九十五話 鳥の突撃
私の世界の中にはエレノアや黒猫、ミノタウロスやゴブリンといった魂が複数入っている。それはかつてのカーラも同様で、自分の世界に数えきれないほどの魂がいた。
しかし、私の魂がカーラの魂と触れ合った瞬間、カーラの持っていた世界は私のものになった。その結果その中にいた魂はディアに満遍なく広がってしまった。
カーラはそれらの魂を救ってほしいと言い、私はそれを承諾した。
救いという言葉に違和感を感じなかったといえば嘘になるけれど、それでも困っている誰かがいるのに何もしないほど冷たくはない。傲慢と言われれば、そうなのかもしれないけれど。
行動に移すにあたって、私は一日をこの城で過ごしてカーラともう少し仲良くなろうと考えた。互いに気を使ってばかりでは居心地も悪いだろうし、今日は色々とあって精神的に疲労している。
しかしこれは間違いだったかもしれないと思う。カーラは意外と立ち直りも早く、夜眠るために用意された部屋に入る頃には随分と近い距離でいるようになっていた。
「そういえば……ユウカ、少し良いかしら?」
宙に浮いてうずくまる私にカーラは耳元で囁くように言った。
「戦闘に関してだけど、私は攻撃手段が無いから手伝えないわ。ごめんなさい」
「ああ、いや……少し不安だけど、頑張るよ」
考えてみればカーラの力を私は奪ったのだから、攻撃手段がなくなっているのは当然だ。残っている王の力は傷を癒したり、容姿を美しくしたりと私にはあまり関係のない力。しかしそういう点でいえば私も誰かの力を借りなければろくに戦えもしないだろう。
そうやって自分の持っている力について考えていた私は、もう眠ろうとカーラに「おやすみ」と言って目を閉じた。
朝早くなのか、それとも遅いのかは分からないけれど目が覚めた私は右半身に違和感を感じてそのほうをみた。
するとそこには私を強く抱き寄せ、いつの間にか脚を絡ませているカーラがいた。初めて会った時からそうだったけれど、カーラの距離感はどこかおかしい。他の、救ってほしいと言われたその魂たちともこういう関係だったのだろうかと考えてしまう。
しかし、そんなことよりもと私は気持ちよさそうに寝ているカーラを揺すって起こした。昨日は一緒にいてだいぶ距離は近づいたと思っていたけれど、流石にここまで近過ぎると抵抗感を覚える。
「う、ううん…………あ、おはようユウカ」
「お、おはよう…………」
基本的に霊体には服がいらない。それは霊体を造る時に服は自分で好きなようにできるからだ。しかしなぜかカーラが寝る時の服装は質素で、どこからどう見ても安っぽく見えるものだった。
けれどきっとそれが自分に最適だとか、そんな理由なのだろう。問題はそこではなく、その服の下には何もつけていないということだ。おかげで柔らかい感触が殆ど直に伝わる。別に女同士だからそこまで気にしてはないけれど、下着は着けないのだろうかと疑問に思う。
私の世界にいるエレノアも目を覚ますと、私はカーラとともに城を出て魂たちのいる場所に向かった。起きて早々だけれど、早く行動するに越したことはない。
昨日は攻撃をする前にあの素早い鳥が突進っしてきたので上手く戦えなかった。なので今日はできるだけ距離に警戒していなければならない。
そう考えているうちに段々と光が見えてきた。青白く、炎とはまた違った光り方をする魂の輝きだ。
それは見渡す限り満遍なくありどこが終わりなのか全く分からない状況で、今からこんなにも沢山の数を相手にするとなると大変そうだ。けれどいつかは終わるだろうと呑気に考えいる部分もあった。
「それじゃあまず初めにやることはあの魂全てに加護を与える。その後はあの子らと戦いユウカのものとなった世界に魂を引き込む……そうすればもう終わりよ」
「なんか,加護を与えるのが大変そうだね………」
「それは安心して。確かに加護は相手から欲することがない限り、こちらから与えなければいけないわ。けれど既に繋がっている私の加護を使えばすぐに与えることができる………だからユウカ、私の加護を使って」
カーラはそう言うと私の手をひき、自分の霊体の外側を透過させて内側の霊体に触れさせた。
「最初に私へ加護を与えて……そうしたら見えてくるはずよ」
加護とは上位の者が下位の者へ与える者だと聞いた。だとするとカーラは私よりも下だと言うことになる。プライドは高いようには思えないけれど、不快な思いをしないだろうか。
しかし、こういった上下とは一体どのことを指すのだろうか。あり得そうなのは魔力の強さだろうか。
魔力を集中してカーラに送り続ける私はそんなことを考えていた。そして言われた通り加護をカーラに与えた。
「見えたかしら?」
「……えっと………」
「魔眼を使うのよ」
「魔眼?」
私はその言葉に疑問を感じながらも魔眼に魔力を流した。するとカーラの魂付近から大量に伸びる加護の繋がりが見え、驚きとともに繋がりの行き先を目で追った。
「どう?」
「見えたけど………多い」
「ふふ。加護は与えられるかしら?」
カーラにそう言われてハッとした私はその加護へ魔力を流した。そうして加護が与えられている者の元へ辿り着けば、私の加護を与えられるだろうと考えて。
しばらくすると全ての繋がりへ魔力が行き渡り、加護も正常に与えられていた。
「これで、大丈夫かな………?」
「ええ、きちんと出来ているわ」
「それなら良かった………うん? あれは……」
上手く加護を与えることができて安心していると、遠くからこちらへ向かってくる霊体が一つ見えた。
「ユウカの魔力を感じて向かってきたようね。即座に気づいたのはあれだけのようだけど……ユウカ、準備は出来ているかしら?」
「うん、出来てるよ」
「それなら、頑張って」
カーラはそうやって耳元で囁くと、少し後ろに下がって私の邪魔にならないようにした。
私は素早く向かってくるその霊体が昨日攻撃された大きい鳥だと気づき、想定よりも早めの遭遇に警戒しながらエレノアの霊体を出した。造り出される時間はどの霊体よりも長いけれど、現時点では最強の攻撃手段だ。
魔力を霊体に送り、その小さな手のひらに青く光る火球を出させる。そして出来るだけ早く飛んでいくようにと勢いよく射出した。
飛んでいった火球は見ている限り外れることなく霊体の元へ飛んでいき、もうすぐで鳥の顔に命中すると言うところまできた。しかし鳥はそれを急降下することでかわすと、そのままどんどん下へ下がっていった。
私はその行動を見て、このまま地面に激突する気なのかと思った。けれど鳥は急降下していた状態から突然方向を斜め上へ変えると、私に目掛けて先程とは格段に上がった速度で突っ込んできた。
(大丈夫。このくらいなら………ノア、任せてもいい?)
(はい!)
私がエレノアにそう声を掛けたと同時に思考が加速した。そして遅くなっている鳥から離れ、後ろにいるカーラに近づいた私はそこでミノタウロスの霊体を出し、その中にすっぽりと収まった。
その間に鳥はすぐ目の前まで来ていて、もうミノタウロスの霊体に激突する直前だった。
思考加速を維持したまま鳥が激突するのを待ち、その後に攻撃できるようエレノアの霊体に魔力を送る。エレノアに思考加速をするようお願いしたのは、私がそれと霊体の操作を同時に行える気がしなかったからだ。
そしてついに鳥がミノタウロスの胸あたりに激突した。
最初は段々と削れていく霊体に少しだけ不安になったけれど、もう少しでくちばしが私に当たるとなったところで鳥の体勢が崩れた。
(ノア、もう大丈夫だよ)
(分かりました)
エレノアに頼んで思考加速を解除すると、鳥はくちばしが私に当たる直前に行き詰まり、首に大きな負荷をかけて身体を仰反らせた。
そして勢いよく突撃した反動でくちばしが外れ、私の真上へ弧を描くように飛んでいった。
そうなるとこのまま下へ落ちていくけれど、見るからにまだ倒せていない。なので私はエレノアの霊体の右手をミノタウロスからはみ出させ、注いでおいた魔力を使って火球を出した。
落ちていく鳥が再び飛ぼうと羽を上下に動かし始めた。しかし先程の速度に火球を当てるのは難しいと、エレノアの右手でよく鳥を狙わせた。
そうして丁度良い位置に鳥が来た瞬間、私は火球を鳥へと放つ。放たれた火球は落ちてくる鳥に当たる位置へ飛んでいき、運よく鳥の腹へ命中し爆発した。
「よし………!」
「すごいわユウカ」
火球の爆発はミノタウロスの霊体で防がれた。そして鳥の霊体はその大部分が破壊され、やがて内側の霊体が魂とともに私の元へ来た。
「………出来てるよね」
私は自分の世界へと目を向け、そこに魂があるのかを確認した。そして加護を使っていくつかの魂の姿を確認すると、今まで戦っていた鳥のものがあったので世界に入れることができたと確信した。
「お見事だったわユウカ。けど、私とは違う戦い方なのね」
「え? そうなの?」
「ええ。私だったらあの威力の高い攻撃を多く叩き込んでいるから………ん、もしかしてユウカは魔力を強く出すのが難しいのかしら? 細かな操作はうまく感じたけれど」
そういえば前にソフィアがやってみせた、霊体を一眼に晒すということが私は出来なかった。説明がよく分からなかったというのもあるけれど、今以上に魔力を多く出すというのは難しい気がする。
「どう……すればいいの?」
「……ふふ、安心して。私が手取り足取り教えてあげるから」
「………分かりやすく教えてもらえれば十分だけど………」
「大丈夫。安心していいのよ」
ちょっとした好奇心で聞いてしまったけれど、身の危険を感じるのはなぜだろうか。
「大丈夫よ、ユウカ……ウフフフ」




