九十四話 女神と女王
少々の会話を続けていた私は、なんとも言えないその空気を変えようとカーラに城の中を案内してほしいと頼んだ。カーラはそれを快く受けてくれたけど、未だ私との間には気まずい空気が流れている。
「ここは私のお気に入りの場所。眺めが良くて遠くまでよく見渡せるの」
「へえ………確かに」
いくつかの部屋や広間を周り、その後にお気に入りの場所があるとカーラに連れてこられたこの場所は、城の上部付近にあるそこそこ広いベランダだった。
ここはカーラの言うとおり眺めがよく、目を凝らせば遠くで浮遊する霊体たちが見える。しかしお気に入りと言う割には寂しげで、初めは絶景のように思えたここもしばらくすれば飽きてしまうだろうと、私はそう思った。
気づかれないように横目でカーラの顔を見るととても和らいだ表情をしている。きっと長い間この城にいて、お気に入りと言うくらいだから何度もこの景色を見てきたのだろう。それなのにここの何が気にっているのだろうか。
「……カーラは」
「うん?」
「………いや、なんでも」
何かを聞こうとした。きっとカーラに同情するような言葉を期待して。けれど私の心の隅には彼女がエレノアの感情を変えたという、完全には許しきれない行為の断片があった。
それはカーラの身勝手で、エレノアの心を無視したものだった。しかし、だからと言って悪意とも、善意とも思っていないその行動を恨むべきなのかは悩んでいる。
カーラの和らいだ表情は私の言葉を聞いて、少しだけそこに影を落とした。自分の行動に罪悪感があり、それで反省しているのだろうか。少なとも先程の涙を浮かべた表情は演技とは思えなかった。だから反省していると思うし、そうであってほしい。
「それじゃあ、次に行きましょうか」
そうやって別の場所へ案内しようとするカーラに私は着いていった。
その後ろ姿は確かに反省しているようには見える。けれど私はそれでも、カーラが行った行為に相当する罰があっても良いのではと思った。
(いやいやダメだ………)
変なことを考えるなと私は首を横に振った。これではまるでオルドムのようだと考えて。
オルドムは悪行を裁くと言っていた。それを私は否定したのにも関わらず、カーラにそんなことをしてはオルドムと同じになってしまう。私はそんなことをする傲慢な人間にはなりたくない。
「ここが最後よ」
そう言って最後に案内された場所は、他より少し高い位置に二つの玉座がある部屋だった。
「ここは………?」
「特に言うべきことはないのだけど………座ってみてくれないかしら?」
「……え?」
私はカーラに促されるままに向かって右の玉座に腰を下ろした。
そこから見えるのはただの壁で、カーラの言うとおり特に語るところもなかった。
「………ふふ」
するとカーラも私の横に座り、こちらを向いて微笑みかけた。
けれどふと先程のことを思い出したのかスッと目を逸らし、少し俯くように視線を下に向けた。
考えてみればカーラ自身長い間寂しい思いをしていたのかもしれない。彼女を救ったディアという女性も随分前に亡くなっていたようだし。それならば、そんなカーラが望みを叶えようとするのは当然の感情だ。
アンナの時もそうだったけれど、望みを叶えようとすることは悪なのだろうか。いや、それをするためには悪行をしなければならないのかと言った方が正しいだろうか。
「…………カーラ、私はその……そんなに落ち込まなくても、もう怒っていないから」
「そう、ね…………ありがとう、ユウカ」
気分が沈んだままのカーラにかけるべき言葉はなんなのだろうか。怒ってはいないという言葉は正解だっただろうか。それとも許すと言えば良かっただろうか。けれど私はそうやってすぐに納得できるほど器の大きい人間ではない。
思えばエレノアのことも、アンナのことも、ソフィアだって、私は中途半端なままだ。異世界に来てできた仲間のことですら解決できないのは、単に決断するのが苦手なのか、それとも関係性が悪い方向にいってしまうのが怖いのだろうか。
そうやって考えているとしばらくの沈黙が続いて余計に空気が悪くなっていた。
「え、えっと…………そうだ! さっき後で話すと言ったことって、なんだったの? 確か、アンナの加護が………」
「え……? ああ、そうだったわね。これはユウカがなぜ私と同じ力を持っているのかということにも関わってくるのだけど……」
以前に聞いた話だとカーラの魔法は私と同じくスケルトンを召喚するもの。それは私自身なぜだろうと気になっていて、聞こうと思っていたことだ。しかしそれがどうすればアンナのことと繋がるのだろうか。
「まず、私が予知を見てユウカに会おうとしたことは話したわね」
「……あの、この世界に来る前の声?」
「ええ、そう。あの時私はユウカの魂を世界に招き入れることで召喚先の肉体へと宿らせないようにした。けれどそれは予知の通り失敗に終わってしまった。だからユウカがいずれ私の元まで辿り着くのを待つことにしたの。その間は何をしていたのかというと、声が届く時には囁きかけて助力したり、ユウカがオルドムの世界に行ってしまった時には奴へ間接的に言葉を伝えたりした」
それを聞いて森で囁きかける声や、なぜオルドムが急に攻撃をやめたのかの理由が分かった。と、同時にカーラの行為に対して複雑な思いを抱いた。
「ユウカはこういうふうに今まで生きてきたわよね。けれど疑問に思ったはず。なぜこのような力を持っているのかと」
「……なんで……?」
「ユウカを私の世界に招こうとしたあの時、ふとした瞬間に私はユウカの魂と接触してしまい、そしてその時に神の力の大部分がユウカに奪われたの。ああ、勿論故意でないことは分かっていたし、気にしていないわ。むしろ、私はあんな体験ができて興奮したし……!」
「へ、へえ………」
い、一体どんな体験だったのだろう。
それにしても、私の持っている力がカーラから奪ったものというのは驚きだ。しかし私の力がカーラと似ているというのはこれで納得だ。けれど、だとするとその力を奪われたカーラには影響がなかったのだろうか。
「カーラは……なんともないの?」
「ええ、私はなんとも。失ったのは神の力のみだから、王の力は未だ保有しているわ……。それでね、知っていると思うけれど神の力には自分だけの世界があって、そこに加護の繋がりがある魂を入れることができる。けれどその力を失ったあの時、私の世界にいた………数は分からないけれど沢山の魂がこの地に散らばってしまったわ」
「だからあんなにいっぱい……」
「散らばっていった魂には未だ私の加護がある。けれど世界の中にいないのではそれの維持も困難なの。だからアンナへの加護も弱くなってしまったわ」
それってつまりは私のせいなのだろうか。そうだとするのならどこか後ろめたい気もする。
「これが話の全てだけれど……ユウカ、ここからは個人的なお願いで、勿論気に入らないのなら聞かなくても良いことだけれど……」
「………いや、聞きたい」
「ありがとう…………飛び散った魂たちはその衝撃からか、皆一様に自我を無くし、私と、私の加護が与えられている魂以外を攻撃するようになってしまったわ。中には私に長く仕えてくれた子もいる………だからユウカにはその子たちを出来るだけ、救ってほしいの」
今回は文字数が少なくなってしまいました。
次回からは主に戦闘メインです。




