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クリストファー・リー・カイゼルベルグと書庫の秘密  作者: 青山 高峰
第三章

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召使を探せ!

 クロエ伯母(おば)の顔面が蒼白になって(たお)れかけた。レオン伯父(おじ)咄嗟(とっさ)に支える。


「クリス、一体何事だ?」


 レオン伯父(おじ)がクロエ伯母(おば)を抱きかかえながら、片手で左耳のタイガーアイのピアスをいじった。瞬間(しゅんかん)、白い魔法陣(まほうじん)が飛び出し、まるで毛布のようにクロエ伯母(おば)の身体にかかった。クロエ伯母(おば)はその魔法陣(まほうじん)の毛布にくるまれるように寝息(ねいき)を立てはじめた。


「妹には悪いが、ちょっとこのまま眠らせとく。息子のことになると正気(しょうき)じゃいられない(たち)だからね。それで、何があったか話してくれるかい、クリス」


レオン伯父(おじ)にピクニックの話を聞かせた。もちろん書庫(しょこ)侵入(しんにゅう)者がいたことやマリーの愛犬ロルの話は(のぞ)いた。


「なるほど」


 レオン伯父(おじ)は聞き終えると、安心したように大きく(うなづ)いた。


「父親に急用(きゅうよう)ができたにせよ、予定通(よていどお)りピクニックに出かけたのさ。オリビエはちょっと強引(ごういん)なところがあるからね」


 確かにオリビエが強引(ごういん)だってことに異論(いろん)はない。


「おおかた運転しているのは召使(めしつかい)の誰かってとこだろう」


「本当にそうでしょうか」


「でなきゃ、ルドルフの愛車を運転できるわけがない」


「確かにそうですが……」


「クリス、何か気になることでも?」


 レオン伯父(おじ)の探るような眼に(あわ)てて目を()らす。


「気になるのは、母親のローズ伯母(おば)一緒(いっしょ)じゃないことです」


「ローズは朝に弱い。その上、自然の中でピクニックするより高級(こうきゅう)ブティックやホテルのラウンジの方が好きなタイプだ」


 レオン伯父(おじ)が肩をすくめた。ローズ伯母(おば)は、もともとピクニックなど出かける気はなかったと言いたいのだ。


「まあ夜のパーティーまでにはみんな(もど)ってくるだろ。我が一族(いちぞく)に仕える召使(めいしつかい)一緒(いっしょ)なんだ。そこは()かりないはずだ。さあクロエ、もう起きろ。お前の息子は(はら)()れば帰ってくるぞ」


 レオン伯父(おじ)快活(かいかつ)に言うと、魔法陣(まほうじん)()いて、クロエ伯母(おば)(かた)(たた)いた。


 レオン伯父(おじ)とクロエ伯母(おば)が言い合いながら行ってしまうと、もう一度メイド達の部屋(へや)に引き返した。レオン伯父(おじ)の言うように、「一日待てば帰ってくる」(たし)かにそうかもしれない。


しかしマリーが書庫(しょこ)になんらかの方法で入り、もしもあの復活(ふっかつ)魔術(まじゅつ)を目にしていたとしたら、悪い気を起こす前に、マリーを見つけ出す必要がある。それにはまず、マリー達の車を運転(うんてん)する“召使(めしつかい)”が(だれ)かを知るべきだ。


 メイド達の部屋の(とびら)(たた)くと、さっきのメイドがすぐ飛んできた。とびっきりの笑顔(えがお)で口を開く。 


「よかったまた会えて」 


 メイドが顔を赤らめた。もじもじしながら、上目遣(うわめづか)いで見つめてくる。 


「何かお(わす)れ物でも?」


(きみ)名前(なまえ)


 メイドの顔がますます赤くなる。


(きみ)名前(なまえ)を聞くのを(わす)れたんだ」


「ジュリア。ジュリアって言います」


「ジュリアか、うん、かわいい名前(なまえ)だ。ジュリア、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


「どんなことでしょうか」

 ジュリアの(いき)が少し(あら)くなる。

「なんでも聞いてください」


「マリー達と今日出かけた人を知っている? (おそ)らくルドルフ伯父(おじ)から車を運転(うんてん)するよう(たの)まれて、ピクニックに()れて行っているはずなんだけど」


 ジュリアは首を(かし)げ、()いで背後(はいご)の部屋を振り返った。


「ねえ、みんな。マリーお嬢様(じょうさま)たちと一緒(いっしょ)にピクニックに出かけたのが(だれ)なのか知っている?」


 おしゃべりが止んだ。背後(はいご)にいるメイドや召使(めしつかい)たちは顔を合わせるばかりだ。ジュリアがすまなさそうにこちらに向き直った。


「クリス(さま)(もう)(わけ)ございません。みんな知らないみたいです」


 ルドルフ伯父(おじ)今朝(けさ)昨夜(さくや)かもしれないけど)ここへ来て(あるいは電話(でんわ)して)運転を(たの)んだはずだ。それを(だれ)も知らないなんて、そんなことあるだろうか。落ち着かない心を(しず)めるように、わざとなんでもないように微笑(ほほえ)む。


「じゃあ悪いんだけどジュリア、確認(かくにん)してほしいことがある。今日休みの人間も含めて全員(ぜんいん)がいるかどうか。それで、今日(きょう)この城で(はたら)いているはずなのに城の中で見当たらない人と、休暇(きゅうか)連絡(れんらく)が取れない人がいたら、それが(だれ)(おし)えてほしい」


「かしこまりました」

 ジュリアがうれしそうに微笑(ほほえ)んでいる。


 マリー(たち)を連れ出している“召使(めしつかい)”を()き止めるのは、とりあえずこれでいいとして、あとは3人がピクニックに出かけた行き先だ。図書室(としょしつ)に向かおうと、()を向けた途端(とたん)足元(あしもと)がすくわれるような感覚(かんかく)がした。そう言えば朝から何も食べていない。このままだと(たお)れてしまいそうだ。ジュリアの方を()(かえ)る。


「それからジュリア。朝食を、軽くでいいから俺の部屋(へや)(はこ)んでくれる?」


「もちろんです」

 ジュリアがとびっきりの笑顔(えがお)(うなづ)いた。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 軽くと(たの)んだはずなのに、ジュリアが運んできた朝食は豪勢(ごうせい)だった。


サラダにオムレツ、ソーセージとベーコンのソテー、クロワッサン、ヨーグルト、フレッシュオレンジジュースにグリーンスムージーにミルクティー、メロンとスイカにパウンドケーキが1(きれ)ずつ。見ているだけで食欲(しょくよく)()せていく。食べ始めたが、やはり食欲(しょくよく)はない。クロワッサンとオムレツを半分(はんぶん)ずつ、ミルクティーで(なが)しこむ。それで限界(げんかい)だが、ずいぶんとシャンとしてきた。


 バラの図書室(としょしつ)(もど)ると、手近(てじか)にあった『地形(ちけい)伝承(でんしょう)』という大型本(おおがたぼん)を取り出し、フランスの地図(ちず)()ったページを広げる。


 今朝(けさ)早く、(かり)に4時に出かけたとして……ポケットから懐中時計(かいちゅうどけい)を取り出す。今、朝の10時30分。すでに6時間以上は()っているとみていい。プジョーのリフター、あの映像(えいぞう)で見たのは最新型(さいしんがた)だから。その最高速度(さいこうそくど)を考えあわせると、この(しろ)の近く、ロワール・アンジュー・トゥーレーヌ自然公園(しぜんこうえん)ではない。


ロワール・アンジュー・トゥーレーヌ自然公園(しぜんこうえん)であれば、とっくに着いているはずだ。


約40分前、クロエ伯母(おば)が見せてくれた映像(えいぞう)でも車を走らせていたとなると……あのまま走り続ければ、ベルギーやルクセンブルク、スペインまで行けてしまう……。


 ああ、こんな広範囲(こうはんい)じゃ、行き先を(しぼ)ることなんて不可能(ふかのう)だ。フランスの国境境(こっきょうざかい)まで行けてしまうんだから! 


ふいにスペインとの国境境(こっきょうざかい)、ピレネー=アトランティック県に、アニ(みね)というのが目についた。


 アニというのはマリーが好きな映画(えいが)()名前(なまえ)だ。もっともこっちのアニ(みね)のアニの(つづ)りにはnが一つ(すく)ないけど。その文字を(ゆび)でなぞって、アニ(みね)の下にバスク神話(しんわ)(666ページ)と書かれているのが目を引いた。 (みね)神話(しんわ)ってどういうことだろう? 急いでページを開いた。


「アニ(みね)(いただき)には不死(ふし)果実(かじつ)(みの)らせる()、エデンの(その)()えいでし生命(せいめい)()より()けられた樹々(きぎ)()えている。その果樹園(かじゅえん)、今は封印(ふういん)されている(ゆえ)一般人(いっぱんじん)には見えぬもの(なり)果樹(かじゅ)必要(ひつよう)(もの)は必ず満月(まんげつ)の日に……」


 果樹園(かじゅえん)のアクセス方法(ほうほう)詳細(しょうさい)に書かれている。心臓(しんぞう)がドキドキする。


注意(ちゅうい)すべきことは……」と書かれたページを(ふる)える手でめくり、血の気が引いた。数ページ分、切り取られたあとがある。いつ切り取られたのか分からないが、まさか、この不死(ふし)果実(かじつ)()るために、アニ(みね)に向かったんじゃないだろうな。


 その時、スマホが(はな)やかな音を立ててなった。


 電話(でんわ)はジュリアからだった。


「お探しの人はいないようです」


 一瞬(いっしゅん)何を言われたのか分からなかった。


ジュリア(いわ)く、今日城で(はたら)いている人間も非番(ひばん)の人間も全員(ぜんいん)とコンタクトが取れたと言うのだ。つまり、マリー達3人を()れ出したのは家で(はたら)く者ではない、ということだ。つまり完全(かんぜん)外部(がいぶ)の人間!


「ありがとう、助かったよ」


 力なく言って電話を切ると、その場に座り込んだ。無駄(むだ)と分かっても、マリーのスマホに電話をかける。


 1コール、2コール、3コール。


留守番電話(るすばんでんわ)サービスに接続(せつぞく)します」


 無機質(むきしつ)電子音声(でんしおんせい)が流れはじめ、スマホを置いた。


 クロエ伯母(おば)がグザビエに電話をかけた時のことを思いだした。これでは、クロエ伯母(おば)半狂乱(はんきょうらん)になるのも分かる。なにしろ(だれ)が連れ出したのか分からない上に、行き先が(あや)しく連絡(れんらく)もつかないのだから。そう思って、はっとした。


あのクロエ伯母(おば)の青色の目の(おく)には心配(しんぱい)よりも明らかな恐怖(きょうふ)があった。もしかしたらクロエ伯母(おば)はこのことを、不死(ふし)果実(かじつ)()るために、アニ(みね)に向かった知っていたんじゃないだろうか? だからあそこまで動揺(どうよう)したのだとしたら? 


(あわ)てて部屋を飛び出した。

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