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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
神人形編
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九十一話 ディア

 自分の世界に造り出されたそれは、アンナが今まで経験してきたあらゆることを私に見せてくれた。魔術を探求している時の喜びも、家族に無視され続ける悲しみも、そして自分の命が危険に晒される恐怖も。

 それは私にとって衝撃的な部分もあったけれど、長く記憶を見てきて色々分かったこともあった。


「…………うん?」


 目を開けると辺りは真っ暗な闇に包まれていて、あれから数時間は経っているのかと考えた。空を見上げてもディアや光る星は見えないでいる。きっと曇り空なのだろう。

 けれどそんなことよりもアンナに話があると周りを見回した。しかし魔眼を使ってもどこにも見当たらない。もしかするとどこかへ行ってしまったのかと私は不安になった。


 そうして少し考え込む私は、このような状況になったとき、どのようにすれば良いのかを思い出した。それは前に黒猫を探すときに使った方法。加護の繋がりを辿って見つけ出す方法だ。



「………いた」


 早速その方法を試した私は、アンナとの加護が館の地下にあるのを見つけ、繋がりを使った瞬間移動を行った。


 すると視界は一瞬だけ暗くなり、気がつけば館にいるアンナの元まで移動していた。しかし移動したのは内側の霊体だけで、身体に違和感を覚えた私はそれに気づき外側の霊体を元に戻した。


「アンナ」

「ッ! この声は………もしやユウカ様ですか?」

「うん……」


 すぐ側にいるアンナに話しかけた私は、なぜか驚きながら私の名前を呼ぶ彼女に返事をした。


「随分と長い間世界の中におられましたね………まああの時ほどではありませんが」

「長い間……? もしかして………! ねえアンナ、あれから何ヶ月経った?」

「いえ、たかが三日です」


 オルドムの世界で戦っていた数時間は、こっちの世界での一ヶ月だった。今回はその倍どころではない時間を世界の中で過ごしていた為、てっきりあの時以上に時が経っているのかと思っていた。

 しかし思っていたよりもずっと短い時間しか経っていないようだ。


「そうなんだ…………アンナ、少し話をしない?」

「…………はい」


 私は気分が落ち込んでいるように見えるアンナに経験したことを話た。記憶を見たことを包み隠さず正直に。

 アンナは一言も喋らずにそれを聞いていた。それがどういう気持ちで、どんなことを考えていたのか私には分からないけれど、とても近くにいるような気がした。

 それは物理的な距離の問題ではなく、精神的なものでそう思った。


「そうですか、そんなことが…………」

「うん………でも、気になることもあって…………アンナはなんで、不老不死を夢見たの?」


 祖父の暴走。そしてそれによって失った家族。しかしその記憶を見てもなぜ不老不死を目指し、あのような行為に及んだのかは分からなかった。


「それは………何故でしょうね」

「……わから、ないの?」

「はい。もう何十年も前で、記憶もあやふやなのですが……あの時は強く、不老不死に憧れたのです」


 アンナはそれを憧れと言うけれど、私はエレノアと同じような、まるで洗脳されたようなその思想に違和感を覚えた。いや、前から考えてはいた。私の時は内側の霊体が一部欠損し、それが徐々に広がっていったから記憶や性格に変化があった。

 けれどエレノアはそれとは違い霊体は無事だ。なのに性格はあれ以前と以後で大きく変わっていた。


「それは本当に、アンナのやりたいことだったの?」

「……分かりません……………分かりませんが、さっきの話を聞いて思い出しました。私は最初、不老不死に憧れるのが気持ち悪かったんです」

「え?」

「何か、こう……私が侵食されるような、塗りつぶされるような……そんなふうに変わっていくのが怖くて……」


 洗脳、というやつだろうか。しかしだとすると、それは一体誰がやっていることなのだろう。そしてもし、そうなのだとしたら、私はそれをやっている奴を許せない。


 それから私とアンナはしばらくの間会話が途絶えた。それは話すことが無かったからではなく、ただ何かを言わない方がいい気がしたからだ。


「ユウカ様、私を裁いてください」

「裁く?」

「はい。私はあなたにあんな事を……だから」


 前に戦ったオルドムは言った。悪意ではなく悪行を裁くのだと。それを聞いた時、悔しいけれど納得してしまった。間違った事を言っているとは思えなかった。どんなに悪いことを考えていても、誰かを傷つけようとしていても、実際に何かをしない限りそれは悪ではないのだと。

 しかし今はそれで良いのかと思う。どんなに悪い事をしても、例え人を殺したとしても、悪意がなければ裁く行為に意味はないのではないか。


「だから………」

「いや、私はそんなことしない」

「………何故ですか」

「だってアンナ、それを悪いと思ってないでしょ? それに、そんな偉そうなことはしたくないし」


 黒猫と関わって、傲慢でいることがどれだけ最低なことか学んだ。誰かを見下すなんてことはあってはいけないんだ。私はオルドムのそこが気に入らなかったんだ。


「ですが、私はこれからどうすれば……」

「………アンナはどうしたいの?」

「私? 私は………今は何も………」

「そう………それなら私もできることはないよ」


 アンナが今どんな気持ちでいるのかは何となく想像できる。きっと変わってしまった自分が怖くて、けれどどうしようもないから不安だろう。けれどだからと言って救いなんて傲慢な行為を私はやろうと思えない。自分勝手なのは最低だから。


「ユウカ様はこれからどうするのですか?」

「元々この館に来たのはカーラに会う手段を探す為だし、無いのなら別の方法を探すかな」


 そう言って私はアンナを残し、館の地下から出ようと壊れた扉の方まで歩いて行った。


「……待ってくださいユウカ様。私があの女神に会う方法があると言ったのは嘘ではありません」

「え?」


 それからアンナは私がどうすればカーラに会えるのかを教えてくれた。その様子はどこか寂しげだったけれど、それは私も同じで、もしかするとアンナと離れてしまうのではないかと考えていた。

 話してくれたカーラに会う方法は加護を使った瞬間移動だった。しかしそれをするにはカーラとの繋がりがなければ駄目だと言うと、アンナは自分に繋がった加護があると言った。

 どうやら加護は重複ができるらしく、理由は分からないけれどカーラは私にバレないようにこっそりアンナとの加護をそのままにしていたらしい。


 アンナはそのことを申し訳なさそうに話てくれたけれど、私は特に不快感はなく、むしろなぜカーラがそうしたのかが気になった。


「それじゃあ、もうカーラと会えるんだね。アンナはどうするの?」

「私は…………私はここに残ります。しばらく一人になりたいので……」

「そっか………」


 それからアンナの隣で座り込んでいたけれど、しばらくすると決心がつき「また」と一言呟いて外側の霊体を消した。内側の霊体だけになり、アンナと繋がっている私とは別の加護をくまなく探すと、ほんの僅かな魔力の線があることに気づいた。

 そして私はそれに触れ、身体を預けるように力を抜いた。



 一瞬視界が暗くなったと思えば、今度は目を覆いたくなるほどの眩しい光が辺り一体に広がっている。内側の霊体しかないと目を閉じることができないため、私は光に抵抗するべく外側の霊体を造った。


「………うん? え! ここは………!」」


 ゆっくりと目を開けて最初に見えたのは、今まで私がいたはずの地球だった。いや、そもそもこの世界の地球がそのままの名前なのかは分からないけれど、とにかくここからは大きく丸い惑星が見えている。


「そうか、そういえばカーラはディアにいるんだっけ………」

(ユウカ! 横!)


 エレノアの叫ぶ声が頭の中で反響し、とにかく横を向かなければ振り向いた。

 するとそこには霊体の、どこからどう見ても大きくイカついトカゲがいた。そしてそのトカゲは一目散に私の方へ近寄り、勢いよく大きい尻尾を叩きつけようとしていた。


「何こいつ!?」


 私はその攻撃を防ぐために人間のスケルトンを咄嗟に召喚した。しかしそれは呆気なく砕かれ、私の身体は尻尾の攻撃で一気に斜め後方まで飛んでいった。

 飛んでいく途中、トカゲをよく見ると羽が生えていてドラゴンなのだと分かった。

 けれど分かったのは他にも。あのドラゴンとは別の霊体があり得ないほどの数、そして見たことない生き物の形をしてこのディアの地を埋め尽くしていた。

瞬間移動は羨ましいです。

ユウカのはどこにでも行けるわけではありませんが。

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