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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
神人形編
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九十話 骸骨の記憶

 ここは私の世界の中に造り出された場所。アンナの記憶が形となって現れ、それを私が見るために存在する、いわばテレビに映し出された思い出の記録だ。

 ここでの時間はとても早いのか、私と入れ替わりで外に出ていたエレノアが戻ってくる頃には数年の歳月が経過していた。


 初めは一人でアンナの成長を見守っていた私だけれど、途中からはエレノアも加わり、今は二人でこの館に住まう人々を日々眺めている。

 生まれてから色々あったけれど、これといって何かあるわけでもなく小さかったアンナも気が付けば少し大人びて見える歳まで成長していた。けれども生まれてから多くをともに過ごしているアンナの祖父が私の機嫌を逆撫でするため、アンナから目を離せない毎日を送っているのは大変だった。


 今日も朝から飽きもせずに何かの研究に没頭するアンナを見て私はそう考えていた。もうすでに起こっている出来事なので心配しようがこちらからは何もできないけれど、それでもあの老人がアンナと一緒にいると落ち着かない。

 しかしその関係にも最近変化が現れたように思う。と言うのも、最初はアンナが何かの成果を上げるたびに誉めていた老人が、最近はどこか冷たく、素っ気がない様子で「はいはい」と適当にあしらっているからだ。


「お爺さま! ここはどうするのですか?」

「……ここはこうやって………」

「………わかりました!」


 今も分からないことに対して質問するアンナに、昔とは違った活力のない声で応えている。しかしこれはもしかすると、単に老人が歳をとったからということも考えられる。実際目に見えて髪が薄くなり、こじわもたくさん増えている。


 アンナには父親と母親に、歳の離れた兄と姉、それと生まれたばかりの弟がいる。両親は二人とも美人で、それは娘であるアンナにも顕著に現れている。兄は王国の貴族と良好な関係を築くためにあれこれやっているらしいけれど、詳しいことはよく分からなかった。そして姉は貴族の使用人らしい。

 そんな親兄妹だけれど、たまにアンナとすれ違う時は話しかけもせず、まるで空気かのような扱いだった。そのせいもありアンナは最近自室に篭りっぱなしだった。


 そんな生活も数年経ちアンナは顔立ちもはっきりしてきた。しかしそれを目立たなくさせるほどの姿勢の悪さと、全く手入れをしていない髪のせいで印象は悪かった。

 この頃になるとアンナの死霊術を使った実験はさらに過激さを増していき、馬やウルフなどこれまでと違った大きめの動物を材料にしていた。私はそれを横で見ていて何をやっているのかは分からなかったけれど、エレノアは動物が殺されるのが苦手なようだった。


 そして依然として親兄妹とは不仲なようで、数ヶ月前まではみんなでとっていた食事も、今は自室で研究がてらに行うものになっていた。

 老人はもう自力では歩けなくなっており、殆どの時間を椅子に座ったまま過ごしている。その姿はまるで枯れた木のようだと思っていた。


「お爺さま………」

「なんだ……」

「見て欲しいものがあります」


 この日アンナは老人にあるものを見せたいと、地下にある実験場に連れて行った。

 老人はアンナに手を引かれて歩く途中、ちょっとした段差につまずいて転びそうになった。けれど直前のところで踏みとどまってそれは回避された。けれどその時の表情はそれまで見たことないもので、私には不安を感じているように見えた。


 実験場にある人形の一つを老人に見せたアンナは、そこで何やら不可思議な動作をした。老人は近くにある椅子に座ってその様子を眺めていたけれど、あるものを見た途端驚いて勢いよく立ち上がった。

 それはアンナの目の前にある人形が突然動き出し、不器用ながらも一歩ずつ歩き出す様子だった。


「どうですか?」

「こ、これは………一体どうやって!?」

「別の人間の魂を、この人形に定着させたんです」


 アンナは自分で作った魔術を老人に説明した。曰く、独自に作り出した魔術の刻印を魂が定着しようとしている器に彫ることで、その魂を強制的に器に縛る魔術らしい。

 私はそれを聞いて、数日前に奴隷としてやってきた子供の魂なのかと嫌な気分になった。しかしそれよりも不思議だったのが、アンナを褒めると思っていた老人が何も言わずに立ち尽くしていたことだった。


「そうか…………そうか…………」


 老人は焦るように表情で震えながらそう言うと、今度は力強く同じ言葉を口にして椅子に座った。


 数日後、朝のポカポカとした日差しが差す部屋で目覚めたアンナを眺めていた私とエレノアは、穏やかな気持ちを感じていた直後に館全体へ鳴り響いた爆音によって一瞬で感覚が研ぎ澄まされた。

 私は何かあったのかと心配になりそれを知ることに躊躇いがあったけれど、急いで起き上がり部屋を飛び出すアンナに続いた。


 真っ先に向かった広間にも、親兄妹の部屋にも誰もいない。そんな状況の中で最後に行き着いたのが地下の実験場だった。今までとは違った雰囲気を前に少し後退りをしたアンナは、それでもと開けた扉の先を見て驚愕のあまり腰が抜けてしまった。

 しかしそれもそのはず。なにしろそこにいたのは気色が悪く今まで見たこともない怪物だったからだ。


「な、何これ……あ……! え……?」


 口を開いたまま怪物を見つめるアンナは、そこに老人が立っているのを見つけて声を掛けようとしたけれど、その次に見た怪物に埋まる母親の姿を見て絶句した。

 よく見ると他にも見慣れた顔が怪物の身体に埋まっているのが見えた。そして気づいた。怪物が館にいる人間の寄せ集めでできていることに。


「お、おじいさま………」

「ん? おお、アンナ、来たのか。丁度よかったよ。今こいつが完成したところだから、あと必要なのはアンナだけだからね」


 老人はその言葉を最後に手に持ったナイフを前に突き出し、アンナが話しかける間も無く自分の胸に突き刺した。老人はその間ここ最近のどれよりも満面の笑みで、噴き出す血が出ているのにも関わらずそれは私たちに恐怖を与えた。


「あ………あ………」


 言葉を無くして動けないままでいるアンナ。しかし突如として動き出した寄せ集めの肉塊によって今度は大きな悲鳴をあげた。その肉塊はおそらく老人が宿ったもので、胸の辺りにはアンナの封印魔術が刻印してあった。


「い、いや……来ないで………!」


 その怪物はアンナの方へとのそのそ歩いてきた。その姿は前に私も見覚えがあり、それは肉塊だとより恐怖を増した。

 アンナはその肉塊へ攻撃することができず、ついには目と鼻の先までに肉塊は迫ってきていた。


「やめ………え?」


 一瞬聞こえたその短い言葉は恐怖で震える声とは違った。しかし違っていたのはそれだけでなく、目の前に見えていた光景もそうだった。

 今まで暗かった実験場が、目を背けるほどに明るく輝いており、それから放たれる光は肉塊を瞬時に蒸発させるように消し去った。私は何が起こったのかとアンナの方を振り向いた。


「あ、あなたは………え?」


 アンナはしばらく誰かと話をしているような素振りで、その後はおもむろに立ち上がると気だるそうに地下から出ていった。


 後をつけ、アンナが入った部屋に入るとそこには何故か荷造りをするアンナの姿があった。黙々と、しかし取り憑かれたようにブツブツと独り言を呟きながら荷物を詰めている。

 一体何があり、こんなことになっているのか。突然起こった出来事にわけも分からずにいると、アンナはいつの間にか部屋を出ていた。

 そして館の出口まで来たアンナは一度後ろを振り返ると何も言わずに出ていった。



 旅の間盗賊や山賊に襲われたりと色々あったけれど、アンナはあの日以来強まった魔術で難なくそれを撃退していった。行く先々では魔女だと蔑まれることもあったけれど、それも上手くいなし続けていた。

 しかし旅も老いのせいで困難になってきた。アンナの記憶も見始めてもう数十年は経つだろう。けれどこのままでは寿命がきてしまう。


 そう考えているとアンナは村外れにある小さな家を訪ねた。その家は木こりをやっているようで、身体の大きい父親と、やや太めの母親。それに十代の娘がいた。

 アンナはその家の扉を叩き、それに応えて出てきた父親の首を魔術ではねた。次にそれを見て固まっている母親に尖った氷を飛ばして殺した。その光景を見ていた私は今までの残虐な行為を見てきたけれども、流石に驚いて怖気がした。


 アンナは娘の両親を殺すと次は声も上げられずに怯えている娘に近づいていった。

 すると今度は何故か殺さずに魔術で眠らせて、近くにあった机の上に置いた。私は冷酷なアンナの姿に思わず奇異の目で見てしまいそうになったけれど、ずっと前にアンナを理解しようと決めたことを思い出した。

 アンナは娘の胸の辺りに見たことのある模様を刻印すると、躊躇いもなく自分の首を魔術ではねた。私はそこでまたも思い出した。これが一体どういうものなのかを。


 しばらくすると起き上がった娘が、自分の身体を確かめるように動かしたりした。そして納得がいったのかアンナの死体から色々と剥ぎ取ると、何事もなかったかのように家を出ていった。

 私はこれが魂を定着させる魔術だと気がつき、アンナが長生きをしていた理由に納得がいった。


 娘の身体を乗っ取ったそれからのアンナは、ある町の一軒家を買うとそこに住み始めた。

 あるときは人形製作などをやり、またあるときはそこら辺で拾ってきた石に何かを唱えて光る紫の石を作ったりしていた。

 そんなことが続いたある曇りの日。アンナは馬に乗って出かけて行った。


 目的地に着く頃には雨が降り、嵐が吹き荒れる夜中になっており、乗っていた馬は途中の事故により死んでしまっていた。


「ここって……!」

「ここは………」


 見たことのある家が目に入り、私は久しぶりに声を出した。そこはかつてエレノアを記憶を見たときに散々目にしていた、エレノアの家だった。

 そこからはエレノアの記憶で見た通りの光景が続いた。


 そして時は流れて私とエレノアが初めて出会った森。そこの塔で起こった出来事を目の当たりにした。複数の男が塔の中へ押し入り、そこにいた眠る人形のエレノアを捕らへ、そして近くにいたアンナを殺す様子を。

 しかしアンナはその後すぐに霊体化すると、一人の男に取り憑いて息を潜めた。


 そして私が現れその男をスケルトンで殺すと、アンナだけが私の世界へと入っていった。

 これがアンナの記憶の全てであり、あのように至った経緯なのかと思った。



 すると今まで当たり前に存在していた世界の輪郭が崩れ始め、瞬く間に元の殺風景な、家が二つとちょっとした草原がある世界に戻った。


「これが、あの人の…………ユウカはこの後、どうするのですか………? あの人を、許すのですか……?」

「分からない………けれど、敵意は向けられないかな…………」


 あれほど残忍で無慈悲で、簡単に人を殺してしまうアンナの半生を見てきたけれど、私はそれで嫌いになるどころか、むしろ憐れんでいるのかもしれない。

 しかしそれはそれとして、誰かを許すだとか、そういう考えは止めようと前に決めていた。けれど私はアンナを良くも悪くも見れない。そうやって未だ悩んでいた。


 けれどいつかは決めなければと、外の世界で待っているアンナの元へ向かっていった。

きちんと確認していないので誤字などあるかもしれません。

申し訳ありません。

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