや、なっちゃんに限ってそんなだらしない
ことはしない、はず。
甘えたような声で迫りやがって腹立たしい…
何かのプレイ?いや、羞恥プレイかも!
罰ゲームで、とか。たまにラノベでもそんなの
見た気がする。そう、なのかな?
「待って、あの顔見たことある」
隣でなんとかわたしを踏みとどまらせていた
朱莉さんがふと思い出したように話す。
「ちょっと待ってて。もう少しで思い出せそう」
何のことだろう…朱莉の知り合い?
いや、そんなことはないよね?もしそうなら
わたしを焦らすためのドッキリとか。
そんな手の込んだイタズラはしない子だ、
そう信じているが。
考える仕草で必死にわたしを止めながらも、
一生懸命に思い出そうとする親友。
さながら伏兵でおとりを誘い込み、逆賊を
仕留める構図のようだが、親友はわたしを
離してはくれない。
そうこうしているうちに、向こうの戦局にも
動きが!!脇腹をツンツンし始めた。
あれ、わたしもやりたいやつ…
わたしの抱く欲望をことごとくやり尽くす
あの女…、一体何者だ。
親友の解析はまだ終わらない。遅いっ!
このままでは敗北必至…
そう覚悟を決めようとした矢先、親友が
「あっ!!」と叫んだ。
「ポテトのクーポン使うの忘れてた」
どうやら地獄に落ちたいようだね。
今までありがとう。きみの命運もここで
尽きたようだ。ニコリと親友の顔を見た。
「じょうだんだよぅ~、顔がこわいよ」
「言い残す言葉は?」
「思い出したよ、あの子」
「今年の注目のデビュータレントの記事で見た」
「芸能人、だと…」
なぜ、そんな子がなっちゃんに近づいている。
疑念は尽きないが、しばらく様子を伺う。
とうとうなっちゃんに我慢の限界が来たようだ。
なにやら文句を言っている。
仲良しなの?仲悪いの?どっち?
ここからじゃ、少し離れてるからわからない。
ひと悶着あったようだけど、ようやく女の子は
自分の席に戻っていった。笑顔を振りまいている。
その女子がいる席を見つめ、しばらくフリーズ。
まさかの伏兵に戸惑っているのはわたしの方。
これは戦略の立て直しが必要なようだ。
ひいき目でみても、なっちゃんがモテるであろう
ことは知っている。いや、認識している。
サッカーで応援に行っていた時も、隣にいる子ら
が背番号で彼かっこいいよね、って話していたの
を聞いているので、油断はしていない。
ただ、記憶をたどってみると、確か片隅に応援席
で叫んでいた女の子を思い出した。
あれは中学の最後の大会。ヒートアップしていた
ので、偶然のことかとスルーしていたが…
思い起こしてみるとあの女の子と一致する。
容姿端麗、背格好もあの時の子のように思える。
「あの時の女か…」
実は少し気になっていた。
声援の中でも特に力が入っていたからだ。
普通の関係ならそこまで特定の人間をあんなに
必死に応援したりしない、はず。
それであれば合点がいく。
あれはライバル(敵)だ。
わたしの本能がそうささやいている。
隣でわたしをなだめる親友を横目に、わたしの
脳内は激しく次の作戦に向けて考えを巡らして
いたのであった。




