八九話 エレノアの捜索
--エレノア視点--
ユウカ、そしてアンナとともに人形の館を訪れて探索をしていた私たち。初めは順調だったけれど、途中アンナがなぜか裏切りあろうことかユウカを攻撃してきた。ユウカはそれが咄嗟のことですぐに対応できず、謎の霊体から一方的に攻撃されて散々だった。
そしてその時に受けたラーミナの魔法のせいで魂を守る内側の霊体が傷つき、ユウカの世界にいた私と会話ができなくなっている。
私はその状況に陥ってしばらくは同様し、ユウカの名前を叫んでいたけれど今は落ち着いて考える余裕も出てきている。しかし心配なことに変わりはないので頭を抱えながら家の前をうろついていた。
「け、けど、何はともあれ傷ついたのが私の霊体でよかった」
魂というものは肉体的な死を迎えた時に神の世界へと向かって行く。霊体が全て破壊された時は神の世界に行けず、その場で魂が消えて無くなってしまう。
しかしユウカの場合は魂が不滅であるため、消えることはまずあり得ない。けれどその結果として神都の時のような光を放ち、周囲の闇を破壊しながら長い眠りについてしまう。
ただいずれは勝手に霊体が造られ、自我も元通りになる。
「けど、そうなったら……」
しかしそうなってしまっては、この世界にいるすべての魂は霊体という闇から解放され、ユウカから出ていきその場で光に消滅させられてしまう。そしてそれは私も例外ではない。
ではなぜさっきはそんなことにならなかったのか。それはユウカを守る内側の霊体の、さらに外側を私の霊体が守っているからだ。
さっきはそれによって魔法をある程度は防げたけれど、次もまたうまく行くとは限らない。
「………いや、今それを考えてもどうにもならない。それよりもあの人はなぜこんなことを………」
そう呟く私だったけれど、なんとなく見当はついていた。ユウカと話せなくなる直前、聞かされた経緯はアンナならば納得のいくもの。
不老不死。最初に聞いた時は憧れと尊敬の念のような、そんな思いで感じていたアンナの夢も、今はとても馬鹿らしく思える。この感情の変化には違和感を覚えて仕方がない。
ため息を吐いた私は地面から少し離れて浮遊し、うずくまるような体勢になった。
そもそもユウカをどのようにして不老不死の糧とするのか。そこが私には理解できなかった。ユウカの記憶を見てもそれらしいことは覚えてない。それなのにアンナは方法を知っているというのだろうか。
「んん………………うん?」
ふと何か違和感を感じて胸の辺りに手を置いた私は、この感覚が以前から感じていたものだと思い出した。
それはいつもユウカが戦闘をする最中、私の霊体を出す時のそれだった。ということはつまり、今ユウカは確実にアンナと戦っており、そしてそのために私の霊体を出したということになる。
「私もどうにかして…………ユウカ………あれって!?」
何かが視界の端で動いているような気がして振り向いた私は、そこでいろいろな物が次々に造られているのが見えて驚いた。
そこはまだ何もなく、ただ広い空間だったけれど、大量の土や木々が集まって地面を造っていき、さらには既視感のある建物までできている。
「………もしかして記憶を……」
私はこの光景に見覚えがあった。それはユウカが前に黒猫の記憶を見ようとした時。あの時も同じように様々な建物が造られていった。ただあの時はすぐに消えてしまったので調べようがなかった。
なので少し気になるところだけれど、この記憶を見るためのものが造られたということはユウカにそれだけ余裕があるということ。
「それならユウカと………うぐッ!!」
突然どこからともなく襲い掛かる激痛に顔をしかめて、どうしようもない痛みに私は悶えた。さっきの魔法とは比にならないほど痛む胸のような、そこではないような不快な感覚。今なら他のどんな痛みに襲われようとも気付きすらしないと思うほどに苦しい。
あまりの辛さに浮遊ができなくなり地面に落下した私は、その直後にユウカのことが心配になった。
なので私はいつも会話する時のようにユウカと繋がり、外にある私の霊体を使って何が起きているの確認しようした。
しばらくすると暗くなっていた視界が元に戻り、私の目には真っ暗な夜空に輝く星々が映し出された。どうやら今は仰向けで寝ている状態らしい。
「夜………うッ」
起きあがろうとする私は胸の辺りから全身に激痛が走り固まった。さっきの痛みに似ているけれど、少し弱ったようにも思う。
私はそう思いながら恐る恐る胸を覗き込んだ。すると見えてきたのは、ユウカが魔力を流し続けている魔眼から見える穴の空いた胸だった。私はきっとアンナによってやられたものだろうと思い痛みをグッと我慢した。
内側の霊体は私のものが大きく傷ついていて、ユウカの霊体は無事なようだった。そもそもユウカの霊体は流れている魔力からして強力なのだから当たり前なのだろうとふと思った。
そうやってユウカのことで気を紛らわせながら霊体を修復していった。
「な、なぜ……なぜ生きて………」
霊体を元どおり修復し終えた私は、安心してホッと一息吐いたところで後方から声が聞こえ振り返った。
すると、そこには霊体状態の頭蓋骨がアンナの声を発して転がっているのが見えた。ついさっき見た時にはまだ骨だったけれども、一体何があったのか疑問に思った。
しかしそれよりも今目の前にいるアンナに私は怒りが湧いてきた。
「なぜですか………」
「え? 声が……」
「答えてください! なぜあのようなことをしたのか!」
「………そういうこと…………前に聞かせたでしょう? 私は不老不死になることが夢だって。それを叶えようとしたまでよ」
その態度は思っていたのとは違って気力が感じられなかった。
てっきり不遜な態度で罪の意識がないものだと思っていた私は、それを見た瞬間少し気が抜けてしまったけれど、やはりユウカを攻撃したことは許せなかった。
私は強く足を地面に叩きつけながらアンナの元へ歩いて行った。
そして目の前までくると、霊体になっている頭蓋骨を両手で持ち上げて睨みつけた。
「ふふ、私を殺すの? それなら早くしてちょうだい。私は負けたんだから……」
「………そこまでする程のことだったのですか? このままユウカとともにいるのではいけなかったのですか?」
「さあ、どうかしらね………私も本当はどうでも良かったのかも………」
それを聞いてでは何故と問い返そうとしたけれど、ふとユウカが話しかけてこないことに気がついた。
そしていくら心の中で名前を呼ぼうと反応が一切無い様子に私は不安になり、ユウカの世界を覗き込んでそこにいるか探した。
「…………………あ!」
「……ん?」
するとそこに見えたのは大きい建物の窓から顔を覗かせるユウカの姿だった。
「話は後です。私はユウカの無事を確かめてきますから、あなたは絶対にこの身体を傷つけないでください。いいですか?」
「……ええ」
高圧的な態度でアンナにそう言うと、帰ってきたのは無愛想な返事でムッとした。しかしそれは放っておいて、私は急いでユウカの世界へと戻っていった。
世界へ戻ってきた私はユウカがいる館へと向かっていった。
正面から見るとどこかで見たようなその建物は、綺麗な景観のわりにどこか不穏な気がした。
館の扉を開け、中にいるユウカを探す私は途中ですれ違った人たちに疑問を持った。なぜかこちらを認識しない上に、ぶつかってしまった時には光る変な粉を出して元に戻る。
一体ここで何が起こっているのかと不安になりながらも、ある部屋の扉を開けるとそこには私と同じく宙に浮く人影があった。
「ユウカ」
近くによって名前を呼び、本人かどうかを確認したところ驚いたのか大声を上げた。そしてその後に私の名前を呼んだので本人だと安心した。
「良かったです、無事で………」
「うん、お互いにね」
それから私はユウカにアンナの様子などを伝え、ユウカからも何があったのかを聞いた。ユウカが話すアンナの様子は私が見てきたのとは違い、本当なのかと疑いたくなるようなものだった。
しかしユウカの記憶を一瞬垣間見てそれが本当だと知りより一層驚いた。
「それで、ユウカは今何を?」
「アンナの記憶を見てるの」
「え! アンナの!?」
「うん。でもここが私の世界だったことには驚きだな………ということはノアの時もこの世界に来たのか………」
その喋り方や態度を見た私は、なぜそんなに落ち着いてられるのかと疑問に思った。横を見るとまだ小さい女の子がとなりにいる老人とともに小さな生き物を楽しそうに切り刻んでいた。
その様子に恐怖を覚えながらも、少女を見た時私はふとあることが頭に浮かんだ。
「ユウカはここにどれくらいいたのですか?」
「え……? 覚えてないけど、多分五年か、六年くらいじゃないかな?」
それを聞いた瞬間私は自分の耳と、ユウカの正気を疑った。
私はなぜそこまですることができるのか。辛くはないのかと瞬時に質問した。けれどさっきユウカの言った、ノアの時もという言葉を思い出した。
その時の記憶はすっぽりと抜け落ちていて分からないけれど、ユウカのいうことが本当ならば私の生きた年数を体験したということになる。
「なんでか………知りたいからだよ」
アンナの方を向いてそう言うユウカを見て私は納得がいかなかった。あんなに酷いことをされたのに、それでも理解しようとする行為を。
しかしユウカはそれをしている。それは善意からなのか、それとも知的好奇心からなのか考えた。
「………………私も、一緒にいていいですか?」
しばらくの沈黙の後、私はユウカとともにアンナの記憶を体験したいと申し出た。それに対してユウカは優しい笑顔で快諾してくれた。
考え込んだ末私は知りたいと思った。ユウカのこともそうだけれど、ユウカが知ろうとしているアンナのことを。
知りたいと思った。
次で人形の館は終われそうです。




