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クリストファー・リー・カイゼルベルグと書庫の秘密  作者: 青山 高峰
第二章

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4/5

朝の4時、ロワールに座す

夏休みの一日は、魔術(まじゅつ)に始まり、魔術(まじゅつ)に終わる。それは日曜日とて変わらない。


マダム・リーは毎朝4時に(あらわ)れる。

例によって、きちんとした身なりで、ドアを三度(たた)き、部屋(へや)にふわりと入ってくる。毎晩(まいばん)1時までパーティーをしているのに、そんなことをみじんも感じさせない。


ベッドから()()き、マダム・リーの顔を見ただけで、言いたいことを(さと)った。


「すみません」

 いきなり(あやま)った。


「なぜ(あやま)る?」

 マダム・リーがその()を光らせた。


昨夜(さくや)(ねむ)るのが(おそ)くなって、まだ身支度(みじたく)ができていないからです。でも30(びょう)ください。30(びょう)支度(したく)します」


 マダム・リーがベッドを見つめている。その(ひとみ)の中に魔法陣(まほうじん)()かぶのが見え、(おどろ)いた。


「おばあさま?」


「だとしても」

 マダム・リーがピシャリと言った。


「どんな(とき)でも(むね)()れ」


「はっ、はい」

 マダム・リーが左の人差(ひとさ)(ゆび)を上に()け、何個(なんこ)(えん)(えが)いた。その途端(とたん)、あっという間に洗髪(せんぱつ)&スタイリングされ、()(みが)かれ、(かお)(あら)われる。全身(ぜんしん)をシャワー(あと)爽快感(そうかいかん)()()けたと思ったら、もうパジャマが、開襟(かいきん)シャツと黒いズボンに()わっている。


「これなら30(びょう)とかからない」


 マダム・リーの言葉(ことば)(うなず)く。


(すで)にマダム・リーの(ゆび)(うご)きも、(えが)いた魔法陣(まほうじん)(あたま)の中に入った。


この点は、どんなに寝起(ねお)きだろうと寝不足(ねぶそく)だろうと何だろうと魔術(まじゅつ)(おぼ)えるとなると、いささかの(みだ)れもなく(あたま)回転(かいてん)する。しっかり(おぼ)えてしまった。


この(おぼ)えたことが、そのまま使えればどんなにいいだろう……でも今の魔法陣(まほうじん)(えが)くのにさほど(むずか)しいものではない。もしかしたら、奇跡的(きせきてき)にできるかもしれない。そもそも、マダム・リーの(ふく)のチョイスは(かた)くるしい。ジーンズにTシャツに着替(きが)えたい。(ゆび)(うご)かそうとした(とき)だった。


「クリス、お前が犯人(はんにん)ではないことは分かった」

 マダム・リーの声が(ひく)く、冷酷(れいこく)(ひび)いた。


犯人(はんにん)って何の話ですか?」


昨夜(さくや)書庫(しょこ)に入った人間がいる」


「えっ!」

 咄嗟(とっさ)にマリーの(かお)()かんだ。


心当(こころあ)たりがあるようだな」


「何のことでしょう?」

 とぼけようとしたが、もう(おそ)かった。マダム・リーに(すで)()まれている。思わずマダム・リーの左手の薬指を見た。拘束具(こうそくぐ)指輪(ゆびわ)がはまっている。それなのにどうして心が読めるんだ? もっともそんなことは(こわ)くて聞けない。



「マリーに(おし)えたのか?」


 これは、バラの図書室(としょしつ)(おく)にある秘密(ひみつ)書庫(しょこ)のことだ。リー一族(いちぞく)(まも)禁忌(きんき)に近い魔術(まじゅつ)があるほか、最大(さいだい)使命(しめい)に関わるものがある。


そのため書庫(しょこ)へアクセスできるのはリー一族(いちぞく)当主(とうしゅ)マダム・リーと(まご)である俺クリストファー、そして3賢人(けんじん)()ばれている従伯父(いとこおじ)レオンとルドルフそして従伯母(いとこおば)のクロエしかいない。


とはいえ3賢人(けんじん)といえど、通常時(つうじょう)、アクセスは(きん)じられている。マダム・リーからの要請(ようせい)があり、かつマダム・リーと一緒(いっしょ)に、でなければ入っってはいけない。つまり許可(きょか)なく出入(でい)りできるのはマダム・リーと(まご)の俺しかいない。いくらマリーでも、あんな大切(たいせつ)なところに入れるわけがない。


「なるほどお前が(おし)えたのではないのか」

 マダム・リーがひとり(うなず)いた。


「マリーに直接(ちょくせつ)()くとするか」


 ぼそりと(おそ)ろしい言葉(ことば)をはいた。昨日(きのう)のマリーの様子(ようす)(かんが)えれば、マダム・リーの尋問(じんもん)(たお)れかねない。


()ってください。まだマリーと()まったわけではないのですよね」


昨日(きのう)午後(ごご)(しの)()んだ」


 だから夜も(しの)()んだと言っているのだ。(たし)かにマリーは可愛(かわい)い顔して、結構(けっこう)大胆(だいたん)だ。夜中に(しの)()むなんて普通(ふつう)は考えないが、マリーは分からない。動揺(どうよう)する心を(しず)めるよう、ゆっくりと呼吸(こきゅう)をする。


書庫内(しょこない)(ぬす)まれたものがあるのですか」


「いや。しかしあそこは秘密(ひみつ)書庫(しょこ)だ。入ること自体(じたい)(ゆる)されない。たとえ偶然(ぐうぜん)だとしても」


 偶然(ぐうぜん)! いいことを教えてもらった。


偶然(ぐうぜん)に入れる場所(ばしょ)ではないですよね。マリーは書庫(しょこ)(とびら)開錠(かいじょう)できないはずです」


「3賢人(けんじん)の一人、ルドルフはあの子の父親(ちちおや)だ。開錠(かいじょう)できる」


「でもルドルフさんが教えるとは思えません」


「ルドルフは真面目(まじめ)(おとこ)だが、(むすめ)溺愛(できあい)している」


「だからこそ、愛しているからこそ教えるとは思えません。そんなことしたら、おばあさまがマリーを(ゆる)さなくなるじゃないですか」


 マダム・リーが(かわ)いた(わら)(ごえ)をたてた。


「なるほど。なあクリス、では犯人(はんにん)(だれ)だと言うのだ」


「それは……物取(ものと)りではありません」


「そんなことは分かっている。やはりマリーに聞く」

 マダム・リーが(きびす)(かえ)した。


()ってください」

 マダム・リーの(うで)(つか)んだ。マダム・リーは()(かえ)り、()ややかな青い(ひとみ)(ほそ)めた。


「犯人は俺が見つけます。だから」


「マリーを尋問(じんもん)するなと?」


「はい、マリーは犯人(はんにん)じゃありませんから」


 マダム・リーは考えるように()(だま)っていたが、やがて


「3日だ」


 (しぼ)り出すように言った。


「この件、3日で犯人(はんにん)を見つけること。再発(さいはつ)(ふせ)ぎ、上手(うま)(しょ)せれば今回の件は不問(ふもん)()してやる。それからもう一つ、解決(かいけつ)まで魔術(まじゅつ)授業(じゅぎょう)はなしとする」


「わかりました」


 (ふる)える足を(さと)られないよう(ひざ)()り、マダム・リーへ(あたま)を下げた。

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