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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
操り人形編
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七十五話 神域の自覚<三>

 その声は外から私の耳に囁くと言うより、頭の中に入ってくるような感覚だった。エレノアとの会話に似ているようで、それとは違う不思議な感じがする。しかし私は、この感覚を前に一度体験している。それはまだ私が召喚されて直ぐの頃、何も聞こえず見えない不安な時に聞こえてきた謎の女の声だ。

 傷もなく、几帳面に造られた巨大な四角形の建物にぶつかり痛みに悶えていた私は、その聞こえてきた声のよく分からない言葉に疑問を思った。


(ユウカ、この声は一体………?)

(私にもよく……)


 とても魅力的で惹きつけられる声だけれど、私は頭に直接話しかけられる感覚が慣れずに右手でそっと頭を押さえた。

 そして起き上がり、周りに誰かいるのかと見回して確認した。しかし誰もいない。けれど途中目に入った足元の建物を見て、窓も無ければおうとつも無い不気味さと、何故か感じる不快感にその場を飛んで離れた。

 女性の言う世界が何なのかは分からなかったが、それでも今はオルドムと戦う方を優先した方が良い。そう思い雲で遮られた上を見上げると、雲を突き破ってこちらに来る小さい方のオルドムが見えた。


 私はそれを迎え撃つ為エレノアの霊体を出し、魔力を送って青い火球を放たせた。まだ使い慣れていない攻撃だが、現時点ではミノタウロスを超えた遠距離で高威力の攻撃だ。

 それでもオルドムには避けられ、当たったとしても直ぐに再生されてしまう。この世界ではオルドムをいくら傷つけようと、外部からの攻撃が不可能であるが為に意味がない。


 そうしているうちにオルドムは直ぐに近くまで来て、私が思わず逃げようとするのを右手で頭を鷲掴みにして捕らえた。エレノアの霊体はやはり呆気なく壊されてしまった。


「うう! クッ!!」

「終わりだな。お前には私に対する信仰心が無いようだが………」

「そんなの、当たり前でしょ!」

「ふんッ、まあいい………お前は今後あの場所で罪を悔い改めるのだ」


 オルドムはそう言ってある方向を指差した。そこは先ほどオルドムに飛ばされた私がぶつかった四角形の建物だった。


「あそこは……」

「知りたいか? ならば教えてやろう………あれは罪を犯した者が入れられる檻。永遠の孤独と懺悔により、己をより善なる者へ昇華する檻なのだ」


 死後に神の世界へ行くと、肉体から解放されているので当然寿命なんてものはない。と言うことはつまり、オルドムが死ぬか、オルドムから消されるかしない限り永遠とあの中にいるという事。私はそれをとても非道なことだと思ったが、同時に黒猫がいる場所の確信が持てて良かったとも思った。


 後は黒猫を保護して逃げるだけ。それからはどうにかして出口を見つける。それしかないと思い先ずはオルドムから離れる為、近接武器の剣を持っている人間の霊体を出して攻撃させた。

 霊体は私を掴んでいる右腕を狙って剣を振り下ろした。

 しかし霊体の剣は折れ、オルドムの腕はびくともせずに無傷だった。


「残念だったな。さあ、次はどうする?」

「このッ! 離せ!」


 私は精一杯怒鳴り、霊体が持っている盾をオルドムにひたすら当て続けた。が、それはまるで岩に対して紙をぶつけるかの如く、盾はぶつかる毎に壊れた。

 オルドムは武器を失い素手で殴りかかる霊体を見ると、空いた方の手を軽く振り回して破壊した。

 それを見た私は次にエレノアの霊体を出そうとしたが、これは警戒されているのか造りかけで壊されてしまった。


「次は?」

「この…………この………………」


 手で掴まれる頭が圧迫されて苦しくなり、霊体が出せない為に自分の手でオルドムの腕を殴り続ける。

 しかし私の攻撃はどんなスケルトン、霊体よりも圧倒的に弱く、もはや私とオルドムはアリと象のような状態だった。


「これが無知の……怠惰の末路だ。お前の力であればやりようは他にもあっただろうに。この結果はそこまで考えが及ばなかった、考えようとしなかったお前が全ての元凶なのだ。まあ私にとっては、大罪人を一人………いや二人裁けて嬉々としているよ」

「何が裁きだ………お前なんか、神じゃない!」


 身勝手な正義を振りかざし、悪意の無い黒猫を勝手に断罪するなんて神のやる事とは思えない。それにそんなものが正義である筈はない。それはもう暴力だ。

 オルドムを睨みつけながら今にも怒りが爆発しそうな私は、自身で体験した圧倒的な力に萎縮しながらも、オルドムの裁きに反抗し続けた。


「んん? お前は何か勘違いをしていないか? 私が神か否かなど、お前が決めることではないだろう………それともあれか? お前は自身が神を認めなければ、それは神ではないと言う輩なのか?」


 私には神になる条件なんてものが分からない。故にオルドムが何を言っているのか理解出来なかった。

 しかしオルドムは、私を嘲笑いながら神の資格について教えた。


「神というのは、単に民衆からそう周知されているから、信者が大勢いるから神ではないのだ。神とは、己の世界を持つ存在のこと………ティアナも、カーラも、自分の世界を持っているから神だ。光と闇の神も持っている。そしてこの私もな。そしてその世界を手に入れる方法は分かっていない。ある日突然、手に入れるものなのだ」


 神は個人の地道な努力や必死で勝ち取るものではなく、生まれた場所や容姿のように完全なる運だという事実は、神という存在の失望を私に与えた。

 それが本当だとするならば、極悪犯や、例えば黒猫を雇った盗賊たちなんかでも運が良ければなれるということ。それはあまりに酷く、許容し難いものがある。


「そんなのが……神………」

「……勝手に失望するのは構わないが、それはお前の期待に対して実際の結果を比較しているだけに過ぎない」

「でも、正義がどうのとか言っているのなら、寧ろ被害者のあの子を裁くのはおかしい!」

「おいおい、これは………お前は私が裁くものを理解していないな。確かにあの獣人が殺しをやってきたのは命令されたからだ。しかし、それがどうした? お前は悪を断罪する際、悪意を裁くのか? 私は違う。私は悪行を裁くからな」


 悪意を裁くには全ての人間の思考を理解するという、不可能にも近い手間を惜しむ必要がある。それに対して悪行は起きてから裁く。これなら裁く側も裁かれる側も納得するのは後者だ。

 そんな考え方の違いに言い返せない歯痒さを噛み締めながら、それでも納得がいかない私は一瞬悩んだ。それなら環境によって悪事しか出来なかった黒猫は、もうどうしようもないのではないか。そんな人たちがこんな風に断罪されるのはどうも納得がいかない。


「それでも………」

「………はあ、全くお前は救いようがない」

「救い?」


 少なくともあんな場所に閉じ込めておいて、その口で救うというのは筋違いではないのか。

 あっけらかんな態度でそんなことを言うオルドムに私はとても気分が悪くなった。


「お前が、誰を救えるんだ……」

「ん……? ふん、その問いは良いぞ。教えてやろう、救いとはな、独立のことだ」

「どく、りつ……?」

「ああ、そうだ。悪とは、言わば依存なのだ。それは己の弱さにであったり、他の強さにであったり……それぞれ悪というものは様々なものに依存している。それを自立させること、それが救いなのだ」


 オルドムは何故か嬉しそうにそう語った。

 私はその姿がしゃくにさわり話しの内容を聞き逃してしまった。


「誰だって救いを求める。あの獣人だってそうだ。罪の意識が芽生え、そこから脱したいと願った。故にその伸ばされた手を私が受け取り、やがて独立させるためにあの場所に置いている」

「願った………!?」

「ん? 願わなければここにはいないだろう」


 それは黒猫が望んでこの場所にいるという事なのか。そんな事が頭に浮かんだ。今までは罪の意識が芽生えたところにオルドムが目をつけ、加護を与えて半強制的にこの世界へ連れてきたと思っていた。けれど実際はどうなのか、私はそれを考えて自分の行動の正当性を疑ってしまった。


(ユウカ、自分の世界よ………)


 私は正しいことをしているのか。これは黒猫が望んだことなのか。


(自覚するの………)


 これまでの行動を思い返し、それが独りよがりの勝手な正義ではなかったのか。


(ユウカは何も………この声何処から……!)

(世界を………)


 気が滅入ったのか、それともオルドムに頭を潰されたのか私の視界は徐々に暗くなっていく。覚えてはいないけれど、前にもこんな感覚を味わったような気がした。

 そしてもう完全な闇になった時、エレノアの声は鮮明に聞こえる。しかし未だに頭の中から響く謎の声は、まるで環境音のように馴染んで理解できなかった。



 目を開けているのに、何処を見回しても暗闇が張り付いて離れない。それに肌の感覚や重力の重さも前と違い、繊細に感じ身体が重い。けれどそれはいつもと言うだけで、元の世界の状態に近いように思う。

 すると暗かった視界が段々薄れていき、遠くには何か小さく光るものが見える。


「ユウカ……」


 この声はエレノアだろうか。しかし何処かおかしい気がした。


「ユウカ」

「ノア………? 普通に声が聞こえる!?」


 その声はいつも心の中で会話するのとは違い、対面で話すように口から出て耳に入る声だった。

 その声が聞こえた方に目を見開き顔をしかめると、そこには霊体と同じ姿の、しかし肌や髪に色があるエレノアが目の前にいた。


「ユウカ!」


 エレノアは私の顔が自分に向いた瞬間、嬉しそうに胸に飛び込んできた。その時に感じた圧迫感、エレノアと私の肌が触れる感覚、どれを取っても霊体時とは違い温もりを感じるものだった。

 私はそれに高揚感を感じ、思わず抱き返した。


「………ッて、そうだ! 何でこんな事になってるの? 声も普通だし……」

「説明したいのは山々なのですが………」


 エレノアがそこまで言いかけた途端、私は自分の身体が一気に軽くなるのを感じ、首を下に向けてどうなっているのか確認をした。

 するとそこで見えた私の身体は、エレノア同様きちんと色があり、次に見えた地面には見覚えがあった。

 驚いて周りを見るとそこは私の記憶の中で、前にエレノアと一緒に過ごした私の家があった。


「ここって!」

「ユウカ、このことは必ず説明します……だからまた、この世界に来てください」


 私の手を握り、口元近くでそう懇願するエレノア。するとまた身体が軽くなり、今度は身体も徐々に浮き上がってきた。


「ちょっと! ノア!」

「………ユウカなら、きっと大丈夫です」


 またもや視界が暗くなり、何も見えなくなった。



 何かが聴こえてそれに耳を傾ける。この状態は自分の意思ではなく勝手に暗くなる為か、慣れない気がするし恐怖心すらある。


「戻ってきたのか?」


 誰の声だろう。オルドムに似ているけれど、やけに大人しいからそうではないのは確かだと思う。


「早く目を開けろ」


 するとやはり視界は徐々に戻ってくる。これは一体何なのだろう。あまりこの感覚は好きではない。

 首を振りながらそう思う。するとようやく見えた視界に飛び込んできたのは、攻撃しようとせずに目の前で立っているオルドムだった。


「………ッ!」

「やめろ、もう争う気はない」


 勝負どころか、寧ろ負けそうだった状況の筈。それなのにこれはどうなっているのか。まさかいつの間にか戦いは終わっていたのか。

 私は思った。それなら先程まで闘志剥き出しだった私のこの感情は何処へ行けば良いのだろう。

意外と呆気なく終わった戦い……。

これでユウカの能力は最後です。多分。

まあ後はユウカの能力の説明と整理という感じですかね。多分……。

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