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死霊術士は生き還る  作者: ク抹茶
操り人形編
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七十話 不運な

 黒猫が探し当てた盗賊たちの隠れ場所に乗り込んだ私とソフィアは、そこにいた盗賊たちを捕まえようと迫ったがあと一歩のところで逃げられてしまった。その後のソフィアは暫くむしゃくしゃしていたが、落ち着くと一緒に来ていた兵士を連れて神都に帰って行った。そして私はというと黒猫の気分転換に暫く外で遊ぶことの許可をソフィアから貰っていた。


「ぬう………」


 昨日まで狭い場所に閉じ込められていた黒猫は、久しぶりの自由をとても楽しんでしんいるようだった。

 今も草の茂みに潜み、木の枝に止まって鳥が木の実をつついているのをキラリと光る鋭い目で見ながら狙っている。


「………!」


 黒猫は息を殺して飛び出すタイミングを待ち、鳥が黒猫とは反対の方を向いた瞬間に地を蹴って勢いよく飛び上がった。

 しかし流石に鳥までの距離が遠かったのと、鳥も直ぐに察知して飛び立ったのもあって逃げられてしまった。


「ああ、残念」

「ニャまったかニャア?」


 私は飛び立った鳥を見ながらピョンピョンと飛んだり跳ねたり、おそらく人間には出来ないであろう動きを難なくやってのける黒猫を見ながら、帰ればもう一度檻に入れられるのかと考えていた。確かに黒猫はソフィアの剣を盗んでいるけれど、私はそれが命令されてやった事だから檻に入れるのは可哀想だと思った。


 そういえば、猫ちゃんの名前聞いてなかった。


 今更だが忘れていた自己紹介をしようと楽しそうに動き回る黒猫が止まるのを待った。

 そして黒猫が一旦動き回るのを止めると、私は近くに行って取り敢えず名前を聞いた。


「俺のニャまえ? そういえば言ってニャかったか………でも残念。俺にニャまえはニャいんだ」

「そう、なんだ……」


 そっか。親に名前を付けられる前に売られたんだもんね………。


「ちニャみにお前のニャまえは?」

「あ、私の名前はユウカだよ」

「ゆうか………? 変ニャの」


 まあそりゃ、日本人の名前だからね。でも自分の名前を変と言われるのは初めてだから、少しモヤモヤする………それにしても猫ちゃん、名前無いのか…………でも、あったら嬉しいものだよね。


「ねえ、名前だけど、私が付けるっているのはどう?」

「お前が………? まあ別にどっちでも」


 黒猫は素毛なくそう言うが内心嬉しそうなのが見え見えで、私はそれで喜び思わず微笑んだ。


(でも、そうだな、どんな名前にしよう……)

(そうですね、ウゥン………)


 エレノアは意外と深く悩むなと思いっていると、今まで着いてきていたのに黙りだったアンナが突然口を開いた。


「モフニャン……は、如何でしょうか?」

「え?」

「モフニャンです……!」


 あまりに唐突な提案だったのと、全く予測していなかった名前に思考が追いつかない私は、思わずポカンとアンナを見つめていた。

 静かになった私にアンナは慌てて提案したモフニャンという名前候補を取り下げた。


 軽い気持ちで提案したけど、思っていたより名前決めって悩む…………お母さんは、どんな思いでユウカって名前にしたんだろう? あまり気にならなかったから聞かなかったけど、聞いておけば良かったかな………もしかしたらもう、会えないかもだし。


「まだかニャア?」

「あ、ごめんごめん。そうだな………」


 ふと両親のことを思い出して少し憂鬱になった私は、黒猫の待ちくたびれた声でひとまず名前決めの事だけを考えた。


 猫だからクロとか? ありきたり過ぎるかな? あ、それに毛が黒いから売られたのに、この名前は考えなしか。それならニャン吉……いやニャン吾郎………そうだ! さっきの鳥を狙うハンターのような姿とニャンを合わせて、ニャン太にしよう! うん。


「ニャン太……でどう?」

「ニャ、ニャン太? ニャんというか……ま、まあ良いじゃニャいか」


 あれ? あんまり良くない感触。そんなに悪かったかな?


「ここら辺にいるのか?」


 すると近くで男の声が聞こえその方に振り向いた私は、そこに三人の男女の冒険者がいる事に気がついた。

 黒猫は声が聞こえる前にもう既に隠れていたようで、少し離れた物陰に隠れている。冒険者を見ると二人の男は剣や盾を持っているが、もう一人の女はそういった武器を持っておらずに神官のような白い服装をしていた。


「ニャんだ? あいつら」

「多分、依頼を受けてここらにいる獣なんかを倒しにきたんじゃないかな?」


 ヒソヒソと物陰で私が黒猫にそう教えると、黒猫は納得したようにふうん、とつぶやいた。


「主はゴブリンどもを滅せよと仰られています」

「ゴブリンに天罰か?」

「神罰よ」


 冒険者たちの口ぶりからゴブリン退治に行くのだろうと察した私は、神官の女とソフィアに似たものを感じていた。


「私、生理的にゴブリンが苦手なんだよね」

「………」


 神都に来たばかりの時ソフィアに連れられ行った、ゴブリンの洞窟での出来事を思い出して気分を悪くしつつも、何故か静かに冒険者らを見つめる黒猫を私は横目で見た。

 そうしているうちに冒険者は何処か遠くへ行ってしまった。


「……どうかしたの?」

「………ニャア、ユウカ。神罰ってニャんだ?」


 黒猫の態度にどうしたのかと心配になった私は、場所を変えて剣が落ちて爆発したところの近くにある川まで来た。


 気づかなかったけど、ここってあのゴブリンがいる洞窟の近くにあった川だ。ということは………あの爆発した場所って洞窟か。それならゴブリンたちも助からなかっただろうな。


 先日のことなのに随分と懐かしく感じる場所に思いがけず来た私は、不運なゴブリンとのことを思い出した。

 しかしそれよりも黒猫の質問に答えようと神罰の意味を考えた。


「神罰についてだけど……に、ニャン太」

「ニャア……言い難いならニャんでそのニャまえにしたんニャ」

「ぜ、全然言い難くないよ。ニャン太………コホン。それで神罰っていうのは、神様の下す罰ってことかな」


 我ながら説明が下手だなと思いつつも、黒猫の更に疑問を募らせていく表情に改めて、出来るだけ考えた説明をした。


「えっと……悪い事をしたら怒られるでしょ? その怒ることを神様がやってる感じかな」

「ニャるほど………」


 結構考えて出した答えに満足しながらも、それを聞いて何故か黙っている黒猫が何を考えているのか気になった。しかし折角久しぶりの外ということもあるので、私は楽しんでもらおうと暫く黒猫と一緒に遊んだ。

 そしてそんな一日はあっという間に過ぎて黒猫は檻に戻り、私は黒猫を送り届けた後神殿にいる不機嫌なソフィアに軽く挨拶をした。相変わらず怒っている時は怖いソフィアだった。


「それにしても、霊体って便利だよね」


 私は神殿の部屋で眠るアンナの横で、自身の透ける霊体を見つめながら昼の戦いを思い出していた。


 魔力を調節すれば一切の攻撃を喰らわないで一方的な攻撃が出来るし、戦い以外でも色々、例えば食べ物がいらないから貧困に喘ぐこともないし、空を飛べて疲れもしないから働くにも便利だろうし。


(………霊体か。そういえば気にしてなかったけど、なんで私は霊体を出せるんだろう?)

(…………単に、ユウカがそういう力を持っているだけでは?)


 初めて出したのは………そう、ミノタウロスの霊体で、あの怪物を倒した時だった。あの時は確か、私の力じゃ怪物の霊体を壊せないからと思った時だった………いや、正確にはミノタウロスのような力が欲しいと思ったときか。


 そこまで考えたところで私はふとある事を思い出した。それはミノタウロスの霊体を出した時と同じく、初めて人間以外のスケルトンを召喚した遺跡での出来事。


 確かあの時は倒したミノタウロスを思い出してスケルトンを召喚しようとしていて、怪物と戦った時も同じような………。


「………少し試してみようかな」

(ユウカ………? そんなことが!?)


 私が思いついたこと。それはミノタウロスや人間の霊体が出せるのなら、エレノアの霊体も出せるのではないかということ。

 そうして私は右手を目の前に出すと、エレノアの姿を思い浮かべながら霊体を出した。


「お………!」


 それを見るまで、私は半信半疑だった。けれどその透けた身体と小さくて見覚えのある整った姿は、何処からどう見ても霊体のエレノアだった。



--盗賊の男視点--


 ユウカたちが神殿に帰る前。仲間を顧みずに剣の力を使い、ソフィアの手から逃げ延びた男は遺跡から少し離れた木の上にいた。


「うう……くそ! いてえ」


 剣の力を使って逃げたは良いが、その剣の所為で全身が火傷し剣を握っていた右手は肩の辺りまで無くなっていた。しかしなんとか剣はもう一つの腕で離さないよう持っていた。


「あの女………!」


 男は自身を追い詰めたソフィアに恨みを向けながらも、負傷で動けずにいる状態をひたすら嘆いた。

 すると突然、男の身体におかしな出来事が起こり始めた。なんと無くなっていた右腕の骨が生え始め、そこに肉がつき始めたのだ。他にも火傷や傷も徐々に、ほんの僅かにではあるが治癒し始めていた。


「痛え! 痛え! なんだよ! めちゃくちゃ痛えじゃねえか………ネスロめ、これが加護だと………? あ?」


 思いの外激しい治癒の痛みに我慢しながらふと遠くを見た男は、そこにいた黒猫を見て目が離せなくなった。はじめは一人水辺で遊ぶ黒猫を不思議に思いつつも、そこで男はある疑問が思い浮かびその結論を即座に導いた。


「まさか、まさか…………あいつが俺たちのいる場所を………」


 そこからは向けられた恨みがソフィアから黒猫へと変わり、楽しそうに走り回る姿にはらわたが煮え繰り返った。


「ぶっ殺してやる………!!」

操り人形編も中盤です。

もう少しでユウカは新しい能力を手に入れることができます!


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