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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
操り人形編
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七十一話 定着と解離

 いつになく騒々しいが不快ではなく、かと言って心地よいとも言い難い雨の日。それは神殿で度々感じるそよ風のような透き通った気持ちとは違い、とても閉塞的で陰鬱で、不安に思ったりもするけれど、私はこの雰囲気が気に入っている。


「……結構降ってるね」

「そうですね」


 窓に当たる大量の雨粒が思いの外大きいを出している。私はそれを見ながらアンナとそんな会話をした。もう朝ではあるけれど、雨雲のせいで部屋は暗くなり、私がつけたランタンの灯りが輝いていた。こういう雨の日はまるで自分が孤独かのような気持ちになるけれど、ランタンの灯りとアンナとエレノア、二人との会話でその気分は紛らわされていた。


「遺跡破壊に行けるかな?」

「ユウカ様、今日は……」

「あ、そうだった」


 雨の中遺跡破壊へ行こうとしていたのを止めるアンナの言葉に、私は昨日の出来事を思い出した。


「ソフィアもいきなりなんだから………」


 昨日の夜。ちょっとした実験を終えた私はベッドに入って寝ようと思っていたが、その直前に壁からスッと出てきたソフィアにそれを邪魔された。私は二回目にも関わらず驚いてしまったが、用件を聞いてみると、今日自分の身体に戻るから加護はその時に絶ってもらって良いということで、それは今言わなければいけないことなのかと私はドッと疲れた。


「………もう加護はいらないのか」


 何故かは分からないけれど、ソフィアに今与えている加護を絶つのは寂しい気がした。


(もうそろそろ行こうかな)

(確かあの場所でしたよね)

(うん)


 ソフィアの身体と霊体を定着させるのは、私がソフィアに加護を与えた部屋で行うことになっている。私はその時のことを思い出しながら部屋へ向かった。



 頭蓋骨のアンナはそう簡単に出歩けないので部屋にいさせて、私は壁をすり抜けて進み最短距離で部屋に着いた。

 中に入ってみると台座にソフィアの身体と、それを見るソフィアたちがいた。


「あ、来たわね」

「すみません遅れて」

「構わないわ。さ、始めましょう」


 いよいよ身体に戻るソフィアはとても嬉しそうに見えた。


 そういえば私は人形にしか定着したことないけれど、肉体に定着するのとはやっぱり違うのだろうか。


 そう疑問に思っていると、ソフィアは自身の霊体を肉体に重なるようにして、暫くの間静かに待った。

 するとソフィアの霊体が徐々に肉体の中に入っていくように透けていって見えなくなった。


「………ハッ! ゴホッゴホッ」

「ソフィア、苦しくはない?」


 ソフィアの母親は咳き込んで疲れた様子で横たわるソフィアを見ながらそう尋ねた。

 それを聞いたそソフィアはとても気怠そうに大丈夫と返事をした。肉体に定着すると疲れるのか、起き上がれない程グッタリしている。


「うう………あ、ユウカ、加護を……」

「は、はい!」


 よし、加護を絶とう……けど一体どうすれば。ソフィアに説明出来る気力は無さそうだし。そういえば加護ってこの光る繋がりの事だったよね。それなら一度あの怪物のを絶ったことがある。


 私は怪物と繋がっていた光りを手で遮り、その繋がりを絶ったことを思い出してそれをしようとした。

 しかし私と繋がる光りをいくら遮っても繋がりは絶たれず、それは魔力の強度を変えても同じことだった。


「あれ……?」

「どうかした?」

「それが、上手く出来なくて………」

「そう………それならまた今度にしましょう」


 相当今の状態が辛いのか、ソフィアは眠たそうにそう言い、一人の女神官に自分を抱き抱えさせると部屋へ帰っていった。

 私はそれを見送ったあと、自室に帰る途中に監獄が見えたので気まぐれに黒猫へ会いに行った。


「おはようニャン太」

「ん? ああ、お前か」


 私のことはお前呼びなのね………。


 黒猫と話すのも随分と経つが、教えたばかりの名前を呼んでもらえないのに若干傷ついた。

 しかしきっと名前で呼ぶのが恥ずかしいのだろうと、黒猫の顔をチラリと見た私は、何処かいつもより元気がない様子を心配した。


「大丈夫?」

「ニャにがだ?」

「いや、その………」


 やっぱり元気が無い気がする………けどなんでだろう? 昨日は楽しく遊んでたのに。普通に疲れたのか。それとも雨が降っているから?


「ニャア、ちょっと考えたんニャけど」

「ん?」

「お前は昨日、悪いことをしたら怒られるといったよニャア。それニャら俺はどうニャんだ?」


 暫く黙っていた黒猫は突然口を開くと、昨日聞かれた神罰についてのことを聞かれた。もしかしてそれを悩んでいたからあんなに憂鬱そうだったのかと思った私は、黒猫のその質問にどう答えればいいか考えた。


 確かにニャン太は殺しを沢山やってきているから、そう思うのも仕方がない。けれど私は、それが自分の意思ではなく、誰かの命令なら悪いのはニャン太ではなく、命令を出した奴らだと思う。


「悪いのはニャン太じゃないよ」

「そう、ニャんだろうか………」


 私にはどう言えば納得して貰えるか分からなかった。

 黒猫は不満足なのか、半開きの目で床を見つめている。


「ユウカ、俺は償わニャければいけニャいと思う。悪いことをしたから。どうやってかは、分からニャいけど………」

「………」


 そういう黒猫の姿に私は、どこか後ろめたいような気持ちになった。それは罰というものを受けるのは自分の方なのではと思ったからだった。


 人を殺しているのは私も同じ。だけど私は命令された訳じゃなく、自分の意思で殺してしまっている。それなら、私は………。


(あれは私を守ろうとして………! だからユウカは……)

(ありがとうノア)


 そんな暗い話しが続いたあとは、いつも通り黒猫と談笑をした。すると段々黒猫の表情は明るくなってきて、私も楽しい時間を過ごせて満足だった。

 それから話しを終えた私は、律儀に壁をすり抜けずにきちんと監獄の扉から外に出た。監獄の扉はすり抜けたけれど。


「ん………?」

(どうかしましたか?)


 神殿に帰る途中、道端ですれ違った男に違和感を覚えた私は、思わず振り返って男を見つめた。それはどこかで感じたような雰囲気に似ていて、私は会ったことがないか思い返してみた。


(………いや、気のせいかな)


 しかしローブを着ていたので顔は見れなかった為、背負っている長い荷物が気を引いたのだろうと思い、神殿に帰ろうとした。

 だが私が数歩だけ進んだ瞬間、雨の音でもかき消されないほどの爆発音が響き渡った。


「なに!?」


 驚いて音のした方をみた私は、そこが男の向かった方で、監獄がある場所だと気づいた。

 あの男が犯人なのかと思ったが、そこでふと黒猫の安全を心配し、私は急いで黒猫のいる地下に向かって飛んでいった。

 けれど監獄に到着した私の目に入ったのは、監獄が半壊した様子と、そこにいた数人の兵士が倒れている光景で、思わず倒れている兵士に近づいた私は、


「大丈夫ですか!」


 と、揺さぶっても動かない兵士にひたすら声を掛け続けた。

 しかしその少しの時間でもう一度爆発があった。今度は地下からの爆発で、赤く光ったかと思えば突風が一気に私を突き抜けていった。


「一体なにが……ハッ!」


 私はそこである事に気がついた。それは爆発のあった場所が黒猫の檻と近いということと、次にその爆発を起こした犯人のこと。あの雰囲気に背負った荷物、そして爆発という、昨日逃げられた盗賊かもしれないと、そう思った。

 そしてそう考えた瞬間、最悪の状況が目に浮かんでしまい、青ざめた私は壁をすり抜けて黒猫の檻に近づいた。


「あ……嘘」


 そこには何も無かった。黒猫も、黒猫を入れていた檻も。その周囲は焼け焦げた地面と、散らばった瓦礫の山で、まるで昨日の遺跡爆破の後のような光景だった。


「う、うう……ははは……ざまあみろ、獣人が」


 瓦礫を押し退け姿を現した男は、手に持ったソフィアの剣を握りしめてそう言った。男の顔は昨日逃げた盗賊と同じだった。

 私は男の傲慢な態度に怒り、有無を言わせずミノタウロスのスケルトンを召喚して男を攻撃した。


「なんだコイツッ……あッ!」


 ミノタウロスの拳は倒れている男の顔面に当たり、辺りの地面一帯に大量の血を広げた。


「……この、この……!」


 拳を退けて見えた男の顔面は、ミノタウロスの攻撃で原型を留めないほど破壊されていたが、私はそれでも怒りが収まらずにもう一度攻撃しようとした。

 しかしその瞬間、男の首からなにやら気色の悪い神経のようなものがウネウネと動いているのが見えた。それは徐々に元の形に戻っているようで、他の筋肉や骨も動いている。


「コイツ……まさかネスロの!」


 大きな傷を負っても再生し、とても高い身体能力を持つ。それはまるで、神都に攻め込んできたアンデッドそのもので、そいつらはネスロの加護を受けていた。それならばこの男も加護を受けているのではと、私は一瞬でその考えに至った。

 そしてそれなら霊体を破壊すればいいと、ミノタウロスの霊体を出してもう一度攻撃させた。


(ユウカ、落ち着いて!)


 エレノアの私を止める声が聞こえて我に帰った。


(ご、ごめん……どうかしてた)


 頭に手を置いて落ち着こうとする私は、止められなかった怒りが一気に引くと、力が抜けて地面にへたり込んだ。

 男を見るともう再生は出来ておらず、霊体も大半が無くなって今も段々消えているところだった。


「なんで、こんなことに………そうだ、ニャン太は?」


 もし仮に死んでいたとしたら、近くに魂がある筈。


 私はそう思い魔眼を使ってあちこちを見回した。けれど周りにいる霊体はどう見ても黒猫のではなく、他の囚人の霊体だった。

 ふと倒した男の霊体を見てみると、中にある丸い霊体が浮き上がり、何処かへ飛んでいってしまった。


「どういうこと?」

(ユウカ、一旦ソフィアの元へ……このことを伝えに行きましょう)


 わけもわからず混乱する私にエレノアはそう言い、一先ずそうすることにした私は男が持っている剣を取り、神殿のソフィアがいる部屋まで飛んでいった。


「ソフィア!」


 部屋に着いた私は焦りながらソフィアの声を呼んだ。

 するとソフィアはベッドからゆっくりと起き上がり、「どうしたの」と私に問いかけた。私はことの経緯を整理出来ていないままソフィアに伝えた。


「そんなことが……ん、その剣は」

「あ、これ」


 私は持っていたソフィアの剣を渡してその剣を持っていた男を殺したことも話した。


「そう……それは辛かったわね。あの子のことは……」

「その事で聞きたいことがあって……あの場所にはニャン太の魂が無かったんです。どこを探しても……」


 死んだ後は魂が身体から離れる筈。けれどあの場所に黒猫の魂が無かったのは何故なのか、私はそうソフィアに尋ねた。


「ユウカの世界にいるんじゃない?」


 加護を得ているのならば死後その者の元に召されるとソフィアは言った。

 それならスケルトンか、若しくは霊体として出せるはずと試してみるも、何も出てこなかった。しかしよくよく考えると、黒猫が殺された時に見える筈の魂が見えなかったことから、私以外のところへ行ったのではと考えた。けれど昨日の時点で私以外の加護は見えていなかったので、それが余計に私の頭を悩ませた。


「加護をいきなり……となると加護を与えた者は神か……しかしどの神が。心当たりは無い? ユウカ」

「心当たり?」

「ええ、例えば何か祈りを捧げていたりしていたとか」


 私は必死に考えた。私が黒猫に加護を与えた後から、何か他の加護を与えられるようなことを言っていたなかったかなど、記憶をとにかく探った。



 けれど何も思い出せずに私は、ソフィアの部屋で小一時間膝を抱えていた。


(償い………)


 するとエレノアが突然聞いたことのある言葉を呟いた。それは黒猫が死ぬ前に私と話していたことで、自分がやってきた悪いことの罪を償うという決意の言葉だった。


(ユウカ、ニャン太さんは言っていました。神罰や、償いという言葉を)

(確かに言ってたけど、それだけじゃ……)

(私は心当たりがあります。そんなことを言いそうな神に)

(それって!?)

(ユウカの記憶を見て知った、裁きの神オルドムです)


 エレノアの口からその名を聞いた私は妙に合点がいって、確証もないのにそれが正しいかのように思えた。


「オルドム………」


 確証はない。しかし、私は少ない可能性からそれを信じた。

結構頑張って投稿していると思います。

ストックした方がいいのかなとも思いますが。(あ、アニメみよ

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