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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
操り人形編
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七十四話 神域の自覚<ニ>

 それはあまりに幼く、何処の誰が見ても警戒なんてしない。しかし私には、その小さな身体がとても強く、頼りになるものに見えた。


「ふむ………確かあの時は人形の体だったが………」


 霊体のエレノア。それは心の中にいるエレノアの魂を模倣し、全く同じような身体を造り出したもの。黒猫が殺される前の日に、私がふと思いついて出すことに成功した霊体だった。

 けれど今目の前にいる霊体は私が出したものではなく、エレノアが出したものと自分でそう言った。


(どうやって……)

(これは加護の力です。ユウカの加護の………)


 私はノアに加護と祝福を与えたと骸骨さんから聞いていたけど、それは新たな霊体を与えるだけのものだと思ってた。けど、他にもこんなことが出来るなんて………そういえば、同じことが出来る人が……いや、女神がいたよね。


 加護によって女神と繋がり、その者が保有する魂の模倣体であるスケルトンを召喚する力。そんなことをふと思い出しながら、造り出されたエレノアの霊体を近くで良く見つめた。

 すると透けて見える霊体の先に突然光ものが淡く見えた。


「あ!」

(させない………!)


 それは霊体を攻撃する為に急接近したオルドムだった。

 エレノアはそれに反撃する為霊体を動かし、オルドムに向かって攻撃させた。しかしその動きはとても遅く、人が手足を動かすのとは程遠い、まるで機械のようにぎこちがなかった。


「何だこれは」


 オルドムは半笑いで右手を軽く霊体の頭にぶつけると、私が出したどの霊体よりも簡単に壊された。

 そして次は私と言わんばかりに近づいてきた。

 それを見たエレノアは殆どが残っていない私の身体を動かして距離を取ると、再度自身の霊体を出してオルドムに攻撃を仕掛けた。


「ふん………何だ、弱いな。先程までのとは違い、耐久力もない、攻撃力もない………何がしたいのだ?」


 悔しいがオルドムの言う通りエレノアの霊体はとても貧弱で、普通に考えれば勝てる要素が微塵も見当たらない。しかし何故だろうか。私にはこの霊体が、エレノアの霊体が他のどの霊体よりも安心感がある。それはその姿を久しぶりに見たからとかではなく、もっと単純な、大きな力に守られているような感覚。


(諦めないでユウカ……!)

(ノア…………)


 オルドムと戦うことを諦めていた私にエレノアの言葉はとても眩しく、私の心はどうしようかと揺れ動いていた。

 私が戦ったとしても、どちらにしろこの世界からは逃げられない。それならば何をしたって意味が無いのではないか。けれどエレノアがこんなにも必死に私を守ってくれている。そんな考えが私の頭を悩ませた。


「ん? 動きが変わったが、戦っているのは別にいるのか?」


 ふとそう呟き一瞬動きを止めたオルドムだったが、直ぐにまた攻撃を再開してこちらに向かってきた。

 エレノアは以前それに対応しているが、とても劣勢で気を許せば一瞬で私は倒されそうだった。けれどオルドムの方は最初から本気ではなさそうで、エレノアと戦い始めてから手を抜いているように見えた。

 私はそれを見て無性に腹が立った。他人を見下し、それを悪いとも思わない。その態度に。


(分かったよノア。私は戦う)

(ユウカ………! 有難うございます)

(いいや、こっちこそ………それに逃げられないならオルドムに一泡吹かせてやりたいし、ニャン太にも会いたいからね)

(………いえ、最後ではないですよ、ユウカは………)


 今何か………ん!


 エレノアが小声で何かを呟いたように聞こえたが、その直後にオルドムが目の前まで迫ってきた為反撃した。

 まずは自分の霊体を元の状態に戻し、次にエレノアが操作しているのとは別の霊体を出してオルドムに攻撃させた。

 けれど私の出したエレノアの霊体は何故かその場から動かず、右手をこちらに向かってくるオルドムにかざした。


「今度は何だ」

「一体何を………もしかして!」


 その格好は何処かで見覚えがあり、そして同時に霊体へごっそりと吸われていく魔力が私にあの攻撃を、エレノアが持っていた最大の攻撃を思い出させた。


「ぬ!?」


 霊体はオルドムに向けて青白く輝く火球を放った。


(あれは………!)


 初めてエレノアに加護と祝福を与えたのは、ミノタウロスに壊されたエレノアの記憶を見た直後だった。記憶とは違う霊体に、初めて会った時とは違う性格。そしてもう一つ、エレノアの変化した部分はもう一つあった。

 それは強化されたエレノアの魔術。その前まではせいぜい火炎放射器程度の威力しかなかったエレノアの魔術。しかし加護を与えた後は爆弾のような高威力と、青く光る火が数々の敵を倒してきた。

 それを今、私の出した霊体がオルドムに向かって使った。


「これは………相当な威力だ……それに………」


 その青白く輝く火球は驚くことに、エレノアが使っていたのとは大違いの高威力と高速度でオルドムに攻撃を当てた。


「速いし爆発力も上がってる………それに攻撃を当てられた」

「ふむ……面白くなってきたな」


 オルドムはそう呟いて火球が当たった右腕を即座に治すと、相変わらずの速度で私の元まで攻撃を仕掛けにきた。しかし今のオルドムは先程までの退屈そうな様子とは違い、私と戦うことを楽しんでいるように思えた。


 オルドムは私に迫り、私はそれから逃げながらエレノアの霊体を出して火球で攻撃をした。

 一体の霊体から出せる火球の威力はとても高い。しかし一度火球を放つと、次に放つまで一から二秒程度の時間を要する。それは火球を放つための魔力を充填する時間で、集中すればもっと短縮出来る。


(ウッ………ノア!)

(はい!)


 オルドムの移動速度は途轍もなく速い。それに対してエレノアの霊体が放つ火球は速度が上がったとはいえど、オルドムにはまだ届かない。

 そして間近まで来たオルドムは私に殴りかかってくる。そこで私はエレノアに頼み、霊体を出させてその攻撃を防がせていた。


「きりがないな………」

「クッ……!」


 一体だけじゃ駄目だ。もっと沢山出して避けきれないほどの火球をあいつに放てば………。


 迫り来るオルドムから離れる為に私は一度外側の霊体との繋がりを絶ち、内側の霊体だけで移動した。

 そのお陰でとても速く、そして柔軟にオルドムから遠く逃げた。

 魔力を沢山使えばそれだけ魔術の威力も発動速度も上がる。それを踏まえた上で、私は出来るだけ広範囲にエレノアの霊体を大量に出した。


「いけ!」


 霊体に魔力が注がれ始め、造り出された数十の霊体が右手に火球を出した。

 そしてオルドム目掛け一斉に放たれた火球は、降り注ぐ雨の如く視界を埋め尽くして大きな爆発音を響かせた。


(やった?)

(………いえ)


 煙が晴れ、視界が元に戻ってくると無傷のオルドムが見えた。


(まだ足りない…………いや、効いているけど直ぐに治るのかも)

(………なにか………ユウカ!)


 オルドムを見て構える私はなぜか動かない様子に不信感を抱くが、その時エレノアの叫び声が聞こえ、私の視界はエレノアによって強制的に巨大なオルドムの方に向けられた。


(あれは!)


 オルドムは動いていなかったのではなく、巨大な方のオルドムを動かしていた。

 私は慌てて外側の霊体を治すが、それでは足りないかもとミノタウロスの霊体も出した。


 巨大なオルドムの強大な圧に思わず怯える私は、避けようとするが間に合わず大きい拳が私に命中した。

 最初は周りにいた大量の霊体が容易く破壊されていき、次に私の前にいるミノタウロスを攻撃した。ミノタウロスはその拳に押され後ろにいる私と共にオルドムの拳をひたすら耐えた。

 しかしその霊体も流石に耐えられず、壊された後は強力な攻撃が私を遠くまで飛ばした。


「う………」

(ユウカ、無事ですか!)

(大丈夫………)


 吹き飛ばされた衝撃で真下の雲を突き抜け、そこにあった四角形で石造りの大きい建物に激突した。そしてエレノアに聞かれ大丈夫とは言ったが、あの圧倒的な力に再度気力が削れた。


 しかし、諦めそうになったその時。何処からか謎の声が聞こえてきた。


(ユウカ………)

(この声、ノアじゃない………だれ?)

(感じて………)

(な、何を……)

(貴方の世界を……貴方だけの世界を……)


 それはとても艶やかで、耳にスッと入ってくる女性の声。でもそれはエレノアやアンナ、ましてやオルドムの声とも違う。

 しかし私はその声に聞き覚えがあった。

いつも投稿日に一話を書き上げています。

計画性がないのかもしれません。

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