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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
操り人形編
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七十二話 裁きの世界

 それは私たちが神都に来る前、道中で老人に出会ったことをキッカケに起きた出来事。オルドムという名の神を自称する男によって謎の場所に連れてこられた私は、そこで善悪がどうのと言われ裁きを受けそうになった。

 けれどあの時は何事もなく帰されて、結局オルドムが何をしたかったのかよく分からなかった。


「オルドムって、あの……? けどなんで?」

「それは………きっと、私の所為です」


 聞かれたからとはいえ、私の話した事によって芽生えた罪の意識は相当なものだっただろう。そんなことを考えもせず、純粋に質問に答えたあの時の自分を私は許せなかった。


「……でも、そいつの世界にいるとしても、それでどうにかなるんですか?」

「なるかもしれない。けど、それは神を敵に回すということと同義なのよ」


 神の世界。それは死後、或いは使徒の魂が行ける神だけが持つ世界。加護を得た信者が死後、魂を預ける場としているこの世界とは別の世界だ。

 そして神の世界はいわば、王が治める領土そのもの。仮にそこへ踏み入れようものなら、それは領土侵犯に他ならなく、神からすれば宣戦布告だ。

 ソフィアはそう言って私の覚悟を問うた。

 しかし私の覚悟は決まっている。まだ自由にもなっていないニャン太の幸せが、こんなにもアッサリと、無慈悲に終わっていい筈がないのだから。


「どうすれば、助けられますか?」


 私はソフィアに黒猫を助ける方法を聞いた。するとソフィアは思っていたより快く教えてくれた。私は信心深い筈なのに何故と質問すると、信仰しているのはティアナで、オルドムでは無いから自分には関係ないとのことだった。付け加えて個人的にそれ程オルドムを好んでいないらしい。



 ソフィアの自室から出た私は、自分の部屋に戻って今からやろうとしている事をアンナに伝えた。

 アンナは神と対峙することに反対なのか、最初は遠回しに止められた。

 しかし最後は私の熱意に折れたのか、心配する言葉を掛けると不満気に私を見送った。


 神殿を出てある場所へ向かう私は、ソフィアに教えてもらった黒猫を救う方法を思い出していた。

 それは今黒猫がいるかもしれない神の世界に行き、直接その魂を私が救い出すというもの。しかしその為にはどうにかして神の世界に行かなければならない。その方法として、私が前に行った瞬間移動があるという。

 前は私との繋がりを持った霊体間を移動したけれど、オルドムの場合は信者に繋がっている加護を辿ればいいとのこと。


「確か………あった」


 そこは少し狭い建物の間に位置していて、扉前にそこそこの広さがある空間を持った教会。前に私が立ち寄ったことのあるオルドム教の本拠地だ。

 今日は前と違い集まった人はそれ程多くなく静けさはあるが、教会内部から聞こえる祈りの言葉は淡々と耳に入ってくる。


 この中にいるオルドム信者の加護を辿り、神の世界へと…………。


 教会の壁をすり抜け信者を見つけた私は、魔眼を発動してオルドムとの繋がりを確認した。

 すると信者の何人かには何処かしらへ繋がる光の線があった。

 私はその中でも一際強い繋がりを持っている女性信者に目を向けると、スウっと近づいて加護の繋がりを間近で見てみた。


(………この人の加護にしよう)

(そうですね………しかしどうやって?)

(それなら前に瞬間移動した時の感覚を覚えているから………大丈夫だと思う)


 あの一度きりしか実践していないけれど、あの時の状況はよく覚えている。突然自分の作り出した霊体へ瞬間移動したあの時、私の内側の霊体は外側の霊体から離れていた。という事は、加護を使うにはこの霊体だけのならなくてはいけないということ。


 身体の中に見えるあやふやな形をした丸い霊体を見ながらそう考えた私は、まずその霊体だけになる為意識して内と外の繋がりを絶った。

 霊体の内側。魂を守る霊体は最後の生命線。ソフィア曰く、魂は霊体に守られていなければ直ぐに消えて無くなるという。

 そうすると今この霊体だけという状況は、屋外で服を着ていないことと同じ。


 そう考えれば少し臆病になるけれど、ニャン太の為と思えば安いものだ。しかしそうは言っても、この状態では何故か攻撃を喰らわない。これはエレノアから聞いたのだが、内側の霊体は最後の砦なだけに攻撃を当てるのは難しいらしい。

 実際私はアンデッドの大群が攻めてきたとき、霊体による霊体破壊は外側のものにしか通用しなかった。


 外側の霊体から離れた私は操作されずにいる虚な自分の身体がふわふわと宙に漂っているが見えた。この状態ならばオルドムの加護を辿っていける筈。


(………ふう)


 心の中で息を吐き気持ちを落ち着けると、私は目の前にいる信者の身体をすり抜けて魂の元へ向かった。

 しかしある程度近づいた瞬間、私の霊体は硬いのか柔らかいのか分からない謎の壁に抵抗され押し退けられた。


「ん、何かしら……?」

「どうか、しましたか?」

「いえ………気のせいです」


 信者に何かしらの違和感があったという事は、私は今魂を守る内側の霊体に触れたということ。


(触れられるの!?)

(ッ………!)


 これが内側の霊体だとすると、私は魂を消滅させることが出来るということ。

 しかし同時に、これで信者の魂に入り瞬間移動することが出来なくなったということ。


(そんな……)


 慌てふためき目の前にある霊体になんとか入ろうとするも、直前でそんなことをすれば信者が死んでしまうと踏み留まった。

 他に出来ることをひたすら考え、何処か入れる隙間などはないかと霊体の周りを見て回る私は、どうすればいいか分からずに黒猫を助けるという自信を段々無くしていった。


(どうすれば……!)


 何をすればオルドムの世界に行けるのか。私には黒猫を救えないのか。そんな思いが頭の中をグルグルと駆け巡り止まなかった。


 しかし突然、頭を抱えていた私は加護の光に自身の霊体が重なった瞬間に感じた奇妙な感覚に一瞬思考が停止した。目で見えていないのに見える情景に、聞こえる謎の声は私にあの場所を思い出させた。

 そして一度視界が暗くなると、次に元に戻った時には既に知らない場所にいた。


「……ここって」


 そこは石造りで巨大な円盤状の足場が宙に浮く空間で、周りを見渡せば真っ青に広がった空が広がっていた。

 驚きながらもその足場の端に行って真下を見てみると、下は雲が遮るように見通しを悪くさせ、たまに見える雲の下の黄色に近い光が雲を染めていた。

 そんな見たことも、聞いたこともない未知の世界。しかし全体から漂う既視感のある雰囲気は私が前に連れてこられたオルドムの世界に似ていた。


「これはこれは………誰かと思えばお前か………フッ」

「この声は……!」


 そこはかとなく伝わってくる傲慢な態度と、相手を萎縮させるような迫力の声。間違いない。これはオルドムの声だ。

 聞こえてきた男の声を聞いて一瞬でそう判断した。前にあった時と変わらない声に懐かしさすら感じながらも、前とは少し違うところもあった。それは私がこの声を怯えているということ。あの時は初対面とは思えないほど馴れ馴れしく会話していたけれど、今はその一声一声に攻撃されるような錯覚すら覚える。


「………あの、単刀直入だけど聞きたいことがあります」

「ほう……聞こうか」

「………ここに最近、黒猫が来たりしませんでしたか?」


 オルドムにそう問いかけた私は、声だけで姿が見えないのにまるで睨まれているように感じた。


「ああ、あの獣人か。黒毛の………フッ、それがどうかしたのか?」

「その子を、連れて帰っても良いですか? あの子は盗賊に殺されて、未来の幸せを……」

「幸せ? フハハ。あの獣人を助けに来たのか? フハハハ」


 まるでバカにでもするように、見下しているかのようにオルドムは高笑いをする。その声は反響して頭の中にまで入ってくる。

 そんなオルドムに多少後退りをしながらも、ここで逃げれば黒猫は助けられないと私は決意した。

 内側の霊体だけだった身体を外側も造り出し、足を地につけオルドムに向かって大声で叫んだ。


「あの子は、何処!」

「全く、愚か者が………しかし丁度良い。私の領域を侵犯し、罪人を解放しようとした罪。そしてそれ以前に、邪神カーラと同様の力を行使する大罪………今、ここで、私が、裁いてくれよう!」


 頭が潰れそうな程の大声で威圧するオルドムは、何もない空間から突然その姿を現した。光り輝く身体が私を包み、あまりにも巨大な姿が恐怖を与えている。

 ソフィアに忠告を受けていた私は警戒していたけれど、その姿と威圧力に足がすくんでしまう。しかし助けると決めた。


 誰が相手だろうと、あの子はもっと幸せにならなきゃいけないんだ。不幸ばかりの人生なんておかしい。生まれてきたからには………。


「何が神だ………!」


 私は地面を蹴って浮遊すると、人とも怪物とも言えないその巨大なものにミノタウロスの霊体を繰り出した。

よし! 次の回から戦闘です!

正直なところ戦闘描写は苦手かもしれません。

ですが頑張りたいと思います!

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