九十六話 大爆発
無数にある世界の全ては魔力を含めて闇でできている。しかし闇を生むのは光、つまり魔力は光である魂から生み出される。
魂は不滅ではなく、魔力を出し続けるといずれ消耗して無くなってしまう。そのため魔力の出し過ぎはその者の命に関わる。しかし私の魂はカーラから奪った不滅という祝福によって消耗することはないらしい。
今まで何度か戦ってきた私は魔力を使用することによる命の危機なんて考えもしなかった。もし不滅という祝福が無かったら、私はとっくに死んでいたのだろうか。
そして今私はその魔力をうまく扱えるようにカーラから色々と教えてもらっている。不滅であるわけだから魔力が尽きるなんてことは無いけれど、私の魂を覆う霊体が壊されることによって起こるあの現象はエレノアや、今のカーラにとってとても危険なものだ。だから私はもっと強くなる必要がある。
「そう………感じるでしょう? 魂から溢れ出る魔力を………けれどまだ足りないわ。もっと深く感じるの。今までユウカは大きく息を吐くように大量の魔力を放出していたわ。繊細に扱うのは魔力放出が少ない時だけ。けれど大きな魔力もうまく扱えるようになれば、もっと早く、もっと強力な攻撃を行えるわ」
魂から溢れ出る魔力は身体の中を充満し、やがて外へ漏れ始めた。最初はそれを魔眼で視認していたけれど、カーラは眼で見ずに感じてと言った。私はそれが難しくて苦戦していたけれど、しばらく眼を閉じているとその感覚が掴めてきた。
それはとても暖かくもあり、けれど密度が増すにつれ息苦しくもあった。
「どう?」
「感じる……前よりも……」
「それじゃあ、次はそれをうまく扱う練習ね」
カーラはその方法を呼吸に例えて説明してくれた。曰く、様々な呼吸法、口をすぼめて吐く息を細くしたり、勢いは劣るけれど口を大きく開けて息を吐く。魔力もそのように扱い方を変えられるという。
しかし強く息を吐けばそのぶんすぼめた口が痛むように、魔力も放出する量が多ければ扱うのが難しくなるらしい。
それを聞いた私は早速右手に人間の霊体を造り出すことにした。
最初は今までと変わらない速度で霊体を出した。けれどそれではダメだとその霊体を消し、もう一度魔力を流した。
今度は気を張って、魔力の流れを制御する。それはいつも魔力を扱うのとは違い難しかったけれど、霊体は素早く形成された。
「上手くできたわね。ユウカは覚えるのが早いわ」
この感覚に慣れるにはもう少し掛かりそうだけれど、確かに先程の霊体を造る早さは段違いだ。
それから私とカーラは霊体たちを倒して世界に招き入れるために再び飛んでいった。
しばらくして見えてきたのは大量の霊体たちだった。相変わらず途方もない数の霊体だけれど、最初に見た時から心なしか増えているように思う。
「今更だけど、難しいのならやらなくていいのよ……こうなった原因は私にあるのだし」
「………いいや、やるよ。ほっとけないし。それに原因というなら私にもあるでしょ」
「そう………ありがとう」
以前に戦ったアンデッドの大群とは訳が違う。ただ同じ奴らを相手にするのではなく、大小様々の体長に、姿形も別物の霊体と戦わなければならない。しかも相手の攻撃は霊体であるから私に通用する。やるのなら遠距離で、広範囲の攻撃を叩き込まなければ。
私はオルドムの世界での戦いを思い出し、魂から魔力を出してエレノアの霊体を造り出した。それも一体や二体ではなく、百は超えている数を周りに満遍なく。
「くッ………結構辛い……!」
オルドムの時と似たような状況だけれど、数は圧倒的に違う。以前ならば何時間も掛かっていただろうけど、カーラに魔力の扱い方を教えてもらってからは難なくとは言えないけれど、素早くできるようになっていた。
それから遠くに見える霊体たちがこちらに近づいているのが見えて、私は魔力を全ての霊体に流し始めた。その制御はとても苦しく、まるで重い物を持った状態でその位置を細く微調整しているような感覚だった。
迫ってきている霊体の脚は遅く、そもそも浮いている私たちに攻撃ができるとも思えなかったので安心して魔力を送れた。
「うッ、くッ……………あ、しまッ……!」
魔力の制御に苦戦しながらも全霊体の手元に少し小さな火球を生成したところで、そこから一気に威力を高めようとした私はふとした瞬間に気が抜けてしまい、まだ魔力を送る途中だった火球を射出してしまった。
そしてまだ中途半端な火球はシャワーの降り注ぐ水のように広範囲へ向かっていった。
(わ、わあ………)
(すごい……ですね………)
いくら中途半端な火球と言えど威力は元から高いようで、着弾した地点からは小規模だけれど爆発が起きて霊体たちを攻撃した。しかし規模が小さい爆発でも量が多ければその光景は壮観だった。
それから火球が爆発した場所からは複数の魂が私の世界へと入っていった。
「…………うん?」
爆発の影響で舞い上がった塵が晴れると、そこでは多くの霊体たちが身体を一部欠損した姿で倒れており、私はそれに何か罪悪感を感じてしまった。
「……ユウカ?」
「うん、分かってる」
私は再びエレノアの霊体に魔力を送り火球を生成させた。今度は中途半端な威力にならないように気を抜かず、あんなふうに苦しめるようなことは避けようと考えて。
火球はいつもの威力と同じ程度になると、太陽のように明るく、けれど青色だから眩しい月のようになった。
そして私はもう一度広範囲に火球を発射する。圧倒的な量に威力の高い爆発。降り注ぐ光景は雨のように見えるけれど落ちて仕舞えば、それはもう爆弾と同じか、それ以上だ。
火球の爆発は着弾した地点から大量の魂を回収した。それによりそこに敷き詰められていた霊体が綺麗になくなり、寂しいディアの地をあらわにさせた。
「どう? 難しい?」
「少し………でも慣れると思う」
それから私は全ての出している霊体を消した。
そして次の場所へ向かって飛んでいくと、そこまで時間が掛からずに霊体たちが私の周りに集まってきた。そんな中それを見ていて思ったのは、初めに戦った鳥のようにこの霊体たちも私の存在を感知しているんだなということ。私が向かわなくても遠くから歩いてくるものが殆どだ。
しかし飛んでくるものもいる。
「うあ!」
背後から飛んできて右横をかすめた霊体に気づかずに驚いていると、右腕が切り取られているのを見てしまい痛みがそこから広がる。耐えられないほどの痛みではない。しかし攻撃されたことに気づかせないあいつはなんだと疑問に思った。
飛んでいった霊体を目で追うと、そいつも鳥のように羽がある。けれど形は鳥よりも細く、身体は毛で覆われているわけではない。似ているもので言えば恐竜のような、けれどあんな姿は見たことがなかった。
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫………」
私は即座に右腕を修復し、攻撃をしてきた霊体が鳥のように速かったらまずいとミノタウロスの霊体を出して中に入った。
「あれは………ワイバーンか」
「ワイバーン?」
「ええ。ドラゴンの中では速い方で、厄介なのは鋭い足の爪よ。他のドラゴンと違って火を吐いたりは出来ないけど……注意して、ユウカ」
昨日攻撃されたドラゴンとは一回りほど小さいし、攻撃手段も少ないけれど、その分速いということだろうか。けれど火球であれば大抵の相手には勝てるだろう。
私はエレノアの霊体を先ほどと同じように出していき、集中しながら魔力を送り火球を生成し始めた。
しかしそれを見たワイバーンは私を見下していた位置から急降下し、滑空して体当たりをしようと突っ込んできた。その速度は鳥ほどではなくとも身体が大きいからか萎縮する。けれどそれはオルドムほどではない。
「もう少し……」
もうあと少しだけ魔力を送れば十分な威力の火球になりそうだ。けれどもワイバーンはすぐそこまで迫っている。私はやむなく火球を放って攻撃することにした。
全ての霊体から大量の火球が放たれ、今度はワイバーンという一点の目標まで集約していく。それをワイバーンは避けようとしなかった。
火球はその殆どがワイバーンに命中し、連続して爆発音を上げた。
「………ん!」
爆発の炎でワイバーンが見えないでいると、その中から魂が一つこちらへ向かってきた。どうやらワイバーンは無事に倒すことができたようだ。
「やったわね!」
「え、そうだね………つ、次に行こう」
近寄って手を握るカーラと、今度もまた飛んでくる相手に攻撃されては堪らないとミノタウロスの霊体をそのままに、私は次に霊体がいる場所へ飛んでいった。
霊体たちが徐々に集まっていく光景を見つめながら、自分の周りにエレノアの霊体を出していく。移動するたびに出した霊体を消すのはそれだけの量を操るのが難しいからだ。それに側からみればそれはとても仰々しいものだろうし。側から見るものはエレノアとカーラしかいないけれど。
火球を生成すると真下に固まってきている霊体に向けて放った。今日だけでいくつの魂を回収したのかは分からないけれど、きっと百や二百は優に超えているだろう。
「それじゃあ次に……」
「待ってユウカ………あれ」
そう言ってカーラが指差す方には火球の攻撃を耐えて立っている霊体がいた。女性で、ローブを着ていて、見るからに弱そうな体型をしている。
なぜあの火球を耐えられたのか。それとも偶然当たらなかっただけなのか。そう考えながら女性をよく見てみると、両手を私の方に掲げてそこから何かを出していた。透明で、しかし水面が揺らいでいるように見えるそれは、おそらく魔力で作った障壁だろう。
それを確認した私はエレノアの霊体をすでに消していたので、新たに一体だけ出して火球を生成させた。ただこの火球にはいつも以上に魔力を流し、その威力を上げようとした。
火球はその大きさが通常の二倍ほどになり、どこからどう見ても危険極まりない。私はそれを女性目掛けて放った。
火球は着弾と同時にドラゴンと同程度の大きさの爆発を起こした。そしてそこから女性の魂が私の元まで上がってきた。
今まで書いた小説のタイトルを見ていると話数の表記が途中間違っており慌てて直しました。
そのついでに他にも間違いはないかと確認していたらもう全てが誤表記しているのではと、見すぎて頭がおかしくなりました。




